【ロード・エルメロイII世の事件簿 8「case.冠位決議(上)」】 三田誠/坂本 みねぢ  TYPE-MOON BOOKS

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不気味に蠢動するハートレスの足跡を辿るべく、調査していたエルメロイII世とグレイのもとにもたらされたのは、『冠位決議』の知らせであった。
何人もの君主と代行たちが集まるという会議に、無論エルメロイII世も召集されることになる。しかし、このたび掲げられた問題は、貴族主義派、民主主義派の双方を揺さぶり、魔術協会全体を混乱に陥れる陰謀の渦だった。
時計塔の地下に広がる大迷宮と、その生還者。
謎の、連続失踪事件。
そして、いずれ劣らぬ時計塔の支配者たち。
 
『ロード・エルメロイII世の事件簿』、最後の舞台の幕がいま開く――

ひょっひょっひょっ! と思わず変な声で笑ってしまった時計塔の新たに明らかになった新設定。待って、本当に待って。大迷宮と言われるとまあわからなくはないな、というところなんですけど、迷宮は迷宮でもこれまさにダンジョンじゃないですかー! フラットくんがもろに言っちゃってますけれど、これってウィザードリィばりのダンジョンじゃないですか。神秘が絶えつつある現代において、ダンジョンに潜って今地上から消え去ってしまった神秘の品の数々を発掘してくる、しかもダンジョン内にはやっぱり地上からは消え失せた高位の幻想種がうじゃうじゃと。そんなモンスターを倒しながら発掘を続ける者たちが住まう地下都市まで存在し、掘り出した品は時計塔のある部門が一手に買い取ってって完全に「現代にダンジョンが現れまして」みたいな話じゃないですか。いや、現代に唐突に現れたのではなく、神代から延々と存在し続けてきたのだから、意味合いは全然違うんだけど在り方が完全にそれじゃないですか。タイプムーン! これタイプムーンだよね!?
FGOの第一部第4章でのロンドン編にて時計塔の地下に潜った場面あったけど、おおう……。
極悪なのは、一攫千金や成り上がりを目指して地下に潜った魔術師たちは通常では地上に戻れないんですよね。ある一定の条件をクリアしないといけなくて、ある程度の金額を収めたりとか。素材を買い取ってくれる秘骸解剖局は、どうやらメチャクチャ搾取して買取金額買い叩いているらしいし。
カイジの帝愛グループの地下強制労働施設みたいなもんじゃねえか。
いやもう、あんまりと言えばあんまりのド級な設定に、びっくりするわ仰天するわ、あひゃあってなもんである。
件のダンジョン「霊墓アルビオン」こそが、この度の「冠位決議」の議題となってくるわけだ。時計塔の三大派閥のうちの民主主義派と貴族主義派の普段は表に出てこないトップたちが出張ってきて、おうおうお前どうすんじゃい、とばかりに派閥最下位に甘んじているエルメロイ兄妹に激烈なプレッシャーを掛けてくる羽目に。
そもそも、「冠位決議」の議題の内容どころか「冠位決議」が開催される事すら知らず、辛うじて直前に化野さんからのリークのお蔭で事前に構える程度の準備しか整えられなかった情報弱者なエルメロイさんたち。普段の権力争いがおままごとに思えるほどの、本物の化物同士の政治抗争の只中に放り込まれたエルメロイの運命やいかに。しかも、その派閥のどちらかに先代現代魔術科のハートレスの陰がちらつき、件のアルビオンのダンジョンサバイバーにしてハートレスの弟子だった者たちの失踪事件が同時進行で発生していて、自体は錯綜に錯綜を重ねている。
おかげさまで、エルメロイ先生も派閥トップたちとの会談と並行して情報収集と調査をするはめになってしまう。いやもう、本当に同時進行するはめになってるし! ライネスの水銀の支援を受けているとは言え、自分を並列に存在させるとかウェイバー・ベルベットのくせに頑張ってるじゃないですか。普通以上の魔術師なら口笛吹きながら出来る程度のことなのか、これ。ズェピアやシオンの並列思考とは比べるべくもないとは思えるのだけれど、片方で講義と情報収集しながら片方で言葉による切合と探り合いという政治会談を並行してやるって、普通に凄いと思うのだけれど。頑張ってる、頑張ってるよお兄ちゃん。ちっちゃいエルメロイ先生はあざとすぎて笑ってしまいましたが。あれ、ディフォルメじゃないんだ、残念なことに。
ライネス、政治案件は得意じゃない義兄に変わってそちらこそ自分のステージ、と自認してるんだけれど、何気にメンタル脆い所もあって窮地に立たされたり圧倒的不利な状況に追い込まれると結構あっさりと心折れそうになるところあるんですよね。イゼルマでも犯人にされそうになってだいぶくじけてたし、今回も民主主義派の首魁であるマグダネル・トランベリオ・エルロッドの突然の登場と介入に怖じ気そうになった所で、傍らで開き直ってドンと腰を据えて受けて立ってみせたお兄ちゃんに、あれ悪口言ってるようで遠回しにキュンキュンしちゃいました、って言ってるようなもんですよね。なんだかんだと、お互いを頼りにしまくっている兄妹である。どちらが欠けても、時計塔という魔界では生き残れないことを、この難局で改めて感じ取れる次第です。

アルビオンを巡る政治抗争と共にハートレスの暗躍を調べるうちに、浮き上がってくるのはハートレスという謎の人物とロード・エルメロイII世の共通性。お互いに感じ取っている、あれはもうひとりの自分であり、鏡の向こうの逆しまのアリ得た自分だ、という確信。すなわち、自分との対決。シリーズの最終章としては十分以上の主題である。おまけに、ウェイバー・ベルベットの行動原理であり根源ともいうべきイスカンダル王に触れるところも出てきて、まさにロード・エルメロイII世を問う物語になってきた。
シリーズ屈指のジョーカーとも言える蒼崎橙子も再登場しがっつり絡んできた上で、物語が動き出す下準備は完了した。ここから一気に最終巻へ、という予定だったのが上下巻構成から上中下巻になったんですよね。その分密度も濃くなったクライマックス、ここからどう動いていくのか非常に楽しみ。

あとアトラム・ガリアスタ、第五次聖杯戦争がサーヴァント七騎全騎が召喚される前に死亡脱落した、という情報が舞い込んできて、アトラムくん……。

シリーズ感想