【星系出雲の兵站3】 林 譲治 ハヤカワ文庫JA

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天涯でのガイナス戦大敗の責を負い、閑職に移った火伏礼二少将。艦隊再建が進む出雲では、新たに軍務局の吉住二三四大佐が壱岐方面艦隊の兵站監に着任、独立混成降下猟兵第一連隊のシャロン紫檀大佐とマイザー・マイア少尉は、起死回生の新兵器“原子熱線砲”の開発現場を密かに訪れていた。一方、特設降下猟兵小隊を率いるアンドレア園崎大尉は、因縁の戦場、天涯への威力偵察を指揮することになるが―シリーズ第3弾。

新たに着任した吉住兵站監が痺れるほどに格好いい!! 巷では地味で目立った活躍を見せていないことで無名に近い人なのだけれど、知る人ぞ知る数少ない本物の「プロフェッショナル」なのである。
彼の真骨頂はまさにその地味で目立たないところで、これってすなわち彼の管理下では問題らしい問題が何も起こっていないということなんですね。
大きなトラブルが発生した時、これを颯爽と解決する人はそりゃ目立ちますし喝采も浴びるでしょう。しかし、現実には大きなトラブルが起こってしまった時点でそこには問題が発生してしまっているのです。何らかのミスが有り、構造的問題があり、組織的不具合があり、ヒューマンエラーがあるからこそトラブルが発生してしまう。それを解決するというのは、起こってしまったことに対する対処療法に過ぎないわけで、発生してしまった時点で時間的にも費用的にも計画的にも損失は形状されてしまい、しわ寄せは後ろへと回されてしまう。
もちろん、トラブルが起こったことで問題となる部分が露呈してそれを解決するためのきっかけになる、という良い面もあるのでしょうけれど、それらをトラブルが起こる前に処置し調整しまとめてしまうことこそ最上。そして、万事を万難を排してなんの問題も起こさず順調に計画通りに想定外の出来事が起こらないように対処して実行する、これを特別でもなんでもない当たり前のこととして淡々とこなしていく、これこそが本物のプロフェッショナルなのである。
吉住さんは、あの辛口な火伏をしておそらく最高の賛辞であろうこの「あの人は本物のプロフェッショナルだ」という言葉を捧げられるほどの人物なのだ。
自分では、既に出来上がった道の上を予定通りに計画通りに進めるだけしか出来ない、と卑下……卑下だよね、これ。卑下するばかりな吉住さんですけれど、前回のあの行き当たりばったりで何も考えていない作戦計画に、計画失敗を前提とした兵站計画を上の認可なしに無理やりアクロバットに運用してようやく空挺部隊の救出に成功したような無残なドタバタを散々見せられたところですから、吉住さんの絶対にトラブル起こるに違いない欠陥兵器の運用や、かなりタイトな艦隊運用計画をなんの不備もなく安全性もマージンも確保して十分に余裕をもたせながら無駄らしい無駄もなくあるべき場所欲する場所に必要なものを必要なだけ必要なときに用意してみせる、あの完璧な兵站運用の見事さはもう感動すら覚えるほどの機能美で、シャロンが手放しで絶賛するのも水神司令官が感嘆に言葉を詰まらせるのも当然すぎるほど当然と思えるのです。
それをしかし吉住さんは誇るでもなく、やるべき事をやっただけ、仕事をしただけ、というあくまで当たり前のことを当たり前にしただけで褒められることなどなにもない、という淡々とした態度。
これがプロだよ!!
何気にこれ、吉住さん。以前から火伏が主張している「兵站の失敗が英雄を誕生させる」という言葉の意味するところ。すなわち、兵站が万全ならば戦争に英雄の生まれる余地も必要もない、というのを見事にここで体現してみせてるんですよね。ただ、あまりにもそれが見事すぎて、吉住さん自身が彼の成した真価を知る者たちからすると英雄以外の何者でもないという……。
しかし、これだけの事を成し遂げておきながら、ここからのガイナス戦は現状の火伏が作り上げた兵站計画では対処しきれなくなる、と冷静に看破して、その計画に則ってただ動かすだけの自分ではこれからの状況には対処できなくなるであろうから、早急に開拓者である火伏の復帰を図るべき、と自身の地位には全くこだわることなく、それどころか兵站監補に降格して年下である火伏の下について存分に働きますよ、なんて飄々と言ってしまうわけで。
もう仕事への関わり方のスタンスが、プロフェッショナルすぎる!!
誰がどう言おうとこのシリーズ通じての最高の英雄って絶対にこの吉住さんだろうw

さて、火伏の暗躍によって不合理が徹底的に排されて風通しの良い形での再建が進む艦隊に加えて、タオ迫水の妻であるクーリエに、火伏の奥さんである八重さんという二大怖い奥さんズのタッグによって壱岐の政界財界もまとめて対ガイナス戦への最適化が進んでいく。
いやもう、火伏もタオも軍人として政治家としてかなり後ろ暗い謀略に絡んでいるし、火伏なんか自身への暗殺事件を逆に利用して、ガイナス戦に不利益をもたらすだろう人材を根こそぎ排除する、なんて暗躍をかましてたりするのだけれど、それでも奥さんたちのダーティープレイに比べるとちゃんと表の職業でまっとうな仕事をこなしているだけ、のようにしか見えなくなってくる。奥さんズ二人共中央、辺境の違いはあれどそれぞれの地域の中枢に近い財界を牛耳る家の出であり、幼少の頃から伏魔殿を体験してきただけあって、カタギである旦那さん方と比べると闇がフカすぎるw
それでも、二人とも突き詰めると愛する旦那さんのため、という行動理由であり行動規範なんですよね。縁の下の力持ち、というにはアグレッシブすぎて、影響力も支配力も掛け値なしなんですけど。
シャロンなどを含めて、本作に出てくる強くて優秀な女性たちはともすれば男どもよりも遥かに威風堂々と肩で風を切って進んでいるのだけれど、何気にみんな愛する人とはバカップルか、というくらいに仲良くて順風満帆な家庭模様なんですよね。これだけ優秀すぎる女性たちだと、ともすれば男を必要とせずに独立していて、家族仲なんぞ冷え切っていたりするケースが多いのだけれど、本作だとむしろ優秀で個として強い人間である女たちであるほど、パートナーのことは大事にしているのが面白い。まあ、相方となる男性たちもそれこそ彼女たちと肩を並べられるだけの逸材なんですけど。
能力的にも同等で、対等で、だからこそ彼女たちの個を否定なぞせず尊重して尊敬して前にも後ろにも配さず、並んで立ってくれる。そういう男性たちだからこそ、並び立ち対等であるが故に彼女たちの強さ恐ろしさの際立ちかたが、こうした愛する人を守ること、助けること、へと繋がっているのだろうか、興味深いところである。
ガイナスの正体はいまだ定かではないものの、戦闘というコミュニケーション、偵察を繰り返すことで徐々にその幾重にも被せられた未知という幕が引き剥がされていく。そんな中で届いた、在りえぬ相手からのメッセージ。次こそ、ガイナスの正体に向けて大きく事態が動きそう。

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