【監獄勇者のやり直し 貶められた最強の英雄は500年後の世界を自由に生きる】 瀬尾 つかさ/平井 ゆづき  富士見ファンタジア文庫

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世界を救った不死の英雄・コガネ。時代の皇帝の謀略により無実の罪で監獄城に幽閉されたコガネは、誰からも忘れ去られ、悠久の時を生きながらえていたのだが…
「これよりわれは、汝を時と肉の呪縛より解放する!」
500年後の未来。邪竜の転生体と語る謎の少女と共に脱獄を果たしたコガネは、時に追われ、時にかつての仲間たちと再会しながら、失われた人生を取り戻していく。手にするのは牢獄で練り込んだ莫大な霊気。一度伝説となった男は、今度は自分のために力を振るう。完全×無敵の未来転生クライムファンタジー、ここに解禁―!

これ、婚約者だった皇女さまが囚われのコガネの事に通い続けて、生涯掛けて彼のことを助け続けようとしてくれる、ある意味凄まじいとすら言える献身がなかったら、コガネって闇落ちしててもおかしくなかったんでしょうねえ。それくらい、あまりに理不尽な仕打ちだったわけですし。
牢獄に閉じ込められて以来、扉越しに顔を見せ合うことすらできないまま、嫁がされて子供が出来てもなお、コガネを救おうとし続けた皇女さま。老いてもう自分の人生が潰える時が来ても、コガネに希望を残し、また自分の子孫に彼を救えと願いを託したユーフェリア姫。彼女の人生はまさにコガネの為に費やされたと言ってもいい。それがコガネの心をどれだけ救ったか。
解放されたあとのコガネが怒りにも憎しみにも恨みにも囚われていなかったのは、皇女様の愛のおかげだったのではないでしょうか。500年後にコガネを解放しにきたアイシャは、ユーフェリアの遺言を伝え続けた子孫だったわけですし。なんの因果か、その少女は彼らコガネたち七人の勇者が倒した邪竜の転生体でもあったわけですが。
でも、ユーフェリアに姿がうり二つなアイシャは、コガネにとっても邪竜という敵ではなくあくまでユーフェリアの子孫という意識なんですよね。アイシャも、つい先日自分の国と家族を内乱によって失ったショックで前世の記憶が戻った、という状態ですので人間という自覚の方が強いみたいですし。
実際、尊大で偉そうに見える性格は邪竜っぽく演じているもので彼女の本質は優しく非道を許せない真っ直ぐなお姫様らしいもので、彼女自身人間としての記憶や思い出、感性を大事にしているようでもう人間になった以上は人間の敵対者にはならないつもりだ、と明言している。
一方で、七人の勇者たちに奪われた竜の霊気を取り戻すために、まずはコガネを助けて彼を不老不死の呪いから解き放ったわけですから、力を取り戻そうという目的はあるわけだ。そのたびに竜としての記憶も取り戻していくようなので、今後どうなっていくかは予断を許さないのだけれど。
でも、話を聞く限りだと竜も邪竜なんて言われてるけれど邪悪なもの、というよりも超自然的な存在だったみたいだし、今更人間として産まれて生活した価値観はなくならないみたいだし、パートナーとして信頼できる魅力的なヒロインなんじゃないだろうか。

そう、解放され自由になったコガネだけれど、恨みを晴らす相手となる帝国はユーフェリア姫がまだ健在の時代に滅び去っていて復讐の相手も八つ当たりの相手もいない状態なんですよね。
そんな彼にとっての心残りは、自分と同じく邪竜退治の影響で不老不死となってしまった他の仲間たち。邪竜の霊気を宿している以上、今の時代にも生き残ってるのは確かな話。アイシャも、自分の竜としての霊気を取り戻すために、コガネの仲間たちを探すつもりだったので彼も同行することになるのですが。
あらすじでは自分のために力を振るう、なんて書かれていますけれど、実際は力を取り戻したいとするアイシャを助けるためですし、かつての仲間たちが自分と同じように不老不死の呪いに苦しんでいればそれから解き放ってあげたい、という気持ちからなんですよね。ユーフェリアのお蔭で、負の感情から解き放たれているコガネは、だからこうして解放された今も自分以外の誰かのために剣を振るうことが出来る。過去に囚われずしがらみや因縁ではなく、自由な心で自分の望みとしてそれが出来る、というのがアイシャの快活なキャラに依るものだけではない、この作品が重く暗くならずどこか明るい雰囲気を携えているのではないでしょうか。

最初に再会を果たした仲間である聖女ミルが、いい意味で500年前と変わっていなかった事も、それに拍車をかけている気がします。彼女自身、500年の孤独にずっと苦しみその身を滅ぼしかけていたわけですけれど、なるほどあのほわほわとした笑い方が似合うキャラクター、というのは納得だなあ。ただ、彼女がいい意味で変わっていなかった、というの幸いではあるのですけれど、これ以降の仲間たちの再会には不穏がつきまとうのも確かなので、明るい話ばかりでは済まないかもしれませんが。
しかし、ミルって仲間ウチでも妹キャラで実際幼い方だったみたいなので、わりとちんまいキャラを想像してたのですけれど、巻末でのショートストーリーでアイシャと並んで描かれた挿絵だと、アイシャの方がだいぶちびっ子じゃないですか!? あれ? これミルが背が高いの? それとも、アイシャがちびっ子なの!?