【数字で救う! 弱小国家 4.平和でいられる確率を求めよ。ただし大戦争は必須であるものとする。】 長田 信織/紅緒  電撃文庫

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紆余曲折の果てに、契りを結んだソアラとナオキ。女王となったソアラは一児の母となり、そしてナオキは王配(女王の夫)としてソアラを助けつつ、宰相としての職務を日々こなしていた。なぜかちゃっかり宮廷女官長兼ナオキの愛人(女王陛下公認)におさまっているテレンティアが、しっかりナオキとの子を作っていたりするが、それはさておき、弱小国ファヴェールは平和であった。―そのはずだったのだが。ファヴェールが所属する国家同盟と、他の諸国連合の関係が悪化。史上最大規模の、『国家連合同士の大戦』が迫る。次なる世代に国の未来を繋ぐため、ソアラとナオキは、新たな戦いに臨む!!

「おっぱいは、おおきければおおきいほど、おおきい」

けだし名言である。しかも、数式的に出された答えである。冒頭のプロローグからこれですよ、かっ飛ばしてますなあ!
9歳から14歳に成長したツナちゃんことトゥーナ。天才数学少女も今はお年頃、と言ってもソアラのブラでフラフープして遊んでいる(真剣)くらいの娘さんでありますが、この時代の14歳ともなれば既に一人前に働いているわけで。成長したなー、ツナちゃんと感涙にむせぶまもなく監察官として全土を駆け回る日々である。傭兵隊長の息子のドクが護衛としてくっついているわけで、おうおうお年頃でありますなあ。
とか言ってるうちに、監察官として働くツナちゃん、不正を暴くべく数式を駆使しまくる。うん、わからん! いやまあ腰を据えて一からじっくりを理解しようと構えればなんとかなるレベルに押さえてくれてはいると思うのですけれど、正直仕事疲れであんまり頭が回らないときに読んだので、ドクと同じく同じ顔で「お、おう」と唸るばかり。こういう時はまずは結論を解せよ、である。にしても、わりと数式自体とそれの運用の仕方の描き方がガチめで、初っ端からやりたい放題なんですよね。この四巻、本来出るはずがなかった奇跡の巻らしく……そうだよね、主人公とヒロイン(+1)が結婚して子供まで産まれて、という状態からさらに続く、というのはなかなか決断のいる状況設定かと。実際、3巻終わった時点でシリーズも完結した、と思い込んでいたので4巻の発売情報にはかなりぶったまげた覚えがある。
でも、個人的にはこういうその後の話、も大変興味ありますし戦記物となれば言わば年代記の様相も呈していますし、世代を跨いでというのも戦記というジャンルで大きなスケールで物語を動かしていくには有為有用な展開でありますからねえ。
今回は特に作者先生がやりたいようにやりたい事を存分につぎ込んでいる感じというか勢いが感じられて、キャラクターもグイグイ動いて、読んでるこっちも勢いがつく空気感があってなんか痛快でありました。
国もキャラも、5年という月日と子供を持つ親の世代へと駆け上がったことで成熟を迎えた感もあるんですよね。行動に自信があり、人間関係に信頼があり、キャスティングボードをキャラ自身が握って動かしている感じなんですよね。
いわゆる大戦争への導入も、脚本通りではあるんでしょうけれど、その脚本自体がナオキとソアラとテレンティアに本人たちが一番やりたいようにやらせてあげる、という趣旨で転がした結果みたいなものでしたし。お膳立ては整えつつも、行動の選択はキャラ自身に預けるみたいな。こういうのって、作者とキャラクターの共同作業という体になってる感じがして、読者としてはこういうケースの作品全体のノリノリ感がほんと好きなんですわー、油が乗り切っている感じで。
感じ感じと、感じてばっかりですが、まあそんな感じなのです。

しかし、女王になり奥様になり母親になっても、ソアラのぼっちは治らんどころかますます磨き上げられてしまってるのかー。出征の際の、あとを託す子どもたちへの堂々とした宣言、「母上には友達がいません!」はちょっと不憫すぎて爆笑モノでした。彼女の場合、大半自業自得だけどな!
奥様はテレンティア以外ぼっちにも関わらず、夫の方はというとこいつ相当にアレな奴なのに悪友いるんですよねー。傭兵隊長、今は傭兵騎士のおっさんか。あのおっさんとのコンビもさることながら、軍の最高指揮官と次席指揮官のライアス公とケズテルド伯、この二人とはもうマブダチ、みたいなノリで、開戦前の相談というか悪巧みというか、さながら宅飲みでグダってるような三人のこの男同士の、おっさん三人の絡み合いはもう仲良すぎだろうこいつら、という風でいやあナオキが宰相として悪名高めながらやりたい放題やれてるの、家族がいるというだけじゃなくて、こういう心から言いたい放題言い合える得難い友人が身内に居て、偉いさんの中に居て、軍権握ってる人の中に居て、というのがあるんでしょうなあ。5年経って、国自体も発展したけれどそれ以上に味方の結束、身内の関係が素晴らしくいい形で成熟してるんですよね。今まさに、ファヴェールは最盛期を迎えつつある!とでも言うかのように。
まさにそのとおりだからこそ、チマチマしたローリスクローリターンな戦争ではなく、ハイリスクハイリターンな大戦争に打ってでることになったのでしょうが。

国際情勢も、前々の国と国の間での国境紛争という規模ではなく、同盟を結んだ国家連合同士の覇権争いへと移行しつつ在り、ファヴェールも敵を敵に回し味方も潜在的な競争相手として張り合い、と四方八方とせめぎ合うはめに。或いは望んで渦中へと飛び込んだり。
これ、地図を見ると分かる通り、欧州の地形をちょうど東西ひっくり返した形になってるんですね。ファヴェールはスウェーデンとフィンランドをあわせた土地に相当する国で、今回の同盟(アライアンス)と誓連会(リーグ)の戦争はちょうど、新教と旧教の戦いとなった三十年戦争を想起させるものになっている、と言っても細部から大きい部分に至るまで色々違うので、あくまでモデル、にもならないかもしれない。
ファヴェールが対決することになるピエルフシュは、いわゆるポーランド。ポーランドをなめてはいけません、侮ってはいけません、ある時期ではポーランドは欧州最強国家と言っても過言ではないくらいの国でしたし、まさにこのピエルフシュはそのポーランド最盛期……を若干通り過ぎたくらいか、ともあれ戦史においても伝説的神話的とすら言える騎兵、有翼重騎兵フサリア華やかなりしとき、をそのまま持ってきたような時期のかの国っぽいんですよね。
戦上手のライアス公とケズテルド伯をして、絶対勝てるかー、とトラウマになってるかのような慄き方をされているピエルフシュですけど、フサリアのあのやばすぎるというか非常識すぎるというか、現実仕事しろ、という伝説的な戦いを知ってしまうとまあ、わかるんですよねライアス公たちのトラウマ。ってか、彼らキルホルムの戦いの当事者じゃねえかw
まあそのフサリアの強さの秘密、というものをナオキは数式を以って具体的に解き明かしちゃってるんですけどね。つまり、偶然とかたまたまじゃなくて、あのフサリアの強さというのは数式で解き明かせるくらい確固とした答えの出せる強さでもあるわけだ。
ってかなんだよ、三倍の敵を中央突破で圧倒して殲滅するのを前提にした部隊ってw 前提からおかしいんですが!

そういう敵の強さの具体的なところを知っていると、ファヴェールなにやってんの!? 自殺!? 自殺!? と、あらゆる方面から白目剥かれた宣戦布告だったというのがより深く理解できるのじゃないでしょうか。
その後の電撃的な戦略機動は、ナオキの面目躍如というべきか、目指すところの高みと言うべきか。兵を歩かせてるだけで勝利を手にした、というのはナポレオンの大陸軍だったか。
ああいう士気高揚の演説を熟れた感じで出来るようになった、というのもナオキの成長、というよりも国家権力者としての成熟を感じさせられるのです。傭兵隊長のおっちゃんの忠言も、うまいこと拾い上げられてましたしねえ。少年の頃はまだまだ全体をあんなふうに掌握は出来てなかったと思う。
そう思えば、若い頃と比べても随分と腰も座りましたし、信頼できる味方も増えたものです。或いは、信頼できる人たちが増えたからこそ、余裕も備わったのかもしれませんが。でも、そういうスタッフを育て、彼らが働ける組織を立ち上げ育ててきたのも、ナオキたちなわけで、着実な躍進を様々な場面から感じさせてくれるんですよねえ。それがなんとも感慨深い。
ラストの決戦なんぞは、数学者が数式を書いてこの通りにやれば勝てるよ、と現場も見ないでうそぶいているようなもので、ある意味酷いことろくでもないことになってしまう定番とも言える展開なのですが、彼の場合計算どおりに、というのは予断や憶測、想像推理想定という曖昧な定義を重ねた計算ではなく、人の思わぬ行動や失敗不測の事態をも式の中に換算してある数式、ガチの数式なので、だいたいそのとおりに行くのであるが、往々にして人は数字がよくわからないので数字という真理を信じないし信じられないのが常なんだよなあ。まあこれも、式に代入する数字や前提が違ってしまえば、安定の計算違いになるものではあるんだけれど。
ナオキの凄みは、数学者であると同時に政治家であり組織人でもあるので、ちゃんと現実の方を数式に合わせられるだけの下ごしらえが出来る辣腕なんですよなあ。そして何より現場渦中におけるあのくそ度胸、魔術師呼ばわりも、決して的外れではないですよ、これは確かに。

さても、大戦争のタイトルに偽りなく、今までとはスケールからして異なるダイナミックな展開に、さらにラストでの大どんでんちゃぶ台返し。これはもう、今までが全部プロローグだったんじゃないの、とすら思いたくなるような、ここからさらにシリーズそのものの勢い増しましじゃないですかー、と言ったところでのエンディングであります。いやこれ、どう見ても5巻に続くじゃないんですか!? あとがきではどちらとも取れるような取れないようなコメントで、いやだからどっち!?
これはもうやりましょうよ、ガチの大戦争、さらなる大戦争を。待ち侘びます、はい。

シリーズ感想