【航宙軍士官、冒険者になる 2】 伊藤 暖彦/himesuz  エンターブレイン

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帝国航宙軍兵士アラン・コリントと彼に共生するナノマシン「ナノム」が乗艦する航宙艦は航行不能となり、未知の惑星に不時着することに。魔法を使うことができる人類が暮らす惑星でアランは怪我を負った少女クレリアを科学技術を駆使して救い、自身も魔法を覚え、剣と魔法のファンタジー世界に順応していく―。ある日、アランはAIの予測によりこの星が滅びの運命に瀕していることを知る。彼は人々を救うため、星ごと接収し、支配者になることを決意するのだが…!?異星ファンタジー超大作、第二弾登場!

これ、クローン技術で生み出されてしまった双子のセリーナとシャロン、えらいあっさりと登場したけれど、閑話での彼女らの誕生の話を見ると身の上としては壮絶なんですよね。
精神の健全な成長のために、製造から意識を目覚めさせるまでの30日間の間に人間として生まれ、普通の人間として成長してきた18年間の記憶を植え付けられてるんですよね。それで、目覚めた途端に貴方達はクローン技術によって製造された人造人間です。今貴方達の中にある人としての記憶は偽物ですのであしからず、とか言われるんですよ? 頭おかしくなりますわ。
いや、AIのイーリスさん、もうちょっとデリカシーというものを学びましょうよ。そのあたりは大変デリケートな問題なのですから。そのくせ、自分のベースとなった過去の英雄イリース・コンラートの細胞からクローンで生み出されたセリーナとシャロンのこと、無意識にか自分の娘みたいに捉えているのだから、結構タチが悪いんですよね。
このAI、人間味があるように見えて基本原則の部分では機械特有の融通の効かなさと機械であるがゆえに倫理観や常識に囚われず、融通の利きすぎる部分が併存してたりして、そういうところ凄く魂のないAI感が漂ってるのだけれど、一方でAIの元となったイーリスの思考パターンに則っているせいか、そこから徐々に人間らしさのようなものを獲得しはじめている過渡期のような側面も感じられて、なかなかおもしろい存在なのである。
一巻では、アランは船から脱出して異星に一人孤立していて、船も沈んでしまってもう二度と星間文明には接触できないと覚悟して動いていたのだけれど、イリースが健在である上にほぼ制約なくバックアップを受けられるというのは、もうほぼ何でもありなんですよね。
まあイリースも大きな損傷を受けて多くの資材を失い、リソースもだいぶ減っているわけですけれど、それでもあの星間文明レベルの技術を自由に使えたら、神を名乗っても遜色ないんですよね、これ。
ただ、普通にこの星で生きていく、というだけならイリースの戦力は過剰すぎる部分もあったわけです。アランも、このままなら冒険者として生き、縁あって出会ったクレイアを助けて、この星に身を埋めるくらいのある意味気楽な気分だったと思うんですよね。
しかし、イリースと接触しある計算結果を知ってしまったことで、彼はこの星で、帝国航宙軍士官として成さなければならない使命があることに気づき、そのためにすべてを費やすことを決意するのである。
この決断を以って、この物語は幕を開けたと言えるのではないだろうか。
計算結果からこの星の行く末を知らずに居たら、このアランくんポヤポヤとスローライフに終始してのんびり人生満喫して終了しててもおかしくないような男の子だもんなあ。
今回だって、暇さえあれば意気投合した宿屋の親父さんとの料理研究とレシピの伝授ばかり嬉々としてやってばっかりで。あれ、タイミングさえ違ってたら親父さんの誘いにのって料理人になってても不思議じゃないように見えたよ。料理好きだしねえ、この子。親父さんと料理談義しているときが一番楽しそうでしたし。クレリアと居るときよりも楽しそうだったぞ。

ともあれ、そんなのんびりとした未来は彼の選択肢から消え失せて、彼の人生すべてを賭けた数百年、或いは千年を超える先に目標を見据えた壮大な計画がスタートする。さてそれを、アランくん一代でどこまで描いていくことになるのか。自分の国を失い流浪の身となっていた自分の国の民たちと合流することになったクレリアと、アランの目的が重なったことでこのまま一緒に歩んでいくことになったわけだけれど、取り敢えず一旦ほんとによく話し合った方がいいですよ、二人とも。なんか、致命的な齟齬が出始めてるっぽいですし? 思い込み、よくない、うん。

1巻感想