【城下町は今日も魔法事件であふれている 2】 井上 悠宇/武藤 此史  角川スニーカー文庫

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魔法が人々の生活に根づいた世界―そこで起こる事件は実に様々である。城下町の治安を守る王都防衛騎士団に所属するノエルと、堅物の美人従騎士アリエスは「全てを貫く魔法の槍と、全てを防ぐ魔法の盾」が起こした不可解な事件の調査を命じられる。またもやそこに首を突っ込んできたのは“歩く魔術書”と呼ばれる天才魔術師のエスティカで―。お菓子事件に落書き事件、さらにはドラゴン出現で、大騒動の街角ファンタジー第2弾!
魔法が関わる事件云々以前に、この騎士団まともに捜査らしい捜査してないじゃないか。遺体の第一発見者の証言を裏付けも取らずにそのまま目撃者が犯行現場を見たという人物を犯人としてしまったり、異物混入事件でも街の噂をそのまま鵜呑みにして調べもせずに犯人扱いしたり。近代以前はみんなそんなもん、と言ってしまえばそうなのかもしれないけれど、そもそも「捜査」という概念自体が存在していないように見える。
そんな中で唯一、捜査して事件の真実を明らかにする、という考え方を持っているのが騎士ノエルなわけだ。魔法事件とかあんまり関係ないよね、これ。おおむね変人扱いされてしまっているのだけれど、何だかんだと事件の担当を任されるというのはそれだけ実績を出している、ということなのか。
でも、捜査を始める、という行動を取ることで事件の真相が埋もれてしまう結果を取り除いているとはいえ、実のところノエルってあんまり捜査自体では特筆した働きを示しているわけでもないんですよね。探偵や名刑事よろしく、抜群の勘を働かせたり名推理をしたり、というわけでもないし。別に頭が切れるという感じのタイプでもないんだよなあ。単に好奇心が強いだけで、それで観察眼が鋭いというわけでもないし。まあ、当たり前のロジカルな思考ができる、というだけでも十分なのかもしれないけれど。
なので、探偵役はだいたい魔術師でおもしろがって首突っ込んでくるエスティカなのである。いやこの人も探偵役というほど頭脳冴え渡っているわけでもないので、みんなが自分の持ちえるものをちょっとずつ持ち寄って、三人寄れば文殊の知恵じゃないけれど、そうやってワイワイ賑やかに騒ぎながらも事件の謎を解いていく、という意味ではわりと真っ当な捜査モノなのかもしれない。
事件自体も、第一の事件は殺人事件でいきなり緊迫感ある展開だったんだけれど、真犯人の証言がズブズブすぎて、これ普通に関係者に話聞いて回ったらそれだけで誰が犯人か丸わかりじゃないか、という事件で、これで冤罪になりかけた人災難だったよなあ。そもそも、ノエルがいないとこういう冤罪で捕まっている人山程いるんじゃないか、と思える内容でもあって何気に怖い。
二番目のお菓子事件がこういう事件捜査モノとしては一番展開が捻っているというか明後日にすっ飛んでいて、結構面白かった。あるクレープ屋のクレープを食べたお客さんが精神が混乱する魔法をかけられたみたいになってしまう事件。犯人扱いされたクレープ屋台の店主の少女はまったく身に覚えがなく、そもそも彼女が順調にブームになりかけていた自分のクレープに異物を混入する理由が見当たらず、彼女の潔白を晴らすためノエルたちが捜査に乗り出すのですが……。
いやこういうケースだと、どうやってクレープの中に異物を仕込むことが出来たのか、どうやったのか、という点に捜査をする上での謎解きが収束していくものなんですよね。その過程で、動機を持つ犯人が浮上してきて、クレープ屋の少女との因縁が明らかになってきて、みたいな。
でも、そのオチは考えなかった! という展開で盲点を突かれたというか、そもそもそれやってしまうと刑事ドラマとかのテンプレ崩壊しちゃう、的なもので、この発想は面白かったです。

一方で最後の事件、かなりえらいことになるわけですけれど、これ最悪を回避できたのって偶々みたいなところがありますし、ノエルもあんまり活躍できないし、そもそも犯人の動機がちゃんと語られるんだけれど、いやうんわからん! てなところがあって、一番キツかったのが一番悪い奴がノウノウと逃げちゃってる、いや逃げるどころか堂々と正義ヅラして帰っちゃってるところなんですよねえ。あれはなんかもやもやするし、鬱憤もたまってしまいます。一発食らわせてやらないと、どうにもすっきりしない。本作がそのままシリーズとして続けば、対決する余地もあったのでしょうけれどどうやらこの巻で仕舞いになってしまっているみたいですし、その意味でもちと中途半端な感じではありました。もひとつキャラにも入り込む要素がなかったかもなあ。

井上 悠宇作品感想