【やがてうたわれる運命の、ぼくと殲姫の叛逆譚】 藍月 要/かわく  ファミ通文庫

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酒場で働く少年レンは歯がゆい思いをしていた。街を守ってくれている凄腕の女魔物狩りオルカが、同じ魔物狩りである男性達からまがい物扱いされているからだ。神聖な存在“うたうたい”がその歌による加護を男性にしか与えないため、女性の魔物狩りは見下されていた。オルカの癒しになれたらと、今日もレンは歌う。彼女から向けられている気持ちにも自分の歌に眠る力にも、まだ気づかないまま―。想いが世界を変える王道シンフォニック・ファンタジー!

おおぅ、これはまた男女の役割を入れ替えたような構図の作品でしたね。歌姫的な役を担うのが14歳の男の子レンであり、そんな彼の歌声に魅了された戦う三姉妹が二十歳、十九歳、十八歳という完全に一回り上のお姉さんという……おねショタだー。
それ以上に、レンくんがこれお姫様なんですよね、立ち回りの上で。彼には戦う力は一切なく、出来るのは歌うことだけ。一方で三姉妹の方は命がけで魔物を狩る魔物狩りと呼ばれる狩人であり戦士たち。レンくんは守られるお姫様になってるんですよね、これ。もちろん、守られるだけのお姫様なんかではないのですけれど、この男の子は。戦う力が一切なくても、能力的なものではなく、気概という意味で彼はしっかりと男の子しているのです。……まあ、それ以上にその健気な性格は可愛いの一言なのですけれど。
レンくんにメロメロな三姉妹は兎も角として、彼を知る町の人達もみんなレンくんの事可愛がってるんですよね。老若男女の区別なく、酒場の歌い手として活躍しているレンくんの傾倒っぷりは、なんというか街で評判の看板娘かアイドルか、という風情で。それも、彼の歌う歌声の素晴らしさもさることながら、やっぱりその健気で可愛らしい性格なんだよなあ。
長姉オルカさんが、陰でハァハァしてるのも、まあ無理からぬところなのである。このオルカさんが、また不器用でついつい緊張のあまり気になってる子にキツくそっけなく接してしまう、というどこの強面主人公か、というムーブをやらかしているんですよね。レンくんの前でだけやたらと無表情の厳しい口調で突き放すような台詞ばかり吐いてしまうという……。そんなオルカさんにも、自分が至らぬばかりにと後悔と反省をしながら健気に笑顔で懐こうとするレンくんは控えめに言っても天使です。オルカさん自分でも吐露してますけど、二十歳と十四歳では若干犯罪臭がしますから。
しかしこれ、三姉妹全員一回り上の年齢にしたのは思い切ったというべきか。変にレンと同世代の妹を入れなかったのは、はっきりとお姉さんとショタという構図にしたかったのでしょうか。確かに同世代の少女をまぶしてしまうと、ブレが生じるとも言えますし。ただ、そのお陰で次女のベルと三女のナーファル、タイプの違うお姉さんとはいえ、オルカ一人にスポットがあたってしまって……いや、ベルは姉御肌で気安くレンとも話せるから、オルカとの仲介役として結構重要な役どころだったけれど、ナーファルはレンに好意を持ちつつオルカをせっつきながらも遠慮してか、ちとレンと個別で絡む機会が少なくなってしまい、割りを食ってた感もありましたが。

でも、完全にヒロインなレンくんでしたけれど、理不尽に対しては毅然として屈しない気概の持ち主であり、ちゃんと男の子として格好いいんですよね。街が絶体絶命の危機に陥ったときも、自らの命をかけて動くことが出来たというあたりに、ただ守られるばかりではないお姫様、という覚悟がありました。
展開としては割とオーソドックスなもの……オトコの魔物狩りの鬼畜っぷりがかなりフルスロットルなんですが、それを加味してもストーリー展開に大どんでん返しみたいなものは存在しないのですけれど、それでも話自体をグッと胸にくるものにさせているのは、登場人物たちの感情が溢れかえり決壊する場面の描写力なのでしょう。前作でもあったのですけれど、ダムが決壊するみたいに感情が爆発して溢れかえってくる激情、或いは感動や悲嘆という感情の描写がなんか漲ってるんですよね。その衝撃や震えがダイレクトに伝わってくるような力に、思わず読んでいるこっちまで飲み込まれてしまうのです。これは、大きな武器だよなあ。
だからこそ、その感情の起爆が個々人の内面のみの描写で完結しているのは、微妙に勿体無いようにも思うのです。なんていうんだろう、そこで終わってしまうというか、熱くなったものが外に、他のキャラに繋がっていかない、というかコンボが決まらない単発になっているというか。もっとシーン全体に、物語の流れの中心にその熱さが乗っていけばもっと興奮したんだろうな、感情が高ぶったんだろうな、と思ったりも。
まあそういう期待は、続きに期待したいと思います。個人的には三女の秘めた想いは応援してあげたい。そして、なんだかんだとレンと三姉妹が旅に出たあと、街の安全は誰が守るのか、という何気に難しい問題になってた部分をしっかりクリアしてたのも、あれ上手かったんじゃないでしょうか。誰よりも信頼できる託せる相手がそこに居たわけですから。

藍月 要作品感想