【帝国の勇者 世界より少女を守りたい、と“まがいもの"は叫んだ】 有澤 有/なのたろ GA文庫

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「〈勇者殺し〉はどこだぁぁぁぁ!!」
ベルカ帝国が誇る無敵の異能兵士、【帝国の勇者】が反乱軍に殺害された!? 事態を重視した帝国は、勇者カイムを報復のため派遣するが……。
「……まるで、死んだシオンに……」
カイムの前に現れた標的は<勇者殺し>に殺された仲間のシオンだった!!
しかも、古の英雄が振るった伝説の聖剣を掲げ、帝国の殲滅を宣言!?
「俺はすべてを捧げて、お前を救う」
聖剣に支配されたシオンを救うため、カイムは〈勇者殺し〉こと、蘇った英雄に挑むが苦戦。力量差を覆そうと、最後の切り札を使う――。
「――ゆくぞ〈リンドブルム〉!」
第11回GA文庫大賞奨励賞。英雄の理想と少年の誓い、勝ち残るは!?

シオンシオン言い過ぎ!! カイムくん、あんまりにもシオンシオンしか言ってなくて、それしか頭にないのか、と。いや勿論、カイムがシオンを一番大事にしている、帝国よりも世界よりもシオンが大切、というのがカイムという人物の根幹であり何より物語の肝となる部分というのはわかるのですけれど、それにしてもシオンシオンばっかりで他に何も考えてなさそうに見えてしまうのが主人公として大いに辛かった。実際は軍務についても真面目にこなしていましたし、仲間たちの事も気遣っているので何も考えていないというわけではないのですけれど、何かあるとそれらを全部放り出してシオンシオン言い出すので、やっぱりシオン以外何も考えてないようにしか見えないんですよ!
掛け替えのない大切な人、自分にとって命にも魂にも等しい無二の人物というのを表現する方法は色々とあると思うのですけれど、カイムのそれはシオンの事となると知能が下がってるんじゃないか、という風に見えてしまうので表現方法としては稚拙に見えてしまうんですよね。これじゃあ、ただのアホの子じゃないか。いっそ、狂気の領域までシオンという存在に執着し囚われているように見えればいいのですけれど、シオンシオン、勇者殺しはどこだーっ、と状況も踏まえずただ叫んでいるばかりでただ頭が足りない、視野が狭いようにしか見えなかったのです。
視野が狭いと言えば、相手のレオンもわりと極端な視野の狭さなんですよね。自分の考えに凝り固まって、周りの考えも状況もそもそも理解するつもりもなく、現状と自分の考えが食い違えば理解を示す素振りを見せつつも実際は現状のほうが間違えているのだ、と固執する。あれは暗殺されますよ。そして死んでもまったく治ってない。よほど暴君になりかかってたんじゃなかろうか、あれ。
勇者と名乗りながらただ独りの幼馴染に固執するカイムと、勇者として個を一顧だにせず全体の最良を優先するレオン、と勇者の在り方を鏡合わせのように対比させたかったようにも見えますけど、カイムのそれは恋だの愛だのを突き詰めて世界の行く末を振り切って一人の女にこだわる、という体では全然なく、そもそも世界とか国とか端から頭になく天秤に乗せる要素ですらなく、しかしシオンへの執着は愛情にまで昇華されていなくて、ただの子供が自分の宝物を掴んで離さずキャンキャン鳴いてるようなものに見えるんですよね。対するレオンも全体を考えて、とか言いつつあれ完全に自分の思想勇者像に酔っているような感じがして、そこに大切なものを引き換えにする悲哀や信念の尊さが見えてこない。全体のためを謳いながら個の我執に見えてしまう。在り方を代表して対峙するには両者ともなんかもう塩っぱい。

これなら、カイムもシオンも私のもんじゃー、と言い切ってるミーナさんの方がいい意味で振り切っていて、良い歪み方してるんですよね。
エリーゼも敗戦国の王族として、責任の取り方に悩んでたり将来国をどう動かしていくか希望と絶望を綯い交ぜにしながら、歯を食いしばって掴み取っていこうという根性を見せてたり、セエレくんの大切な仲間を失った喪失感に耐えながら今一緒に戦っている仲間たちを守るべく立ち回る健気さとか、カイムたちの部隊の隊長の少数民族出身の複雑な背景と裏腹の姉御肌なところとか、脇を固めるキャラクターたちの方がむしろ豊かな側面を見せていて、作品を底支えしてるんだよなあこれ。
ってかあそこまでシオンシオン言い続けておきながら、彼女に対する感情への自覚が全然足りないってカイムくんどうなの? それってどうなの? 
死んだ殺されたと思っていた家族同然の大切な女性が、実は……という展開は非常に美味しいシチュエーションのはずなんですけど、その当事者であるカイムとレオンがどうにもこうにも自分にとってはどうにも中途半端でしっくりこなかったのでした。ってか決着もつかないのかよ!
シオンの出自とか伏線もあるみたいなんだけど、カイムがもうちょっとなんとかならんと辛いかなあ。