【ロクでなし魔術講師と禁忌教典 13】 羊太郎/三嶋 くろね  富士見ファンタジア文庫

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それは突然にやってきた。後期学期がスタートし、学院が浮き足立つ中、リィエルが教室で倒れてしまう。病名、『エーテル乖離症』―。『Project:Revive Life』の産物であるリィエルに訪れた寿命。その治療のため、方々手を尽くして残った一縷の望みは、特務分室の持つ極秘資料だが―。新室長・サイラス=シュマッハから交換条件として言い渡されたのは、女王陛下暗殺を企てた逆賊アルベルトの討伐で!?「外道に堕ちたってんなら…やつをぶん殴るのは俺の役目だ」その偶然は運命の悪戯か。リィエルの命を救うため、そしてアルベルトの真意を問いただすため、愚者のグレンは帰還する!

何気にリィエルってヒロインの中でもピーチ姫役が多い気がするんですよね。囚われのお姫様、敵の手中で助けられるを待つお姫様。
女性陣の中でも特に戦闘特化型なリィエルがそういう役回り、というのは不思議な気もするのだけれど、考えてみると納得でもあるんですよね。本来、そのお姫様役が一番相応しい本当のお姫様であるルミアは、意志力の化け物みたいなところがある少女でありその意志の強さ故に独走してしまうこともあるのだけれど、最終的には親友や先生の力を借りたとしても自力で壁を打破する自立したキャラクターでもあるだけに、大人しく自分の命運を他人に託すような役回りに収まっているタマではないのである。
白猫はその点、気持ちに弱さがあるぶん囚われのお姫様役は相応しい部分もあるのだけれど、それを拒絶したのもシスティーナなんですよね。彼女は弱い自分を克服し、常に先生とともに最前線で戦えるように自分を規定しているのである。先生の相棒であることを望む白猫にとって、今はグレンたちの横に立つために頑張っているのであって、囚われのお姫様をやっている暇も余裕も彼女にはないのである。それを受け入れてしまうと、物語の本流から脱落してしまいかねないのが白猫なのだ。
イヴもこの点は白猫に似ていて、散々憎まれ役をやった後に立場も何もかもを粉々にされてしまった今のイヴは、新しい立ち位置を構築中で現状は半分リタイア気味なセリカに代わってグレンが苦手な分野から彼を助けるサポート役であり参謀役であり司令塔でもある、というメチャクチャ頼もしいイヴ隊長という立ち位置なのである。実家であるイグナイト家が不穏なことになっているのだけれど一旦家のしがらみから解き放たれ、今開き直って自分の道を歩みだしている彼女にとってイグナイト家は克服するべき壁のような存在として機能しそうな雰囲気でも在るので、彼女もまた今となってはお姫様役はお断りなのだ。
こうしてみると、戦闘特化型とはいえリィエルは基本受動的であり、ルミアや白猫を守るという意志は自分の存在意義として持っているものの、自分からガツガツと目的に向かって突き進むタイプでもないし、出自の危うさやみんなのマスコットらしいキャラクターなど何気にお姫様役がうってつけなんですよね。
何気にセリカも、リィエルと似た部分があるので先々この人が取り戻さなければならないお姫様役を担う可能性は十分高そうな感じもあるんですよね。
そして、何気に独り勝手に突き進んで決死の思いで連れ戻さなければならない展開になりかねなかった可能性筆頭が、アルベルトだったのである。そう、彼がこの作品のメインヒロインになる、という展開もアリ得たんですよね。イカレ狂ったジャスティスと違って、彼は真っ当な信念に基づいて真っ当な道を踏み外しかねない真面目さんでしたからね。
なので、この巻でのアルベルトと図らずも本気で敵対する、という話は大きな分水嶺でもあったのだ。アルベルトの行く末を決める、という意味でも。まあ、そうなったらなったでジャスティスと被ってしまう部分も多分にあっただけに、アルベルトのあの強迫観念に近い何を犠牲にしても救うという自らを孤独に追い込む信念を、良い方向に変えることが出来たのは頼もしい味方がもっと頼もしい味方になってくれたという意味でも、ホッとした。すごい安心感である。
ようやく黒幕らしき存在が顔を見せて、なかなかキツイ展開になってきたところでアルベルトの新生は閉塞感を払拭してしまうほどの強いインパクトだったんですよね。
でも、それを成したのが男同士の本気のドツキ合い、本音をさらけ出し合いぶつけ合い殴り合うという「喧嘩」だった、というのはこっ恥ずかしいけれど、これはこれで素敵な話だったと思います。
こればっかりは女相手にゃなかなか出来ない感性のことですからね。男同士の特権だ。

シリーズ感想