【僕は何度も生まれ変わる】 十文字青/ だーくろ(gumi/gg2)  角川スニーカー文庫

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ある日、僕は死んだ。享年29歳。しがない社畜の儚い末路だった―はずなのに、まさか生まれ変わった…のか?でも、僕はまた死ぬ。運命の悪戯なのか。死んでは生まれ変わり、そのたびに“彼女”が僕を殺す。漆黒の髪。赤い眼。僕を“劣等種”呼ばわりする“人間の帝国”の彼女が。そして、とうとう5回目の人生。成り行きでとるにたらない傭兵暮らしをしていた僕の許に、突然アークラントの“魔王”から使者が来た。はあ?僕が魔王の隠し子だって…!?―これは何度も生まれ変わった挙句、何の因果か魔王の血を受け継いだ“僕”がやがて英雄へと至る物語―泥臭くも華麗なる大逆転劇が幕を開ける!

これ、【何度「でも」生まれ変わる】ではなく【何度も生まれ変わる】というタイトルなんですよね。生まれ変わることに対して能動的でも前向きでもなく、結果として生まれ変わってしまうという完全受動。それもそのはず、その死は常に強制的で理不尽で生まれた人生を精一杯生きようとしていた意志を踏みにじられての結果だからだ。
夢も抱いた、希望も持った、野心だってあったし友情に魂をたぎらせたことも、恋に身を震わせたこともある。そのすべてを、同じ人物に見える帝国の姫によって無残に踏みにじられていく。
わずか齢18にして、すべての人生が断ち切られてしまう。
迫真であるのは、これらの短い人生を描いた場面がそれぞれ一本の小説を描けるくらいに、多分ちゃんと主人公のその生について設定とか詰めてたんだろうな、と思わせるところである。最初から途中で終わっちゃうから、という前提で上辺だけ繕ったものじゃなくて書こうと思えば、あの姫による一刀両断の断絶がなければ、幾らでもその人生における「彼」を主人公として物語を書けるだけの背景を積んだんだろうな、と思わせてくれる迫真が感じられたんですよね。
実際どうかはわかりませんけど。
だからこそ、失われた人生の重さを感じるし、生まれ変わるたびに時代が何十年も進んでいることに歴史を感じ、過去にどれだけ想いを取り残しながら新しい人生を生きていかないといけないかを感じ、その決意を垣間見るからこそ傍若無人にそれを刈り取っていく姫の理不尽に慄くのである。
それでも、何度も繰り返されるとルーティーンになってしまいそうなところで、最後にはじまった第五の人生、そこでその前の人生における大切な繋がりが今世に繋がっていることがわかったとき、それまで一方的に踏み潰され掻き消されていった人生が確かに在ったことだと感じ取ることが出来て、今までの五回の生まれ変わりが全部地続きになる感覚を得ることになるのだ。

同時に、唐突な災厄という感覚だった帝国とその姫という存在が、ひたひたと押し寄せてくる現実的な脅威として現れるんですね。明確な、戦うべき敵として。倒さなければならない相手として。
この人生で、翻弄されながらも大切な関係が幾つも生まれ、つなげることが出来たことで、より深くそれらが失われる、奪われる、消し去られてしまう恐怖を味わうことになり、だからこそ今までよりもより強く、帝国の侵攻に抗わなければならないという強迫観念に突き動かされることになるのである。
どこか諦めに近い惰性の人生を歩んでいた少年が、突然末席とはいえ王族となり、帝国に対抗するための政略結婚の駒とされ、そこで自分を慕ってくれる王女と出会い、偉大なる王たちと出会うことになり、今度こそ理不尽な死に抗うために、今度こそ守るべきものを守るために死力を振り絞る。
相変わらず、この作者の主人公らしくボロボロになりながら、自信なんて欠片も持たないくせに死に物狂いになりながら。

しかし、何度も生まれ変わる主人公の謎もさることながら、同一人物ではないにも関わらず、同じ容姿同じ異常さを持って、時代を超えて主人公の前に立ちふさがる姫将軍。彼女の正体こそいったい何者なのか。少なくとも、彼女が抱えているものが明らかになってからが、この物語の本番なのではないだろうか。
この巻で、彼女が決して自動的な災厄などではなく、異常ではあっても意志をもち感情を持ち得る一個の人間であることは明らかになったにせよ。彼女自身は、何も知らずわかっていないのだとしても。
少なくとも、主人公とかの姫将軍を結んでいる因縁の正体が明らかになってから、ようやくこの作品の方向性が掴めるような気がする。さて、この一巻でプロローグの終わりまで進んでいるのかどうか。二巻を以って判断するほかないようだ。

十文字青作品感想