【魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? 8】 手島史詞/COMTA  HJ文庫

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旧友マルクの行方を追うザガンだが、街では<アーシエル・イメーラ>という祭に向けて浮かれた空気が漂っていた。どうやらそのお祭りは、大切な人にプレゼントを送るイベントとのこと。
祭りに出遅れて右往左往するザガンとバルバロス、脳天気にも遊びにくるステラとアルシエラ。そしてなぜか黒猫の姿になってしまった黒花。彼女は何者かに追われており、どうやらこの事件もまた<魔王>が関わっている様子で――。
大人気ラブコメファンタジー絶好調の第8巻!
帯の方にはあからさまに「メリクリ」とか書いてあるじゃん!
というわけで、クリスマスをモチーフにした聖人の生誕祭<アーシエル・イメーラ>を前にして各人の悲喜こもごも、というイベント目的だけでクリスマスと似たお祭りを創ったのかと思ったら何気にこの<アーシエル・イメーラ>という祭り自体がストーリー上の重要なキーワードとなっていたのである。
お祭り自体は教会主導でもなんでもなく、宗教的イベントというよりも大衆が楽しむためのイベントになっていて、その意味でも現代のクリスマスそのものなのですが、これ「誰」の誕生祭か、というのが何気に重要だったんですなあ。
まあその部分に関してはシリーズ通じての根幹につながる部分ではあっても、この巻の主題ではないので置いておいて、まずはクリスマス的イベントに向けての各人の動向にこそスポットがあたってくる。
ザガンとネフィに内緒でパーティーを開催スべく、ザガン一派の魔術師たちを巻き込んで密かに準備に勤しむフェル。ネフテロスとシャスティルという女性組で大事な人にプレゼントを送るためにこれまた準備に勤しむネフィ。ひとり、<アーシエル・イメーラ>なる祭りの存在自体知らないままマルクの痕跡を調べるために街に繰り出し、祭りの存在に気づくザガン。
そして、謎の存在に襲われて黒猫と化してしまい、運命の人と出会う黒花。
そんな幾つかのグループに別れて状況が進行し、また偶然行き合いながらラストに向かって収束していく、いつにも増しての群像劇となっております。
若い女性三人でキャピキャピしたガールズトークを繰り広げながら、ザガンへのプレゼントを買うためにちょっとバイトをしてみたり、お店を巡ってみたりとホント普通の今どきの女の子そのものなことをしているネフィが、もうこれ以上なく幸せそうでなんとも言えないですわー。ネフテロスとシャスティルもそれぞれ、こんな風に女の子同士で遊んだり買い物したりバイトしたり、なんて経験をするような境遇ではなかったでしょうから、いやはや良い時間を過ごせてますなあ。
その出自から、浮浪児でも知ってる<アーシエル・イメーラ>の存在自体を知らなかったザガンですが、その段階からちゃんとお祭りの存在に気づき、そのお祭りの内容についてもちゃんと知って、ちゃんとネフィへのプレゼントを用意出来てしまうのだから、その卒の無さは侮れません。なんだかんだと彼って着実に正解へとたどり着く堅実さには定評があるんですよねえ。
プレゼント、ネフィだけじゃなくて知り合いみんなに用意するあたりがこの魔王の可愛いマメさなんだよなあ。
一方で今回の主役でもある黒花。故郷や家族を滅ぼされた仇討ちのために魔術師を目の敵にして教会の刺客として暗躍してきた過去は、やはり未だに彼女に引っかかりを覚えさせていたんですね。ネフィからの提案である、魔術によって傷つけられた目を治せるかも、というそれに応えられずに保留していた理由がそれだったのか。
しかし、かつての仇の残滓とも言える希少種狩りの出現と、思わぬことから黒猫と化してしまった黒花をただの猫と勘違いして助けた、ザガン派閥下の医療魔術師であるシャックスの登場が彼女の停滞を解き放つこととなるのである。
黒花の過去に大きく関わっているこのシャックス。これぞ冴えないおっさん、という感じの草臥れていささか鈍くて自己評価も低い枯れたおっさんなんだけれど、拾った猫相手ですら手厚く世話してくれて、命がけで助けてくれるような優しいおっさんなんですよね。やる気なさそうに見えてやたら真面目なところなんぞ、生真面目な黒花とお似合いとも言えるんですよね。まめまめしそうな黒花って、他人に優しく自分には優しくないタイプの草臥れたおっさん相手だと、まめまめしく世話しそうですし。それでいて、このおっさん包容力ありまくるので肝心なときは絶対に守ってくれそうなのでちっこい黒花とすれば安心感ありますし。
黒花って、別に年上趣味じゃないとは思うのですけれど、義父であるあの凶顔の執事さんに大事に育てられた分、年上の人に対しての寄り添い方というものを心得てる風があるんですよねえ。
ただ、シャックスのあの鈍感さは、恩義としても親愛としてもまだあるかわからない恋情にしても、ちゃんとキャッチしてくれなくて、黒花が空回りしまくりそうな気もするのですが、誤解してても勘違いしてても、そのから回っている上から受け止めてくれそうな包容力があり、どう転んでも黒花を泣かしたり辛い思いをさせることだけはなさそうな、新キャラながら大した存在感を示してくれたキャラクターでした。ラーファエル執事長にもれなくぶっ殺されそうですがw

あと、さらっと明かされたゴメリ婆ちゃんとキメリエスの出会い。二人が常々言ってる腐れ縁、なんてもんじゃないじゃないですか! 今ではキメリエスの方が保護責任者みたいな扱いで暴走するゴメリ婆ちゃんを引き受けてる感じですけど、最初の様子だともうガチンコでゴメリ婆ちゃんがキメリエスのお母さんみたいなもんだったんじゃないだろうか。母にして姉にして育ての親みたいなもので、果たしてどれだけの想いがあれば、キメリエスを今の紳士で聡明な人物へと仕立てあげられたのか。キメリエスとしても、恩人という一言では済ませられない関係ですよね。この二人に関してはまだまだ踏み込んでいけそうな余地があって、先行き楽しみである。

前回予期せぬ再会を果たした幼馴染のステラも、ちゃんともとの人格を取り戻して今度こそ本当の再会を果たすことが出来て、なんかもう完全に「お姉ちゃん」枠としてでかい顔をしだすw
でもこの姉というのが何気に重要で、嫁であるネフィと娘であるフォルという家族は既に出来ていたのだけれど、ザガンを子供の頃から知っている姉という存在はネフィとは違う意味で家族であり、ネフィにとってもお姉さんになるんですよね。もうひとり、家族が加わった、戻ってきたわけだ。
みんながプレゼントを送り合うパーティーの様子はもう幸せの造形そのもので、見ているだけで心がほんわかしてくる。そんなラストに、幸せのただ中にあるみんなから誕生日を祝福される人がひとり。みんなからの「おめでとう」の言葉が響く夜。ラストの恥ずかしがりながらも口元がどうしても緩んでいる「彼女」のイラストが最高でした。
次回あたりは、もう一度ネフテロスへの試練が待っていそう。いや、ネフテロスというよりも彼女へと想いを寄せる彼への試練か。ちょっとラーファエルどころじゃなさそうだぞ、お父さんは許しませんよ圧がw

シリーズ感想