【浅草鬼嫁日記 七 あやかし夫婦は御伽噺とともに眠れ。】 友麻碧/あやとき  富士見L文庫

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茨木真紀は、かつて鬼姫“茨木童子”だった前世を持つ女子高生。前世の夫“酒呑童子”だった天酒馨らとともに、浅草あやかしを狙う「狩人」の騒動を退けて、無事に高校三年の新学期を迎えていた。陰陽局の津場木茜が転校してきたりと、少しずつ変わっていく真紀たちの日々。そんな折、法事で実家に帰る馨に、真紀はついていくことに。訪れたのは「御伽噺の隠れ里」と呼ばれる九州の片田舎。二人はそこで、夜毎屋敷をさまよう面妖な人間と遭遇し―。伝承と謎を相手に「最強の鬼嫁夫婦」も眠れない?
なんかもうねー、まいったなー。
ホロホロと泣いてしまったんですよね、これ。気がついたら、グワーッと泣けてきてしまってたんだ。
こういう思わず泣いちゃう時ってね、読んでて自分でも感情が沸き立っていくのがわかるし、わからない時はそれだけ夢中になってるか没頭してる時なんですよね。それでも、あっこれは泣いちゃう、というのは事前にわかるんですよ。
でも、今回はほんと気がついたら泣けてきちゃってて、自分でも「え? なに?」とちょっとびっくりしてしまったくらいで。あれ? これ自分、感動してる? と理解があとから追いついてきたんですよね。
それくらい、自分の中で馨と彼の母との和解というのは盲点で、もうあり得ない事なんだと思いこんでたんでしょう。
彼の母である雅子さんの馨への拒絶は本当に酷いもので、こと天酒馨の崩壊した家族関係はもう絶対に元に戻らないものだと思ってたんですよね。だからこそ、馨は真紀との関係に家族を求めて、正式に恋人となって将来を約束した今となってはもう彼の求める「家族」というものは眷属たちや仲間たちも含めて満たされた、と思っていたわけです。過去はもう過去であって、今更振り返るものではないと、克服したものなんだと。それは、諦めたとすら考えていなかった、決着のついたものだと、そう思っていたんです。
でも、真紀と結婚して夫婦になっても、それは前世で茨姫と結ばれた過去に並んだだけで、それ以上ではなかったんだなあ。いや、真紀とこのまま末永く生きていければ、悲劇に終わった前世よりもそりゃあ超えたものになるんだろうけれど。素敵な奥さんとの夫婦生活、というのはすでに前世で一度は得たものだったんですよね。それで足りないなんてことは全然なかったから、それ以上のことを別に何も考えていなかったんだけれど。
酒呑童子ではなく天酒馨という人間の男の子が本当以上の、最高の幸せを手に入れるには、幼い頃の悲しい思いを、得られなかった親の愛を取り戻して、辛い記憶を払拭することが最高の手段だったんだなあ。
それはでも、決して叶うものではないと思っていたのだけれど。そうか、時間を経て一度離れて距離を置くことで、そして馨が成長して大人にはまだなっていないけれど高校生になって、真紀との関係も幼い頃のあの必死で寄り添っていた頃よりも落ち着いたものになって、全体的に余裕ができた今でこそ。
そして雅子さんの方も、精神的に追い詰められてささくれ立ち過敏になっていた心が落ち着きを取り戻し、田舎の実家での生活によって余裕ができたときに、改めて自分の息子に対する所業を思い出してとてつもなく後悔していたのだ。
そうしてお互いに余裕ができたからこそ、落ち着いて向き合う機会というのは出来るもんなんでしょうね。
正直、馨の親への接し方というのは褒めれられたものがなかったのは確か。幼児からあんな態度取られ続けてたら、母親としてもノイローゼになっても仕方ないんじゃと同情してしまう部分はある。育児ノイローゼって非常にデリケートで周りの理解とサポートが必要なものですけれど、雅子さんもそのへん難しかったんだろうなあ。普通の育児の問題とはまた違う形ですし、馨との関係は。
馨としても、前世からして親と酷いことになってるわけですから、どう両親と接したらいいかわからない部分もあったでしょうし、元々人間関係小器用な方でもないわけで。
人として暮らした十数年間が。一般学生として同じ子供たちと一緒に学び、社会に出てバイトして、真紀と一緒に過ごしつつ他の人達とも遊んだりしていった経験は、確かに天酒馨のものとして酒呑童子のものしかなかった人生経験を上積みしてくれたんでしょうね。
再会した雅子さんと最初は恐る恐るお互い触れるのを怖がってなかなか近づかなかったけれど、事件を通じてちょっとずつ話すようになり、距離感を縮めていく間、馨の態度ってのはほんと、ただのちゃんとした高校生の息子って感じだったんですよ。ちょっとぶっきらぼうだけど、母親に接するただの十代後半の男の子の姿だったのです。
雅子さんの方も、どう考えてもおかしい幼児な息子よりも、高校生くらい成長した息子の方が違和感感じにくかったんじゃないかな。馨が結構普通にただの息子していたのを除いても、変に大人びたような幼児よりも、高校生くらいに成長した馨は精神年齢のギャップみたいなものが少なかったんじゃなかろうか。フラットに、接することが容易だったような感じなんですよね。
雅子さんって、過去の回想の印象からもっとヒステリックで神経質なイメージだったんですけれど、本来の彼女、改めて再会したお母さんってどこか頼りがいがあって姉御肌な部分もある懐の広い感じの女性で……何気に真紀ちゃんと似てるんじゃないか、と思えてしまう所すらある感じだったんですよね。
ああ、馨のお母さんって、こんな人だったのか、と。凄く新鮮だったんだよなあ。
ちゃんと、馨のこと愛してたですよね。そして、それは過去形じゃなくて今もちゃんと愛してくれていた。だからこそ、酷く馨を傷つけたことを後悔していて、自分の存在そのものが彼をまた傷つけるんじゃないか、と避けるようにしていたんだけれど。馨もまた似たような事考えてたんですよね。自分の異常さが家族を壊してしまった、母を傷つけてしまった、と。
だから、真紀が鎹になってくれなければ、この二人がまた家族になれることはなかったのでしょう。ちょっと真紀ちゃん、いい奥さんしすぎである。今までで一番良妻ムーブしてましたよ。真紀ちゃん一緒に連れて行くように言ってくれた馨の親父さん、ほんとグッドジョブである。
まさか、雅子さんに本当に全部、馨や真紀が妖怪とかこの世ならざるものを見ることが出来る、というだけではない、前世のことまで全部詳らかに打ち明けることになるとは想像だにしていなかったけれど。
一連の事件で、雅子さんは今度は決して逃げず、目をそらさず、全部受け止めてくれたんですよね。だからこそ、真紀も全部打ち明けなきゃ、と。そうすることで二人は今度こそ本当の母子になれる、と思うことができたんだろうけど。
あのもうどうしようもないくらい壊れてた母子が、馨と雅子さんがホントにただのそこらへんの高校生の男の子とその母親みたいな、普通の会話をしてるわけですよ。日々の生活の中でどこの家庭でもかわされてるような、ぶっきらぼうでふてくされたみたいだけどよく気がつく息子とそんな子供に遠慮なく背中を叩いて笑って叱咤するような元気なお母さん、みたいな光景が。
普通の親子の姿が、あったわけですよ。絶対にありえないと思っていた光景が。
もう、それ見てホロホロと泣けてきてしまったのです。
本当に、良かったなあ、と心の底から思えたんですよねえ。

これは徹頭徹尾、天酒馨という人間のお話でした。今回に限っては、酒呑童子という前世は関係ないんですよね。前世と紐付けされていない、天酒馨という人間が確立されたともいうべきお話で、茨木真紀が好きになったのは天酒馨という人なのだ、という彼女の想いを確かなものにする出来事でした。
ライ、というもうひとりの酒呑童子の魂を持つ存在が現れているからこそ、今回の話はとてつもなく重要だったのでしょう。馨のレゾンデートルを揺るがす彼の存在ですが、今回の一件で馨の側は強固に補強されたわけですから。
しかし、一方でライが酒呑童子の魂を持つ存在であることには違いなく、果たしてそれを真紀ちゃんが無視できるのか、という問題があるんですよね。真紀ちゃんが好きで愛しているのは、間違いなく馨です。これは揺るがない。彼女はとっくに選んでいる。でもだからといって、前世からの思いに苦しんでいるライを無視して関係ないと突き放せるような娘でもないわけで。選んだからこその苦悩が、彼女につきまとうことになるんですよね。
凛音の方もやたらとややこしいことになってるみたいですし。むやみに汚れ役しようとせんでもー。

シリーズ感想