【のけもの王子とバケモノ姫】 平尾 隆之/足立 慎吾  富士見ファンタジア文庫

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長大な壁で外界を拒絶した人間の国イエール。不治の感染病にかかった第三王子シュウは、壁の外に追放されてしまう。そこは異形の民モール族が生きる荒れ果てた大地…未来に絶望するシュウ。そんな彼に手を差し伸べたのは、モール族でも異端の美しさを持つ王女ミサキで―「ひとつだけあるわ。お前の居場所になるかも知れないところが」新天地で出会う彼らの文化や生態にシュウは驚き、魅了され、いつしか人間とモール族が共に生きることこそが希望だと気づき!?ふたつの種族の間に横たわる大きな『壁』に、それぞれの異端のふたりが立ち向かう、王道冒険ファンタジー!
あとがきを読んでから知ったのだけれど、この平尾さんってアニメ監督やってる人なのですね。なるほど、言われてみると本作ってオリジナルのアニメ映画的な作りであるんですよ。一時間から一時間半の放映にすっぽりと収まるくらいのこじんまりとした世界観、それぞれの対立民族の置かれた状況設定、その狭間に放り込まれることになる主人公と、ヒロインであるお姫様の「のけもの」同士のボーイミーツガール。そこからの、長く固定化されていた現状の破綻からの破局。それを回避するための戦い。オーソドックスであり、王道的な展開なんですよね。その物語の流れにともなくエピソードの摘み方が熟れているというか、まとめ方にソツがない感じが読んでてしていたのですが、作者の本業を知ってなるほどなあ、と納得した次第。
ただ、小説という媒体がはじめてなせいか、どうにも冒険や遊びが少なくてきっちり纏めよう纏めようという感覚が伺えるんですよね。物語を正常に運行しようというスケジュール管理がしっかりしすぎていて、キャラの掘り下げなどが表層だけで片付けられてしまっているような。モール最強の剣士であるあのちっちゃいキッカに関するエピソードなんかは特にそんな感じで、モールの王族の次兄の酷薄さをアピールするための要素になってて、キッカ自身の存在感を示すものにはなってませんでしたし。
でも、後半に入ってからちょっとしたギャグが挟まれるようになって、シュウが右往左往したりツッコミいれたり、という場面が増えてきたのは、あれ物語の進行上では余分ではあるんですけど余分であるからこそ作者の筆が乗ってきたような感じがして、良かったと思うんですよ。脚本の上の駒という役割から、書いているうちにキャラとして自由に振る舞い出したというか、作品として完成させるという最終目的だけではない、キャラへの愛着が湧いてきたような感じが伝わってきて。
そうなってくると、シュウとミサキのやり取りなんかもずっと生き生きしたものになってくるんですよね。二人が段々と惹かれていく、という関係の変化もあるのでしょうけれど、ベアトリーチェとの気のおけないやり取りも含めて、前半の頃よりもずっと躍動感が出てきてるんですよね。
もし続くなら、この生き生きとした雰囲気は作品全体に広がっていきそうな、もっともっと良い作品になっていきそうな感触がありました。
どこかすっとぼけたベアトリーチェも、恥ずかしがるミサキも終盤ほんとに可愛くなってたので、これは続きを見てみたいですね。モール王の意味深な台詞もありましたし、ミサキの出自もまだ謎が多かったみたいだし、引き出しはまだ十分にあるはず。