【最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する】 タンバ/夕薙 角川スニーカー文庫

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無能で無気力な底辺皇子・アルノルト。気ままに過ごす彼は「優秀な双子の弟に良い所を吸い取られた『出涸らし皇子』」と、帝国中から馬鹿にされていた。しかし、皇子達の帝位争いが激化し危機が迫ったことで、遂に"本気を出す"ことを決意する。
「皇帝になる気は無いが、負けて殺される気もさらさら無いな」
隠していた類まれな才覚による策略や交渉術、そして「禁忌の古代魔法を操る、最強のSS級冒険者」という真の力とその地位――全てを駆使し、正体を隠して暗躍する出涸らし皇子は、彼に尽くす国一番の美姫を従え、帝位争いを影から支配する!
最強皇子による縦横無尽の暗躍ファンタジー、ここに開幕!

あらすじだけだと自分が皇帝になる勢いだけど、双子の弟であるレオナルトを守り立てていこうという話なんですね。何気に皇子皇女の数が多くて同母兄弟以外は全部敵というハードモード。いや、実際はそこまで厳選して厳しくはないのだけれど、後継者候補上位の連中が自分が皇帝に即位したら政治的に取って代わる危険性を持つ不穏分子は係累まとめて族滅よー、というバッサリした奴らなので必然的に生き残りたかったら穏当な人物か自分が皇帝にならないといけないよ、という追い詰められた状況になっちゃってるのである。
そんでもって皇族としての役割を半ば放棄して自由気ままに過ごしてきたアルノルトにはそんな人徳もなく、しかし弟のレオナルトにはそれだけの人望と才能とカリスマがあったので彼を神輿にして守り立てていくことに、というお話なのである。
ただのお神輿ではなく、ちゃんと弟のレオには才能があり人を惹きつける魅力があり、と上に立つに相応しいものを持ち人物である、というのは良かった。肝心の弟の方に魅力がなかったら、面倒くさいことしてないでアルがとっとと皇帝になりゃいいのに、なんていう興ざめな状況になってしまいますし。
しかし、一方でレオは性格的に優しく裏で画策して政敵と争ったり損得で駆け引きをしたり、という分野については苦手な人間である。元々他人と争うのも嫌う性分なので、誰かを陥れたりとか利用したりというのがどうしても出来ないし、発想が湧かないタイプなんですよね。それが必要であるというのはわかっているので、潔癖とかではなくちゃんと濁を飲める人物ではあると思うのだけれど、それを自分で出来るかどうかはまた別の話なんですよね。
なので、その分野を担うのがアルノルトの役割、という事になってくる。実際、彼が全部筋書きをかき、交渉をまとめ、謀略を仕掛けて逆に相手が仕掛けてきた仕手を防ぎ迎え撃つ、と裏方仕事をほぼ全部引き受けているんですよね。それどころではなく、派閥を作るために中立貴族と交渉を持ったり表の方にも手を出しているので、参謀役と言った方がいいかもしれない。
いやこれ、わりと表立っても動き出しているのでちゃんと見る人が見ていたら、調べていたら誰がレオナルト陣営の手綱を握っているのか簡単にわかりそうなものなので、出涸らし王子とバカにしてる連中はそれだけ見識がない、と見なされても仕方ないと思うぞ。
狩りの際には元々アルノルト贔屓な勇者エルナだけじゃなく、アルの陣営に配置された騎士たちも肝心な時にこの皇子が器を示すことが出来る忠誠を傾けるに不足のない人物であると受け取った事はその時の彼らの反応からも明らかですし。
完全に影に徹するのではなく、徐々にこうして才覚を見せて評判とは異なる一廉の人物である、というのを露わにしていく、というのはなかなかに面白い。
でも、これは必要なことでもあると思うんですよね。本当にぼんくらに徹してしまうと、同じレオナルト陣営に所属するようになった派閥の構成貴族からレオの足を引っ張る邪魔な存在として排除対象になってしまい兼ねないですし。
アルが性格上、或いは性質上多くの人の上に立つタイプではなさそうなのは間違いなく、同時にレオが人の上に立つ、というよりも多くの人から支持され期待され手を差し伸べられる君主の器であるのは確かなようですし。上に立つ弟を兄が影から支える、という今の構図は一番最適な形に思えるのも確か。目指せオーベルシュタインw いやマジでレオが皇帝になったとしても、アルが宰相くらいになって政治的にちゃんと支えてあげないと結構辛い気もするぞ。

ただアルの場合、レオと同じ立場をやってやれない訳ではなさそうなのが微妙に不穏ではあるんですよね。図らずも、あるワンシーンでレオのふりを完璧にやってしまったシーンがあったのですけど、あれってアルがレオになれる、という意味でもありますしねえ。
今の所、アルが超有名冒険者のシルバーであるという正体を偶然知ってしまい、色々合ってアルに潜伏の信頼を抱いている国一番の美姫フィーネも、表向きにはレオと恋仲という噂が立っちゃっているわけですし。フィーネのヒロイン振りには眼を見張るものがありましたけど、あれだけアルの傍らにぴったり寄り添っていると、果たして周りからはどう見られることになるのか。

あと、もう一人のヒロインである勇者の家系の今代エルナ嬢。一応、国の貴族であるけれど政治的には特別枠で隔離されてきたせいか、貴族令嬢でありながらあの政治センスの致命的欠如はなんかもう色々と通り越して素晴らしいとすら思えるくらいでw
幼馴染のアルの評判に憤懣を抱いているせいか、文句小言を言いながらもできるだけアルの評判をあげようとしてくれるのはいいのだけれど、その行為が尽くアルの企みを台無しにしたり政治的に足を引っ張ったり、と逆張りになってしまっているのが何とも苦笑を誘われるところで。いや、ほんと悪気ないんですけどね。今、レオを守り立ててアルが前に出て目立つのはマズイ、というのが騎士として純真なエルナにはわからない世界なんですよね。少しでも隙を見せれば踏みにじられる激烈な政争や暗殺すらいとわない後継者争いの闇、というのはまあ関わらずに済むのならそれに越したことはないのでしょうけど。いや、ほんとイイ子なんですけどね。今なおアルのために本気で怒ってくれる子なわけですし。むしろ、あれだけピンポイントにやらかされていながら、悪い印象があんまりないというのは得難いヒロイン力じゃあないでしょうか。単純に戦力としてはこの上なく頼もしいですし。
ともあれ、ここからこそが面白くなってきそうな楽しいなシリーズの開幕でありました。