【魔術破りのリベンジ・マギア 6.九尾の権能と鬼哭の獣】 子子子子 子子子/伊吹のつ  HJ文庫

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留年の危機に陥ったティチュと鴨女を連れ、補講代わりのレポートを完成させるべく大和へ帰国した晴栄。陰陽寮へ帰還したことで改めて自身の成長を実感するが、その変化は狐狼丸との“契約”に歪みを生じさせていた。そして、歪みをきっかけに己の在り様を問う狐狼丸に声がかかる。「久しぶりよな―いいや、はじめましてと言うべきかのぅ?」彼女こそは“邪悪の樹”序列第七位、『色欲』を司る妖婦・九曜。“白面金毛九尾の狐”として知られる、最後の神獣だった―

自らを駆り立て続けた復讐心を、多くの人との繋がりを経て乗り越えた晴栄だったけれど、それは同じ復讐というキーワードを以って同志であり共犯者ともなっていた孤狼丸との関係に新たな局面を迎えることを意味していた。
晴栄くん、自分の精神面での成長を噛み締めているのはいいんだけれど、そこで孤狼丸のことを考慮していなかったのはちと余裕がなかったなあ。彼女との契約時にあそこまで「復讐」を協力しあうための鎹にして、復讐を諦めたならば殺すという言質まで取られていながらその事について頭になかったのは、それだけ孤狼丸との主従関係が親密なものになっていたからなのでしょう。油断と言えばそうだし、これまで育んだ関係への信頼とも言えばそうなんだろうけれど、孤狼丸からしたら一方的に復讐者からドロップアウトされてしまっては、自分だけ置いていかれてしまった、という孤独感は否めなかったでしょう。晴栄の変化を裏切りと思わず、良い変化だと恨むどころか祝福するような想いを孤狼丸が抱くのは、それこそこれまで育んだ関係故なんでしょうけれど、だからといって孤狼丸自身が復讐心を「じゃあわたしも〜」と捨てることが出来るわけもないのですから、その点晴栄も自分の変化を受け入れることに一杯一杯でフォローが回らなかったんでしょうなあ。
帰国して、その足で実家に戻ることをせず、一旦探偵の三郎のもとを訪れたりとワンクッションを入れて、自分の中の感情と折り合いをつけ、恐る恐る自分の変化を確かめながら屋敷に脚を踏み入れる様子からは、確かに周りを顧みている余裕は見当たりませんでしたけど。

男子三日会わざれば刮目して見よ。
まあセイレムへの海外留学は三日どころではありませんけれど、それでも土御門の家の者たちからすれば彼の変化は目を見張るものだったでしょう。誰も寄せ付けず敵意を振りまくばかりでは、周囲の者も自然と警戒し刺々しい対応をとってしまうもの。そこに果たして、どれだけ本当の悪意が紛れていたのか。
晴栄が自然体で接してさえいれば、相対する人たちもまた警戒を解いて本来の姿で応じてくれるでしょう。そこでようやく、相手とちゃんと向き合えるということになる。偏見や予断の入った目線ではなく、冷静に客観的に相手を見ることが出来るようになるものです。
そうして相まみえた土御門の兄である晴雄には、確かに腹違いの弟である晴栄への気遣いと情愛があり、家人の藤子さんなんかも主君の弟への丁寧な対応と敬意があったんですよね。
もっとも、当然それだけでは済まないのだけれど。
ただ、晴雄さん思ってたような冷徹な人、という風でもなく晴栄を妾腹と見下しているわけでもなく、どうやら家族としての情と当主として有能な弟への期待は本物のようですし、本質的に晴栄と似た責任感と優しさを併せ持つ人のようなんですよね。しかし、そうした優しい在り方をねじ伏せてでもやらねばならない、と決めている覚悟があるようで。どうやらお兄さんの方もかなり複雑な立ち位置みたいだなあ。

と、その件は一旦置いておいて、今回の話の主筋は孤狼丸であり、その関係者だった玉藻前となっている。いやこれ、孤狼丸と晴栄の関係の更新であり進展の話であるんだけれど、それ以上に玉藻前の物語になってたんじゃないでしょうか。
本来の穏やかで優しい人格を塗りつぶされ、悪妖「白面金毛九尾の狐」という呪いへと成り果ててしまった彼女九曜の、一つの救済の物語であり、千年を越える愛の物語だったわけだ。
九曜という女性の報われ無さ、幸の薄さはあまりにも不幸で理不尽さに塗れていましたけれど、そのさなかにあった2つの出逢いは決して嘘でも偽りでもなく、千年以上を経たこの時代にすらも届く本物であったのだと。
かつて育んだ愛の残滓が、喪われたはずの想いを取り戻させてくれる、というなかなかにロマンティックな話でもあったんですよねえ。
しかし、蘆屋道満はいらんことしかしないなー! こっちの蘆屋露花はイイ子なのに。子孫にとばっちりが行き過ぎである。

さて、晴栄たちが不在となったセイレムの方でも学園長を中心として大きな動きがありそうだし、こちら土御門本家でも不穏な動きがあり、とここから大きく物語も動いていきそう。

シリーズ感想