【86―エイティシックス―Ep.2 ラン・スルー・ザ・バトルフロント(上)】 安里 アサト/しらび  電撃文庫

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共和国の指揮官・レーナとの非業の別れの後、隣国ギアーデ連邦へとたどり着いたシンたち〈エイティシックス〉の面々は、ギアーデ連邦軍に保護され、一時の平穏を得る。
だが──彼らは戦場に戻ることを選んだ。連邦軍に志願し、再び地獄の最前線へと立った彼らは、『隣国からやってきた戦闘狂』と陰で囁かれながらも、シンの“能力”によって予見された〈レギオン〉の大攻勢に向けて戦い続ける。そしてその傍らには、彼らよりさらに若い、年端もいかぬ少女であり、新たな仲間である「フレデリカ・ローゼンフォルト」の姿もあった。
少年たちは、そして幼き少女はなぜ戦うのか。そして迫りくる〈レギオン〉の脅威を退ける術とは、果たして──?
シンとレーナの別れから、奇跡の邂逅へと至るまでの物語を描く、〈ギアーデ連邦編〉前編!
“──死神は、居るべき場所へと呼ばれる”

レギオンが蔓延る領域の最深部を突破して、ギアーデ連邦まで逃れたシンたち86。連邦はトップである大統領を含めて、このレギオンとの絶滅をかけた戦争の只中でありながらかなりマトモな倫理観を保っている国で、シンたちはその悲惨な境遇も相まって手厚く保護されることになる。元居た共和国があまりにもクソすぎたので、それと比べればどこの国情も大概「まとも」に見えるんだけれど、それとは関係なしに比較的にではなく、本当にまともなんですよね、連邦。
ただ若干国家国民全体に潔癖のきらいがあるのは、ギアーデ帝国というレギオンを生み出してしまった国から革命を起こして連邦を立ち上げた革命国家だからかもしれない。国の中枢から一般市民に至るまで全体的に「正しさ」という理念への拘りが垣間見えてくる。
でも、その正しさが基本悪への排斥ではなく、多人種への融和や自由意志の尊重という方向へと向いているのだから、大したものである。革命政権というものは、よっぽど出ない限りだいたい既存の体制の破壊から混乱をもたらしてまともな国家運営にまで漕ぎ着けられないものなのに。
それだけ、今暫定大統領を務めているエルンストがよほどの傑物だった、という事なのだろう。シンたちの保護責任者にもなったこの人、プライベートではぽややんとした学者風のおっちゃんで人柄もよく真面目な善人なんですよね。いい人なんだ、この人が革命の首魁だったとは思えないほどに。
もう戦わなくていい。君たちはもう幸せになるべきだ。
86たちの悲惨な境遇は連邦内で大々的に報道され、シンたちは守られるべき子供として保護され、戦いから遠ざけられることになる。シンたちも初めて味わう真に平和で平穏な日々を過ごし、楽しみを覚え友達を作り、何事もない日常に慣れ親しんでいく。
シンたちは、平和を拒絶したわけでも慣れなかったわけでもない。ただ、選ばなかったのだ。彼らは、今このせかいがレギオンによって滅ぼされようとしているという現実に、背を向けなかった。それは確かに選択だろう、彼ら自身が選んだ道なのだろう。でも、もうほかの人たちに任せていいんだ、と思うことすらも出来ず、現実から逃げることは出来ない、と疑いもしていない時点でやはり「囚われている」のではないだろうか。
死に急いでいるわけでもないだろう。シンが殿を務めようとした時に皆が抱いた怒りは、死への拒絶だ。最後まで生きようと足掻いたが故に、彼らは連邦まで逃げ延びることが出来た。
にも関わらず、彼らは自分たちの最期が戦って死ぬことだと、本当に疑問にも思っていないのだ。それが当たり前の結末だと、真理のごとく思い込んでいる。
いつか死ぬ順番が来るのを、必死に遠ざけようとしながら、順番が自分の所に来ること自体は当然だと思っているのだ、こいつらは。それが、義務だと思っている。先に逝った戦友たちのもとに、自分たちもいずれ行くものだと思っているのだ。
それは、やっぱり、おかしいだろう。おかしいじゃないか。
だから、彼らが戦場に戻ることに憤り反発しながらも、最終的に彼らの意志を尊重したエルンスト大統領が、それでもなお抗うように彼らに示した道には、大きな共感を覚えるのだ。
戦争が終わったあとのことを、終わった後になにをしたいか考えてくれ。
戦争が終わるものだと、まるで頭になかった彼らに。戦死だけが終わりだと思いこんでいた彼らに、本当の意味で未来・将来というものを少しでも意識付けることに成功したエルンストは、親代わりとしても偉大な人物なのだろう。
レギオンに奪われ意志を乗っ取られた兄を討つ。その目的を果たしてしまい、ただでさえ生にしがみつくべき理由を失っているシンにとって、エルンストが指し示してくれた未来というものは、彼の中に強く焼き付いているレーナの存在を、もう一度強く意識させる要因になったような気がする。
もう一度、彼女と再会する。一巻の終わりで結実したこのシーン、ここに辿り着くためには果たして86たちはただ戦場に戻って死にものぐるいで戦うばかりでは足りなかったはずだ。強い、目的意識、生への執着、叶えたい願いこそが現世にしがみつく力となる。ただ、敵を倒すための狂った化け物というだけでは、どこへも辿り着けない。フレデリカのシンへの危惧もまた、そのあたりだったのじゃなかろうか。
いずれにしても、この物語が彼ら86たちが明確に、戦争が終わったあとの事を思い描く日が来るのを描くためのものであることを、願うばかりだ。

今回は、ちょっと時系列が前後するところがあって、わかりにくいというわけではなかったんだけれど、その理由がちとわからなかった。特にユージン、あれを先に描いちゃうのって逆に最初の時点では誰?という印象になってしまって、あんまり意味なかったんじゃないかな、と思ってしまった。
言うほど、しっかりとユージンと絡むシーンも少なかったし。あれだと、友達だという印象も薄いままで通り過ぎてしまったような気がする。それを言うと、86のシン以外の面々。ライデンはサブリーダーで兄貴分、というところで存在感あるんだけれど、他の面々はこの期に及んで未だにキャラの掘り下げが足りてない感じで印象薄いんですよね。これは一巻の時点からそうなんだけど。
あと、時々唐突に情景描写が抽象的になることがあって、そうなると何が起こったのか具体的なところがよくわからないまま、置き去りにされて話が進んでしまう所が何度かあって、ちと引っかかったんですよね。

ラストはレーナがすべて持っていってくれました。なんですかあれ、状況設定といい台詞回しといい、めちゃくちゃ燃えるじゃないですか。
最後の最後にガツンとテンション金槌で叩き上げての、次回へ続く。成長という意味では、レーナの方が何も知らず何も出来ず何も分からず為すすべなかった頃から、尋常ではなく爆上げしてるよなあ、これ。

1巻感想