【失格から始める成り上がり魔導師道! ~呪文開発ときどき戦記~ 1】 樋辻臥命/ふしみ彩香 GCノベルズ

Amazon
Kindle BOOK☆WALKER

生まれ持った魔力の少なさが故に廃嫡された少年アークス。
失意のある日、夢の中で「違う世界の男の人生」を追体験したアークスは、そこから得た知識がこの世界では不可能とされていた数々の魔法や技術を実現するための鍵となることに気がつく。
自らを無能と蔑んだ人々を見返すため――一度はすべてを失った少年が、異世界知識を武器に立ち上がる!
オーバーラップ文庫【異世界魔法は遅れてる!】の樋辻臥命さんの新シリーズ。今回は完全に異世界です。序盤は生まれ持った能力の低さから実家から虐げられて、とオーソドックスな展開なのですが、それを踏まえても面白い。こういうところに如実に腕前が出るんだよなあ。
アークスの場合は実はチートでした、という展開ではなく魔力の低さを努力と発想で補っていくパターンなんですね。それも、我流だけではなくちゃんと国でも有数の実力者である伯父さんに師事する事で魔導師としての土台となる部分を鍛えて貰っているわけですから、堅実でもあるんですよね。
しかし、廃嫡されながらも家を追い出されずに実家ぐらし、というのはこれ辛い環境なのかそれとも家追い出されないで幸いなのか判断しづらい所ですよね。両親のアークスへの態度が本当に酷いので、それをずっと味わわなくてはいけないというのは辛いは辛いのですけれど、衣食住は保証されていますしねー。伯父さんが引き取ってくれるのかとも思ったのですが。
ただあの親父さん、偏狭なろくでなしなのかと思ったら武官としては本当に優秀らしく一角の人物であるのは間違いないようなので、どうしてああなってしまったのか。伯父さんの話でも昔はもうちょっと違ったみたいなのですけど。
それに、新たに後継者に選んだ妹のリーシャ。この娘は本当は戦死した叔父の娘で従妹にあたるので両親からすると実の子ではないのだけど、ちゃんと実の娘のように愛情込めて育ててるんですよね。家の後継者だからと機械的に、或いは高圧的に、子は親の道具と見なして、みたいな感じで育成している様子もないですし。
リーシャが危ない目にあった時も本気で心配して怒ってましたしねー。いや、なんでこういう親御さんが、アークスに対しての態度があれほど豹変してしまったのか。ちょっと謎ですらある。
そういうちゃんと愛情を持っている相手から捨てられる、悪感情ばかり向けられるようになるというのは子供心に傷つかないはずもなく、絶望と哀しみの果てに見返してやると反発心を糧にアークスは奮起するわけですけれど、それでも完全と決別できないまま憎み切る事も恨み切る事も出来ないまま引きずり続け、時々胸を痛めている姿がまたけっこう来るんですよね。
そういう複雑な想いを抱えている子だからこそ、主人公としても色々と思い入れが出来るのでしょう。

さらに面白いことに本作では主人公の右腕左腕となる人物がキャッキャウフフなヒロインではなくて、頼りになるなかなかいい性格をした兄貴分二人なんですよね。いやこれが二人とも個性的で愉快なキャラで、アークスとのコンビあるいはトリオでのやり取りがホントにノリよくいい感じなので凄い好きな組み合わせになったのですけれど、なかなか珍しいのも確かだよなあ、と。
一応は主従という関係に当たるしその辺尊重はしてくれているのですけれど、それ以上にこう二人ともイイ性格してるんですよね。特に執事の兄ちゃんはかなりぶっ飛んでてトリックスターな側面も持っているようで。巻末の幕間を読むと一筋縄ではいかない来歴の持ち主のようで、あれだけネガティブだった人がどうしてああなってるんだ?と思うところもあるのですけれど。
もうひとりの方も強かと言うか世慣れしているというか、あれで相当に苦労性っぽくもあるので破天荒な主人と執事の後始末役に回りそうで今から可愛そうな気もするのですが。
でも、二人とも従者というよりも年上の兄貴分という雰囲気を持ってるのがなんか好きなんですよねー。
ヒロインは妹のリーシャを含めて、許嫁だった貴族令嬢の子と同じ魔導の同好の士であるスウの三人が基本路線でしょうか。何気に全員、性格イケメンな気がするぞ。リーシャも穏やかで優しい貴族の娘さんになってるけれど、あれで武官の娘として凛として悪意に屈しないシャープな強さを持っているみたいだし、許嫁の子はあれもう武士みたいだしw
最後のスウに至っては色んな意味で怖いものを抱えているみたいで、食わせ者どころでないヤバいアレでしょうアレw

伯父さんを筆頭に、大人連中も何気に面白そうな要素をたくさん抱えていて一筋縄ではいかなさそうなんですよね。固定魔導師、ちゃんと全員設定があるようでこういうの私も大好物です、はい。
ただ、主人公にしてもヒロインにしても年齢もうちょっと上、中学生相当でも特に話の進行上不都合なかった気もするんですよねえ。これから作中でも何年も費やす予定があるから今から低めに見積もっている、という事なのかも知れませんけど。
ともあれ、色々と盛りだくさんな要素がたっぷりでこれはシリーズ進めば進むほどもっと面白くなるタイプの作品であるのがひしひしと伝わるだけに、これからが実に楽しみです。

樋辻臥命作品感想