【なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか? 3.神々の道】 細音 啓/neco  MF文庫J

Amazon
Kindle BOOK☆WALKER

世界は人類が五種族大戦に敗れた歴史へと「上書き」された―英雄シドの剣と武技を継承し「真の世界を取り戻す」決意をした少年カイは、何者かの影響で豹変した蛮神族の英雄・主天アルフレイヤを撃破。イオ連邦の地にひと時の休戦をもたらす。聖霊族が支配するユールン連邦への案内役として、エルフの巫女レーレーンを加えた一行。だが、凶暴化した巨大なベヒーモスの襲撃で事態は急変。導かれるようにオルビア預言神の祠へと辿り着く。「あなたたちに世界の運命を託したい。この世界は『偽り』です」。ジャンヌに救世主となるよう求める預言神。だが、カイはこの世界での出来事から神の言葉に疑問を抱いていた―大注目のファンタジー超大作、第3弾!
異種族の英雄の中でも一番人間から遠く外れていて、意思の疎通すら不可能な異形の怪物……と、思われていた聖霊族の英雄・六元鏡光が、まさかの癒し系!
いやこれ、殆どマスコットじゃないですか。他の英雄様たちはその名に相応しく厳しいというか強面というか、見るからに強そうで怖そうな人たちばかりだったのに、鏡光ちゃんだけやたらと可愛いんですけど。キャラクターももとがスライムなせいか無表情無感情キャラっぽいんですけど、よくよく見てると結構すっとぼけていてノリも良くて、カイもジャンヌも堅苦しいところが目立つ中で中々いい具合に場をかき回してくれるキャラになってるんですよね。無邪気なリンネと口うるさいレーレーンにしても、何だかんだと二人とも基本真面目な娘ですからね。
ともあれ、人類側の勢力圏がほぼ侵し尽くされほそぼそとレジスタンスとして抗うしか無い中で、それぞれの地域を制圧している異種族の英雄を打倒し、人類の生存圏を取り戻す……という体だった基本路線も、結局最初の悪魔族との戦いがその通り進んだだけで、二巻での蛮神族との戦いはアルフレイヤが操られ、この三巻では聖霊族と戦う前にその英雄である六元鏡光が既に襲われ撃破されてしまっていた、という始末。そこには新たな誰も知らない異形の勢力の暗躍が認められ、その異形の存在こそがこの書き換えられた世界の存在である、という異種族対人類という対立構図が決定的にズレはじめたのが、この第三巻の概要となるのでしょう。
その中で鍵となるのが、正史であるはずのカイの歴史で英雄として異種族を打ち破った「シド」なる存在だったわけですけど、そのシドって一体何者!? というのが結局今までさっぱりわからなかったんですよね。いやもう情報少なすぎて気持ち悪いくらい。どういう容姿でどういう来歴でどんな出身のどういう人物なのかがまるで語られない。今までシドの事を普通に男と思い込んでいたのだけれど、何気に性別すら語られて来なかったんですよね。もちろん、シドを知っているのが今となってはカイだけなので、主人公の彼が語ってくれなければ何も知ることは出来ないのだけれど、そのカイからして語ってくれないんだもんなあ。物語の展開上、シドの情報は極力伏せる必要がある、のだろうけれど、カイがあれだけシドに傾倒しているわりにここまで触れてくれないというのは、ちと不自然な感じがして気持ち悪かったんですよね。
まあ待った甲斐もあってか、ようやく「シド」というキーワードが実体を持って動き出してくれたのですけれど……。
ちょっとまって、シドって「そういう意味」も含んでたの!? 単なる個人名かと思っていたから、英雄シドのことも単なるそういう名前の個人だと思いこんでたんだけれど、これ物事がそう単純じゃなくなってきてしまった、という事なんですよね。
となると、今回の作中でカイじゃなくて、ジャンヌの方がオルビア預言神にお前がシドになるんだよ!系の託宣を頂いてしまったのも、単にジャンヌにこの世界での救世主になれ、というだけの意味じゃなさそう、って事なんですよね。
それに、カイが受け継いでいるものを見てしまうと、実質的にもカイもまた「シド」を継承しているともとれますし。
今の所、まだ箱の中に仕舞われていた真実の群れが、蓋を開けてひっくり返されて散らばってしまた、というような状態なのでまた全体像がさっぱりなだけに、詳しくわかってくるのはこれからなんだろうけれど。
まあ色々とご指名をうけてしまったジャンヌさんですが、一巻の頃の追い詰められて切羽詰まって余裕がなかった頃に比べたら、カイのことが気になって仕方なくて不器用ながら積極的にアプローチしかけて仲良くなろうなろうとしている様子が実に可愛らしくも女の子していて、良かったねえと微笑ましくなる。正史では親密な幼馴染だったのに、こっちでは面識ない所からはじまってしまったわけですからねえ。ボーイフレンドという関係も大いに前進でありますよ。

シリーズ感想