【子守り男子の日向くんは帰宅が早い。】 双葉三葉/なたーしゃ  角川スニーカー文庫

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部活はなし、勉強も授業中に全力集中、学校での出来事はどこか他人事―高校生・新垣日向の放課後は両親の手助けと最愛の妹・蕾の育児のためにある。…学年のヒロイン・芹沢悠里が彼の子守り事情を知るまでは。兄妹仲の良さと学校とは違う活き活きとした日向に魅了された悠里。放課後は新垣家に行き、週末は3人でデート。さらに天然陽キャ女子・恵那唯やクール系美少女の後輩・上月日和も絡んできて、日向の日常は一気に賑やかに!
「私は日向君に楽しい学校生活を送ってほしい」
「“師匠”って呼ぶね!」
「好きです、先輩のこと…」
帰宅早い系男子のほのぼの学園ラブコメ!

なるほどなあ。日向くん、両親共働きでまだ幼い妹の面倒を見るために、学校での事は大概うっちゃって生活リソースの大半を妹・蕾のために注いでいるのだけれど。
それをツライこと、哀しいこと、青春を無駄にしているとか、彼にばかり負担させている、という否定的な捉え方をしていないのである。強いられているのではなく、これは日向自身が色々あって考えて決断して選択したこと。家族とちゃんと話し合って、彼が選んだことなのである。
だから、彼は今の生活を苦しいとは思っていないし、後悔もしていない。自分を犠牲にしているなんて思っていないのだ。
これは、家族の一つの形なんですよね。
そして、そのことを外野からワイワイと余計な同情や的はずれな好意、勝手な決めつけなんかでいらないちょっかいをかけてくる、わけでもないんですよね。
これは、悠里たち日向と友達になった、蕾という幼児と仲良くなった人たちが、日向の限られていたリソースを協力して広げてくれる話でもあるわけだ。日向も、決して学校で友達作ったり楽しくなにかしたり、というのを忌避しているわけでもなく、ただ単にそこまで手が回らないから選ばなかっただけで。
だから、悠里たちは日向の現状を否定するのでなくて、肯定して受け入れた上で手を貸すことで、というよりも彼の限定した行動範囲の中に悠里たちの方から近づいて中に入ることで、日向が蕾とだけ過ごしていた時間と空間の中で、友達と一緒に過ごす時間、というのが加わることになったのである。そうやって、悠里は日向の世界を拡張してみせたわけだ。
最初は意識せず、はからずもスーパーで出会った日向と蕾の二人と過ごすうちに。蕾に懐かれて、この兄妹の世界の中にお邪魔するようになって。
プライベートでの妹思いな、家族を大事にする真面目で誠実なクラスメイトの素顔を知るほどに、惹かれていく悠里。この自然な形での惹かれていき方が実にいいんですよね。距離感の詰め方がとても自然というか、それまで他人だった男の子の色んな側面を見ていくことで、最初は蕾の理想的な妹像に夢中だったのが、段々とその兄の方にも意識が持っていかれて、気になっていく過程の表現の柔らかさが、本当に素晴らしい。
ってかね、この日向くんがイイ子すぎるんだよなあ。イイ子というか、こういうの好青年というのか。嫌味がなく真面目で、でも面白みがない詰まらない個性が薄い主人公という感じでは全然なくて、実直さに味と厚みがあるんですよね。
そもそも、学校では他人とあまり関わろうとしない、という姿勢なんだけれど、それほど他人を拒否るようなキツイ姿勢でもなく、だからといって存在感が薄いというような感じでもなく、ちゃんと成瀬みたいな日向の事情も何もかも知っていていい塩梅で付き合ってくれている親友も居て、と実はコミュ力高いんじゃないだろうか、という素振りも見えるわけで。
これは悠里さん、目の付け所が実にイカしてたんじゃなかろうか。すげえイイ男だぞ、こいつ。しかも、家事能力まで高いし! 高いし!

ただ、中学時代に家族ぐるみ、とまではいかないまでも両親にも親しまれているほど密接な関係だった後輩の存在があり、疎遠だったところに図らずも、皮肉にもというべきか悠里たちとの付き合いがはじまって周りを見る余裕が日向に生まれたことで、彼女……日和との交流も再開してしまったので、何気に修羅場の下地が出来始めてる……。
今の段階で、悠里も日和もまだお互いの存在を知らない、というなにこの導火線に火がついてるような状況。ある意味一巻はこの状況が整うまでのプロローグだったのか。
本番は次回から、という匂いがプンプンしていて、楽しみやら不安やら、でありますよ。