【幼なじみが反対しますが秘密結社を廃業することにしました】 神野 オキナ/ みこやん  講談社ラノベ文庫

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「本日をもって、秘密結社ダークハドーを解体廃業いたします!」
日本最大の悪の秘密結社、ダークハドーの新しい首領――ビックハドー3世となった春也による、最初で最後にして最大の命令だった。しかし、すでに経済システムに密接に組み込まれたダークハドーにとって、廃業は自らだけで決められることとは思えない。そう考えた春也の幼なじみでもある、女性怪人――レディタイガーこと蓮杖ルミカは、首領である春也と、そして秘書官であり姉でもあるレイカを止めようと決意する。だが春也の決意は固く、廃業は進むもののやはり周囲は騒がしくなり――!神野オキナがお贈りする秘密結社アクションラブコメ、登場!

うわぁ、これガチで企業体の廃業計画執行だわ。ってか、この規模の組織の廃業はさすがに滅多ないんじゃないだろうか。中小企業単位なら、倒産廃業は万単位で毎年でてますけれど、ある一定以上の規模になると買収や合併、或いは公的資金投入なんかで支えが入りますからね。いくら将来的に破綻が確定してしまっても、だからこそ経営陣の刷新やら手が入るはず。日本経済そのものに影響を与えてしまうような規模の企業体が綺麗さっぱり廃業で撤退してしまう、ってそりゃ慌ててあらゆる方面が止めに入りますわなあ。ただ、企業は企業でもダークハドーは悪の秘密結社。株式会社でもなく銀行に資金面で首根っこ抑えられているわけでもなく、ましてや非合法組織なので究極的には政府官庁の指導や介入を受ける謂れはないのである。そりゃもう悪の秘密結社なんかを経済システムの中に組み込んでしまってる時点でどうしようもないよ日本。だいたい、正義の味方組織と常日頃から抗争していて、場合によっては今回みたいに組織のボスが本拠地要塞とともに吹っ飛んじゃうようなケースが常にリスクとして存在していたわけだから、そんな不安定な組織をシステムに組み込んじゃダメだから。
そのあたりの無理が、結局ダークハドーをこのまま続けても破綻から逃れられない、という結論が出てしまった理由の大きい部分なんだろうけど。
それでも、勝手にじゃあ辞めまーす、と新たなボスが宣言したらそれで片付くような単純な代物でもなく、何気に春也とレイカ主導による廃業計画は、各方面の根回しから資産の処分方法、組織所属者の廃業後のフォローなど多岐に笑って綿密に準備され、執行されてるんですよね。特に身内の大幹部たちへの根回しの周到さは特筆に値していて、末端の組織員には唐突だったかもしれないけれど、もうダークハドーという組織全体がちゃんと廃業に向かって動き出しているわけですよ。これだけの規模の組織が、トップの独断だけで解体できるはずもないですもんね。各部署が連携して粛々と事前計画に則って動かないと、組織という巨象が身動ぎすらも出来るはずもなく。それだけ、春也たちが入念に準備していたのが伺えるわけで、これだけの大事業を高校生でありながら主導したというだけで、春也が凡庸とは程遠い器の持ち主だというのが伺えます。どんな分野だって、一番困難なのは撤退戦だっての。
こういう場合、実体と評判というのは大いに乖離するもので、彼を知らない無責任な周辺の口にあがるのは、三代目の無能なボンボンが無責任に組織を投げ出してしまった、というたぐいのものになってるみたいだけれど、これだけ行き届いた一般の結社関係者への再就職斡旋、退職金準備、改造手術へのアフターケアなんかが成されてるのを見せられたら、そこらへんの倒産やら吸収合併やらと比べてどれだけホワイトな環境を用意できてるかわかるってもんでしょうに。おまけに、介入しようとしてくる関係各所に対しても、ほぼほぼビシッと影響を断ち切ってるわけですしね。
下部組織の反乱についても、あれに関しては相手が辣腕だったから、と言えるので不手際をあげつらうのなら、相手がこの機を逃さないほどの野心家だったのを見抜けずに重要な基幹情報の一つを預けてしまっていたことでしょうけれど、結局身内からはほぼ離反者を出さず速攻で叩き潰しているわけですしねえ。
つまるところ、ルミカの危惧はお概ね杞憂に過ぎないくらい、春也の手腕は長けていた、ということなんだろうけれど、彼女の不安と心配は結局自分には何も教えてくれず知らせてくれなかった、というところにありましたからねえ。だからこそ、春也がどれだけ安全マージンを取っているか、どれだけ入念に準備していたか、という情報を得られずに見えて聞こえる範囲での判断では春也は非常に危うい橋を渡っている、としか見えなかったわけですから、彼女の危惧は決して的外れというわけではなかったんですよね。実際、危ない場面はあったわけですから。
でもそれ以上に、ルミカにとってダメージだったのは自分だけが仲間はずれにされてしまった、という所なんでしょう。自分が幹部ではなく若手のホープとはいえ、一怪人に過ぎない以上重要な情報は回ってこない、という常識はもちろんわかっていますから、この不満が独りよがりである、とちゃんと弁えているのが、このルミカの可愛らしいところでもあるのですけれど。そういう感情と理性と理屈と情報不足の現状をすり合わせて今現実的に最適な行動、と導き出した結果が、夜這いというのが何とも拗らせたなあ、と苦笑したところでしたが。

見る人が見れば、春也の優秀さはレイカの秘書としての能力を考慮に入れても特筆に値するはず。このまま組織の解体、廃業に成功しても各分野から引く手数多でしょう、これ。のんびり学生生活なんて出来るわけがなさそうで。実際、正義の味方の友人はスカウトする気満々でしたからねえ。
どうせ何らかの形で引きずり出されるならば、破綻する要因をなんとか取り除いて、組織の再編を考えた方がよい気もするのだけれど、まあそういう先行きに関しては続刊がなってからになりますか。
こういうごちゃごちゃした話、個人的には大分好みだったみたいで、思いの外美味しくいただけました、面白かった。

神野オキナ作品感想