【異世界拷問姫 7.5】 綾里 けいし/鵜飼 沙樹  MF文庫J

Amazon
Kindle BOOK☆WALKER

これは櫂人やエリザベート、ヒナ達が過ごした日常、夢のように幸福な記憶―遠い日々。櫂人は悪夢に悩まされ、エリザベートは狂信者に押しかけられ、ヒナは行方不明になっていた?また、終焉回避後の『ある日のこと』、櫂人とヒナの提案で、エリザベートの治安維持部隊隊長就任三周年目を祝う宴が開催されることになり…?天然たらしっぷりを発揮するイザベラ?のろけるジャンヌ?ヴラドにウザ絡みする『肉屋』?会場はカオスな様相を呈するが…?Web連載短編に書き下ろし小説&イラストを加えた豪華短編集。これは幸福の断片、そして先へ繋がる物語。

こうしてみると、エリザベエートと櫂人の二人きりだった頃はまだ二人の関係ってぎこちなかったようにも見える。それだけ、まだお互いがお互いを知らず、打ち解けていなかったからとも言えるのだけれど、やはりヒナがここに加わってこそ彼らの関係が完成したと言えるのでしょう。
それは、ヒナとカイトが一緒の時のエリザベートの緩みっぷりを見れば自明のことかと。あれだけ峻厳な生き方をしているエリザベートが、ヒナとカイトが一緒の時の何事もない日常の際には本当に気を許し切っているんですよね。許しすぎて、若干ポンコツ化するくらい。ヒナってば、あれだけカイトに尽くしながら、同時にエリザベートも甘やかし尽くしてるからなあ。ヒナが行方不明になった時のカイトとエリザベートのコンビのシッチャカメッチャカな姿を見せられると、ヒナってわりと尽くしてダメにするタイプのメイドでお嫁さんなんじゃなかろうか、と思ってしまう。
まあ、いざという時のカイトとエリザベートが求められる地獄を思えば、普段がダメ人間のポンコツになってしまうくらい緩ませて甘やかせて労り愛し尽くすのもまた十分な仕え方とも思うのだけれど。同じくらい、カイトやエリザベートの方もヒナのことを愛で尽くしているわけですし。ふたりともヒナに対しては尋常ならざる過保護っぷりだもんなあ。ヒナが居なくなった時の二人の焦り方といい心配のあまりむちゃくちゃしだす様子を見ていると、ほっこりするやら苦笑してしまうやら。
それだけ、三人が三人であることが完成していて、満たされていて、この上ない幸せの形だったのだ。遠からず、それが終わってしまうことがわかっていても、悪人は地獄に落ち、その従者が粛々とその終焉に付き従うことが決められたことだったとしても、彼らにとってこの時間は安らぎであり確かな幸福だったのだ。
望外なことに、たった三人の閉じた世界ではなく、彼らの幸せを祝福してくれるような人間関係も新に育まれていく。肉屋も、ジャンヌとイザベラも、リュートたちも、あの夢に現れた人たちはつまるところエリザベートにとっての幸せの記憶のなかに輝いている存在なのだ。
だから、エリザベートはその輝きを胸に終わることになんの後悔も未練もなかったはずなのに……。
現実は、幸福のほうが彼女を置き去りにしていってしまった。いつまでもずっとそばにいると誓ってくれた最愛のヒナとカイトの二人は、エリザベートを守るために置き去りにして近くも遠い場所に行ってしまった。
これは、この巻は、その事実をエリザベートが再び噛みしめる物語。思いと決意を新たにする物語。
掛け替えのないものが残してくれたものを、もう一度確かに胸に宿すための物語。

さいごに、この世界を憎み呪って破滅を願った聖女の、本音の先の本心が心にしみる。
本当の願いが、剥き出しにされた想いが紡ぎ出した赤子のような、赤心の言祝ぎが胸を突く。
聖女は、あの世界を呪った無残な聖女は、それでもなお、聖女たらんとしている。かつて世界を憎んで破滅させようとした者として、やるべきことを成すために。
世界という舞台から転げ落ちたはずの落伍者が、もう一度メインプレイヤーとして立ち上がる。
エリザベートの絶望で孤独な戦いに一石を投じる、これこそが希望の一手と信じたい。

シリーズ感想


それはそれとして、ジャンヌだけがひたすらラブコメ時空に生きていてなんか揺るぎないな!!