【解術師アーベントの禁術講義】 川石 折夫/ HxxG 電撃文庫

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待ち受けるのは生か死か――異端の魔術医が石化の呪いに挑む!

魂に直接メスを入れ患者を蝕む『呪い』を除去する異端の解術師(げじゅつし)・アーベント。
通常の治癒魔術では治せない呪いでさえも解いてみせるその奇跡の施術は、失敗すれば死亡率100%の禁忌の術だった。
闇医者と疎まれながらも、魔術講師として神学校に勤め、とある目的のために『解術』に取り組む日々。
そんな中、天才魔術師・レイミュの襲撃に次ぎ、校内で生徒が石化される事件が発生。アーベントの手腕をもってしても一筋縄ではいかない呪いの魔の手は、ついに彼の教え子にも及んでしまい――。
外道魔術医の戦いが今、幕をあける!

ファンタジーで医者を主役として取り上げる作品自体は少ないとは言え相応に在るのですけど、テレビドラマなどでよく見かける「医療現場」を舞台とした作品はなるほど珍しいんではないかと。
犯人の動機や主人公のアーベントが異端者として扱われているのも、ライバルとなる名医との軋轢も、その本質的なところにあるのは医療現場における旧弊に根ざす問題だったわけですし。
主人公のアーベントは解術と呼ばれる異端の医療を扱うことから、同業者からも蔑まれ疎まれていて、本人も斜に構えた態度に終始していてアウトローを気取っている、気取っているというと言葉が悪いけれど、あまり柄の良い人間ではないという風に振る舞っている。なので、腕は良いけれど人間的に問題が在る人物なのか、と思いきや……。
いや、なんかね、見てれば見てるほどこのアーベントって言ってしまうと「立派」な人物なんですよね。医者としては何よりも患者第一で病巣を駆逐して患者を救う事に情熱を傾ける熱い人物であり、教師として生徒たちには熱心に技術と医者としての精神を教え導いてて非常に生徒思いであり、ただの人間としても迷いを抱えている人を見過ごせずに何くれとなく手を差し伸べる人間性の持ち主なんですよ。
真っ当を通り過ぎて、これ立派としか言いようがないじゃないですか。
とはいえ、彼が扱う解術と呼ばれるものは異端呼ばわりされるのも無理ない危険性を有していて、失敗すれば100%患者が死亡するという危ういもの。しかし、その解術でなければ救えない患者がいるのなら果たして見過ごすことが出来るのか。
彼が闇医師として要求する報酬は、あまり風聞の良いものではないのは確かで、彼がその報酬を必要としているのは間違いない話では在るのですけれど、彼が手術を執刀するのはやはり患者を救うため、なんですよね。その本質がブレさせない事こそ人間性を喪わないことこそがアーベントの目的にも叶うわけですけれど、彼の場合はそれこそが素でもあるっぽいのがまたいいんですよね。
闇を背負いながらも、その本質はあまりにも人、というのは実に真っ当な主人公らしさじゃないですか。

肝心の手術シーンもなかなか他に類型が見られない独特なものではあるんですけれど、現実の外科手術らしさと魔術を用いた特殊な医療という2つの特性を見事に併せ持った映えるものなんですよね。それだけ独特なものにも関わらず、その解説説明がわかりやすく伝わるものでこれがイメージしやすかった。おかげで、手術シーンの臨場感も十分であり本作の見せ場となる手術のシーンがちゃんと緊迫感ある盛り上がる展開になっていて見応えあるものでした。
一方でストーリー展開の方はちょっと容易に先が見通せるもの過ぎたでしょうか。あまりに見え見えすぎたんで実のところ解明編になるまで裏があるのではと疑ってたんですよね。でも、結果はそのままその通りでちょっと拍子抜けしてしまいました。
ヒロイン?になるのか、レイミュはラストの展開にも欠かすことの出来ない非常に重要な役割を担うキャラではあったんですけど、微妙に立ち位置がふわふわして定まってなかった気がするなあ。いや、立場としては弟子入りすることからもはっきりしてるわけですしキャラもパリッと立ってるのですけれど、微妙に存在感を示しきれていない感があった感じがして。まだ彼女自身自分の存在意義、レゾンデートルをはっきりとさせられていないままだったのもあるでしょうか。だからこそ、あっさりと転向してしまったわけでもありますし。最後の選択が彼女なりに芯を通すものであればよいのですが。
まだ字の文章も微細なぎこちなさ硬さみたいなものを感じさせられて、文字を追う目がリズムに乗り切れなかったというのも確か。ただこれは書いているうちにこなれてくるものなので、あまり気にするようなものでもないですけれど。
好敵手となる若き魔術医とのお互いを認め合う関係なんかも良かったですし、次回はさらなる飛躍を期待したい新人作品でありました。