【野生のラスボスが現れた! 7】 炎頭(ファイヤーヘッド)/YahaKo  アース・スターノベル

Amazon
Kindle BOOK☆WALKER

伝説の女傑ルファス(♀)として旅を続ける俺(♂)と仲間たちは覇道十二星天の残るメンバー『水瓶』『魚』、そして女神(アロヴィナス)のアバター疑惑があるまま行方を晦ませた参謀の少女ディーナを手分けして捜すことに。

しかし、世界のどこを捜してもディーナは見つからない……。困り果てた俺は、かつて彼女がスパイとして手を組んでいた公式ラスボスこと『魔神王』に話を聞いてみると、なんと彼はディーナから言伝を預かっていた。

「貴女の記憶の中にある、私達が最初に会った場所でお待ちしております」

最初に会った場所と言えばルファスの拠点だけど、そこは捜したし……その前となると“俺"の記憶になってしま……あっ。

そうだ、“俺"が最初にディーナを見たのはこの世界(ミズガルズ)ではない。ルファスになる前の“俺"の自室――つまり、ディーナは異世界(現代日本)で待ってるはずだ!!
これまで作品の大前提となっているはずだった設定そのものが、根本からひっくり返される大どんでん返し回、それがこの第七巻なのであります。
それまでもこの作品、ラスボスというか隠しボス、エクストラボス的な存在であるルファスになってフィールドをうろつきまわる、という実にノリノリのインフレバトルが楽しい作品だったのですけれど、物語の構成自体がもう天晴というほかない見事な仕掛けで整えられていて、この展開を目の当たりにしたときは思わずリアルで「ウワァァァ!」と叫んでしまったものです。
自分がプレイしていたゲームでの、自分の育成したキャラに憑依してしまう、という形でスタートしたこの【野生のラスボスが現れた!】。まさに最初の最初から全部仕組まれ、何もかもが事前の計画通りに進行していたという事実が明らかになったときの衝撃、驚きは今なおハッキリと記憶に焼き付けられています。
その立役者であるディーナがまた素晴らしいんですよね。物語の最初からナビゲーターとして現れた彼女。ゲームでは玉座の背景にいる誰もその存在を覚えていないモブキャラ、という扱いだったのがゲームが実際の異世界に移って生きたキャラクターになった、という体で現代日本から少年の魂が封印から復活したルファスに憑依して右も左もわからない「彼」を案内し、世界の概要と現状を解説して案内人として、ルファスを先導しはじめたディーナ。
でも順を追って物語を進めていくと、彼女の存在は非常に胡散臭いことの積み重ねで成り立っているんですね。
折々に触れてその隠された立場が明らかになっていって、ダブルスパイがトリプルスパイ、と味方と思われたのが実は魔神王側の密偵であった、はずだったのにさらに裏に秘められた役割に沿って動いていて……と思いきやさらに実は!? と、実は彼女こそが裏ですべてを操り暗躍していた黒幕的存在の実行役だった、と判明したのが前巻までのお話。
そしてそして、そのディーナこそ黒幕的存在の仕掛けた策謀の実行運営役だった、という真実そのものは動かさないまま、その意味するところが180度反転してしまう大逆転のドンデン返しが明らかになるのが、この7巻なのです。
つまり、そのディーナに指示してすべてを仕掛けていた黒幕的存在……、これが創世神アロヴィナスだと思われていた、てかアロヴィナス本人もそのつもりだった、ディーナというアバターを操ってすべての状況を思うがままに操ってた、と思い込んでいたのが、実は!! というとんでもない展開だったんですよね。
いや、これは計画を立てた人も大概と言えば大概なのだけれど、それを見事に実行してのけたディーナがあまりにもすごすぎるのである。作中でもルファスが大絶賛しているのだけれど、この策を成功させるためにディーナはあらゆる存在を、それこそ敵も味方も裏で動いている存在もこの世のすべてを支配している存在も、それどころか自身にこの策を指示した存在をすらもすべて騙して騙して騙しきって、思惑通りのゴール地点へとすべての状況を導いて達成してのけたわけですから。
もうシリーズ通して揺るぎなくディーナこそがMVP、ぶっちぎりでMVPなのである。
すべてを成し遂げての、誇らしげなディーナのその名乗りがまたカッコよくて震えてしまうのです。

しかし、インフレバトルが売りの本作ですけれど、ここまで振り切れてしまうと楽しくて仕方ないですなあ。いやもう半分以上ギャグのようになってしまっているのですけど、これが面白いことに同時に真面目なバトルモノとしてのバランスもちゃんと取れているんですよね。
本作のインフレバトルの特徴は、インフレでありながら作者がちゃんと全体の手綱を取れている、統制されたインフレだというところなのでしょう。物理法則さんを無視するのではなく、物理法則さんの存在をしっかり認めた上でその襟首を締め上げて完全に気絶させた上で舞台の上から蹴り落として、あとは好き放題するみたいな!
その証拠に、物理法則さんがいい加減な仕事しかしていないミズガルズと違って、物理法則さんがちゃんと頑張っている地球に移動した際はミズガルズと同じノリで光速でパンチしたりしたら確実に軽く一発スイングしただけで地球が滅びる、てか銀河も滅びるかもしれないからみんな自重! てな感じでちゃんとルファスも考慮してますし。
まあ、この世界法則のいい加減さこそがミズガルズという世界の秘密にも繋がっていたりして、油断ならないのですが。
そして、そんなミズガルズのいい加減さなどに、徐々に女神アロヴィナスの内実が滲み出してきてるんですね。彼女に関しては、この巻では一度あからさまにやらかしちゃってますしw

これまで旅を続けるうちに徐々に明らかになっていった魔神王戦争の真実、覇王ルファスへの仲間たちの裏切り、そしてこの世界に隠された思惑など、幾つもの積み重なった謎の真実が明らかになる回答編、真相解明編な本巻、ウェブ版既読でしたが改めて読んでも面白い。
そして、ここから一気に対女神の決戦編。そして、このインフレがさらにインフレしていく展開の中で、インフレについていくのではなく力のない一般人とさして変わらぬ立ち位置から、女神の駒ではなく本物の勇者としてルファスに並び立つセイくんの活躍。クライマックスもこのまま際限なく盛り上がりますよっと!

これ、何気にコミカライズ作品の【野生のラスボスが現れた! 黒翼の覇王】が傑作なので、機会があればぜひ御覧ください。勇者セイがはじまりの街から旅立ち、街の外門を一歩出た途端に、野生のラスボスと公式のラスボスにエンカウントしてしまう回は、今振り返っても思い出し笑いしてしまうw