【ラストエンブリオ 7.吼えよ英傑、甦れ神の雷霆!】 竜ノ湖 太郎/ももこ  角川スニーカー文庫

Amazon
Kindle BOOK☆WALKER

箱庭第二桁、ギリシャ最強の魔王・テュポエウスとの一戦を終えた「問題児たち」。辛くも一時的に撃退したものの、しかしアトランティス大陸の異変は収まることがなく――。
巨人族が溢れ大陸全土が混乱する中、第二次太陽主権戦争・第一回戦は終わりを迎えようとしていた。謀り企てる"ウロボロス"のゲームメイカー、奮戦する問題児たち、『王の在り方』を問われるアステリオス――激動の中で様々な想いが交錯し、遂に"大父神宣言"の真実が解き明かされる時、英雄英傑、そして問題児たちは再び魔王・テュポエウスとの決戦に臨む!!
竜ノ湖太郎の大人気シリーズ、アトランティス大陸編、完結!

なんだろう、ようやく様々な謎が薄っすらとだけれど一つに繋がって見える範囲まで浮き上がってきた気がするぞ。破局的大噴火(ウルトラボルケイノ)による人類史の終焉、星辰粒子体(アストラルナノマシン)の研究の暗躍者、血中粒子加速器(Blood accelerator)の存在、第二次太陽主権戦争が行われる意味、星霊の定義。多種多様な用語が飛び交い、そこに秘めたる関連性がずっと示唆されつつも実際に紐づけするには複雑に絡み合いすぎていて、全体像が掴めなかったのも確かなんですよね。大まかな意味において、十六夜たちは何を目指すのか。近しい視点観点においては目的は個人的にもコミュニティ的にも色々とあるものの、大局的な俯瞰的なマクロな視点としては十六夜たち、方向性こそ見出しつつあったものの、それそのものを見出すためにもこの今回のギフトゲームに参加している、という感もあったんですよね。
まだあまりにも、あまりにも謎でわからないことも多く、真意が掴めないキャラクターも多いのですけれど、一つだけ……少なくとも一つだけははっきりとわかったことがあるんじゃないだろうか。
敵はジェームズ。ウロボロスのゲームメーカーを名乗るあの男だ。
魔王テュポエウスが義憤により立ったように、絶対悪アジ=ダカーハが偉大なる悪であったように、殿下が救世の英傑として再起したように、敵として立ちふさがった者たちにもそれぞれに戦うべき理由を矜持とともに持っていた。
あのクリシュナの皮を被ったナニモノかですら、その意図が悪しきものであったとしても真正面から自らの意志を貫こうと襲いかかってきた。あれもまた、絶対に相容れぬ戦うべき敵なんだろうけれど、あれですらまだ戦いが成立する、とも言えるんですよね。
対してジェームズである。意図を隠し思惑を秘し虚言を弄し他者を陥れ騙し公然と利用して、愉悦する。もう邪悪極まるんですよね。あれだけみんなから胡散臭くて信用出来ないと思われているにも関わらず、彼を排除できず彼の言葉に踊らされざるを得ないこのもどかしさたるや。その上で、今箱庭も外界もまとめて悪い方悪い方へと持っていこうとしているナニモノか、その起点となっているのがどうにもジェームズっぽい、という証拠と言えるのかわからないけれど、つながりのようなものが見えてきて、芋づる式に今あれもこれも全部見事に繋がっているんじゃないか、という感覚が引き釣り出されてきたっぽいのが、今回の話の肝の一つだった気がするんですよね。ぽい、だったり気がする、と断言できないところにやっぱりもどかしさもあるのですけれど。それでも、はっきりと目に見える形で、こいつが悪い! という相手が確定したというのは随分スッキリしたわけですよ。的がついに確かになったんですから。盛大にぶっ飛ばすべき怨敵が。許されざる真の外道が。
ウロボロス自体は、旧知の人物や以前の仲間が加わっていたり、決してそのもの全体が敵、というわけではなく内部でも意思統一がなされていないような感じもあるので、まるっとあいつら敵、とはならずモヤモヤしていただけに、余計に元凶がはっきりしたというのは物語としても焦点があってきたんですよね。
それでもまた新たに謎や設定も増えて来ているのですけれど。

ともあれ、大父神宣言の真実はこのアトランティス大陸編の決着を決定づけるに相応しい大解答でありました。いやこれ、大神ゼウスの有名な女癖の悪さからくる悪名を根底からひっくり返してしまう話だったんじゃないでしょうか。この解釈だと、ゼウスのあのレイプ魔としか言いようがない因業が、まるで真逆の意味になっちゃいますもんね。一つの神話大系の主神に相応しい偉大さとして語れるものじゃないでしょうか。ついでに女神ヘラのアレも一緒に意味づけてほしいところでありますけど。
他にも先代?問題児の一人であるあのアルゴールがついに出番だとばかりに登場したり、アルマテイアがいきなりひげをつけて解説をはじめたり、ケツァルコアトルさんがやたらイイ人だったり、と見どころは沢山あったわけですが、やはり一番の見せ場はアステリオスの王としての決断であり覚醒であったのでしょう。なにしろ、サブタイからして「甦れ神の雷霆」なのですから。かつてミノス王が乗り越えられなかった壁を、今息子たるアステリオスが乗り越え、箱庭世界に名乗りを上げる。
一方でまた魔王テュポエウスももうひとりの主人公なんですよね。アバターとなっている実験体の少年が宿していた、父とも思った相手からの裏切りによる悲嘆と絶望、そして怒りに義憤を覚え戦うテュポエウスもまた、父であるゼウスに裏切られたもの。その傷ついた心を目の当たりにした十六夜の行動は、あの抱擁は……なんていうんだろう、十六夜くんって色んな意味でこの子やっぱり「お兄ちゃん」なんだよなあ。

次の舞台はどうやら「ローマ」。コンクラーベという単語が出てきたけれど、果たして二回戦はどんなギフトゲームが用意されているのか。ジェームズが本格的にノーネームを敵と見定めた節もあり、ここからどんどん核心へと突き進んでいきそう。さあ、ワクワクしてきましたぞ。

シリーズ感想