【ソード・ワールド 蛮王の烙印 古の冒険者と捨てられた姫騎士】 北沢慶/グループSNE/黒井 ススム ドラゴンノベルス

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世界を救って300年。目覚めたら戦乱の世でした――なので、ぶっ潰します

文明を破壊した蛮族大侵攻〈大破局〉に抗い、その身を捨てて世界を救おうとした冒険者エルヴィン。後の世に“破界の魔王”と呼ばれる彼を、小国の姫が蘇らせた。
文明は衰退し、未だ蛮族と争う世界。
身内に捨てられ、魔王にすら縋る彼女のため、古の英雄は嗤う。

「さあ――冒険を始めようぜ」

最古最強の冒険者はその力で覇道を為す。今度こそ、平和を創るために。
何気にソードワールドが2.0以降になって以来長編小説として世に出たのって、同じ北沢慶さんの手掛けた【剣をつぐもの】以来になるんじゃなかろうか。短編集なんかはちょこちょこと出てたみたいですけれど。
ちなみに本作はバージョン2.5だそうで。いずれにしても、蛮族の設定などソードワールド2.0以降の世界観を把握した前提での話になっているのでその辺わからないとちょっと混乱するかも。
主人公のエルヴィンは300年前の大破局の只中で蛮王と直接対決した英雄の一人。そこで相打ちとなり死の眠りについたものの、それが姫騎士ヘドウィカの手によって現代に蘇り、ってこれ確かに異世界転生じゃないけれど、過去の英雄が復活してという主人公最強モノですねえ。だってこれソードワールドのロードス島戦記で例えるなら、魔神討伐の六英雄のひとり、例えば暗黒皇帝ベルドとかを復活させて仲間にしました、みたいなもんじゃないですか?
強いよ、そりゃ!
姫騎士ヘドウィカとそのパーティーが挑まないといけないクエストは、そりゃ初心者パーティーが挑戦するような簡単なものではなく、なかなかのハードモードなわけですけれどそれでも主人公がこれだと頼もしさがありすぎるw
しかし肝心の主人公エドウィンは、蘇生の影響でほとんど記憶がなく自分が何を成しどんな人生を歩んでいたかも覚えていない状態。なぜか、世界を崩壊させた【破界の魔王】呼ばわりされてるんですよね。かつて勇者エドウィンと呼ばれ、実際大破局のラスボスと思しき相手と戦って相打ちになっている様子が冒頭で描かれているのだけれど、それがどうして魔王と呼ばれ忌み嫌われる羽目になったのか。そのへんがさっぱりわからないので若干もやもや。いや、伝承でも何でも何があったのか語ってくれればいいのに、魔王と呼ばれているという話だけで具体的な話はさっぱりなくて触れられないままだったものですから。リカントのガイの居た集落ではまた別の伝承が残っていたみたいだけれど、魔王扱いは一緒だしやっぱり具体的な話はなんにも語ってくれないので、せめてもうちょっとエドウィンの過去については踏み込んで描いてくれたほうが嬉しかった。
でないと、ヘドウィカの血筋やどうして彼女が追い詰められていたとしても世界を崩壊させたとされる魔王を復活させたのか、その彼女の秘めた憧れのもっと強く感じ入ることが出来たのではないかと。
ともあれ、エドウィンってば魔王呼ばわりされるのだけれど、その性根と来たら元冒険者らしいあらっぽさこそあるものの、悪行に憤り善行に笑みを浮かべ、結構温厚で穢れものとして理不尽な扱いを受けてもまあそういうものか、とあんまり怒らないですし、物の道理というものを弁えてて、どちらかというと理性知性の人物なんですよね。基本いい人。
なので、どこが魔王なのかと。まあ魔王云々はどこかで情報がねじ曲がって伝わった結果に過ぎないので本人関係ないのですけれど。
とはいえ、魔王本人がそういう理知的な人物なので警戒バリバリな姫様のそれ、ほぼほぼ空回りなんですよね。まあ姫様も自分の家に伝わる伝承から、魔王というのが偽りで本当は勇者という話を信じていたからこそ復活させたわけですから、どう接したらいいかわからないと空回りしていた部分もあるのかもしれませんが。それこそ、毛を逆立てて警戒していいのか受け入れていいのか迷ってる猫、みたいな感じでしょうか。そんな姫様を鷹揚に受け入れて、言う通りしたがってあげているエルヴィンがこの場合、大人だなあ、と思ってしまうわけです。本人、記憶喪失なのに能力的のみならずメンタルの方も余裕たっぷりじゃないですか。
嫡流にも関わらず父王に嫌われて、死ねと言わんばかりの難題を突きつけられて自暴自棄になりかけていた姫様。捨て鉢になっていたからこそ、魔王復活なんて手を選んだわけですけれど、復活してきた魔王は記憶こそ喪っていたもののその人柄は密かに自分の血筋に伝えられてきた憧れの人その通りで、荒み諦観におかされていた姫様にとってそれはどれだけの救いであり希望であったか。俄に受け入れられなかった、というのもわかるところであり、傷ついてきたからこそその懐に潜り込むのも恐る恐る、というのもよくわかるんですよね。
捨て姫さまが拾われる話、と見ればこの姫様の初々しいまでの頑張りも実に可愛げがあって、姫と魔王のある因縁に結ばれた関係が徐々に進展していく様子も、パーティーでの冒険も素直に面白く、堅実といっていいくらいの良作ファンタジーだったんじゃないでしょうか。
パーティーの行動、ちゃんとTRPGでちゃんと実際にセッションしてみてる、というのはさすがです。

北沢慶作品感想