【最強の傭兵少女の学園生活 ―少女と少女、邂逅する―】 笹 塔五郎/ Enji  ダッシュエックス文庫

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伝説の傭兵エインズ・ワーカー。彼には、拾い育てた娘同然の傭兵少女―シエラという子がいた。…なのだが―、「俺は傭兵を引退する」エインズの突然の引退宣言。戦場以外の世界を知らないシエラは、エインズの言いつけで王都の学園に単身通うことになる。傭兵の経歴を隠す生活は窮屈だったが、シエラは孤独な貴族令嬢のアルナと出会い、友情を育む。しかし王位継承争いにアルナが巻き込まれ、暗殺者の手が迫ったことで事態は一変。アルナを守るため、シエラはエインズ譲りの最強の力を振るうことを決意する。世間知らずの最強傭兵少女が繰り広げる、ガールズバトルファンタジー!堂々開幕!!

空気を読まない・読めないというのは良し悪しがあるのだけれど、場の空気に気づくことなくあるがままを押し通せる強さというのは、時にその空気そのものに縛られ雁字搦めになっている人を空気から救ってくれるんですよね。
アルナという子は周囲によって縛られているというよりも自縄自縛に陥っていたと言えるのでしょうけれど、シエラの空気を読まずあるがままを、身分やしがらみに囚われずにその人を見て思った事をそのまま口にすること、考えをそのまま行動に移すあり方はアルナのどこにも行けなかった自身への捉え方をひっくり返してくれるのである。というよりも、シエラの自由な言動に振り回され引っ張り回され、一方で放っておけずに世話を焼いているうちにそれどころではなくなった、というべきか。
シエラもあれで決して無神経に好き勝手やっているわけではなくて、彼女なりに一生懸命気を使ってはいるんですよね。父親がくれた凡人ノートという一般生活に必要な知識が記されたマニュアルを頼りに、自分を一般人に合わせようと努力しているのがその証左で。本当に全く空気も読まず自分の好き勝手するだけの子なら、そもそも周りに合わせようという努力すら発想もしないのでしょうけれど。最も、シエラの場合は最初は父親にそうしろと言われたから、という理由であるあたり真剣度はいまいち足らなかったのだけれど、途中からアルナのため、という彼女個人の理由であり原動力が生まれることで、真剣度がまた変わってくるのですが。
しかし、パパさんもちゃんとマニュアルを用意してくれているのは素晴らしい配慮なのですけれど、そういうマニュアルが必要な娘であるという正しい認識を持ってるにも関わらず、肝心のマニュアルである凡人ノートの中身が、対象であるシエラに内容の意図が殆ど伝わらない仕様になっていたのは失敗なんじゃね?と思うんですが。シエラがそういう子だというのは、パパさんが一番誰よりも分かっていただろうに。まあ、わかっていてもそれに対応できるマニュアルを書けるかどうかは能力四次第であって……文筆力なかったんだろうな、うん。脳筋タイプの傭兵っぽかったもんな、うん。
とはいえ、本当に大事なことについては過不足なくちゃんと伝わっていて、それがシエルという少女の人生を決定づけ、運命の人と出会い道行きを同じくする一番重要な要となったのだから、なんか苦手そうなのに頑張って書いたっぽいノートは無駄ではなかったのでしょう、良かった良かった。

個人的にはアルナの方にもうちょっとシエラの人生を一変させるだけの存在感を見せて欲しかったかな、と。伝説の傭兵の娘であるシエラの、その能力に対して下心を持っていたのは全然構わないのだけれど、全体的にウジウジとした陰に籠もったところのある子でシエラの世話を焼くわりに面倒見が良いという印象もなく、もう一つ百合ヒロインとしての魅力に物足りなさを感じてしまった所があったので。
ここからもっと仲を深めていって、自身を輝かせていってほしいものです。