【七代勇者は謝れない】 串木野 たんぼ/かれい GA文庫

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聖剣を抜いたのに、神々に勇者と認められなかった勇者志望の少年ジオ。
横で見ていただけなのに、なぜか七代目勇者にされた天才少女イリア。
一度すれ違った二人の運命は、イリアが魔王に敗北を喫し、戻ってきたことで再び交錯する。

「勇者代われイリアァァァ!!」
「だめ、私がもう一度やる」

勃発するは、勇者の資格争奪戦。代われ代わらぬ喧々囂々。いがみ合つつも、七代目(元)と八代目(仮)の2人の勇者候補はそれぞれの想いを胸に、ともに旅立つことになるのだが――?
真の勇者はどっちだ!? なんとかやり直したい元勇者と早く勇者になりたい少年による勇者力争奪ファンタジー、出立!

聖剣実際抜いたのに、本人じゃなくて近くで見てた娘が勇者認定されるって、抜く意味ねー!!
誰もが讃え称賛する天才少女イリヤ。その評判に違わず、本人は人外無双の人類最強。いきなり勇者指名されたにも関わらず、わりとノリノリで引き受けちゃう。一方、努力し求め続けた勇者としての称号を横から掻っ攫われて、仕方ないと諦めずに非常に見苦しく抵抗するジオ。
これ、超然とした完璧超人の天才少女に身の程を弁えない少年が絡み続けるタイプのコメディかと思ったら……魔王と戦って負けて帰ってきたイリヤが非常に見苦しい言い訳をはじめてごまかしだしたお陰で、途端に同レベルにして低レベルの見苦しい勇者権の奪い合いに発展してしまって、草生えた!
おまけに、勇者認定を下す神々の裁定がめっちゃ軽い! おまえらアイドルの推し変じゃないんだから、という具合の尻軽さで軽々とやっぱイリヤ、いやいやこれはジオでしょう、という具合に勇者であることを示す紋章がぴょんぴょんと二人の間を行き来するわけですよ。
そのどれだけ勇者に相応しいか、という勇者力というのがまた単純な能力や実績ではなくて、世間様の評判、一般市民からの人気や期待値というのが作用するんですね。おかげで、お互い勇者としての見せ場を食い合う事態に。単なる活躍のみならず、どれだけ人気が上がるかを見計らったような宣伝工作、ド派手な口上、と自己演出に終止することに。なにやってんだこいつらw
とはいえ、お互い嫌い合ってたり本気で相手を蹴落とそうとしていたり、というわけじゃないんですよね。ジオには勇者になって吟遊詩人である妹に自分の勲を唄ってもらうという夢があり勇者になる事を譲れないという事情があり、イリヤはイリヤで人の期待に答えなければならない、という自縄自縛となっている歪みがあり、また万人が自分を崇め奉るなかで一人突っかかってくるジオに対してかなり歪んだ感情を抱くに至ってしまい、その結果として見苦しいくらい張り合う有様になっているのである。二人とも、アホらしいように見えて非常に重たい背景を抱えているからこその歪みっぷりでもあるんですね。ただ、あの意地の張り合いは別の意味で拗らせちゃってるんですね。
加えて、張り合いながらもあれで相手を貶めて、という直接的なネガティブキャンペーンははってないんですよ……いや、ジオくんめっちゃネガキャン貼ってたような気もしますけれど、誰にも真面目に受け取ってもらえずそういうキャラとしてみんなに微笑ましく見られてしまう、というなぜか好感度アップしているあたりに彼の人柄の良さが滲み出てしまっている気がしますが。
なんだかんだと、お互いちゃんと認めあっているんですね。実際、天才少女完璧超人なイリヤのみならず、ジオの方も聖剣のキリちゃんが絶賛するように歴代勇者と比べても上位にあげられるような実力者でイリヤがいなかったら間違いなく文句無しで勇者になれてた逸材なんですよね。ってか聖剣実際抜いたのは伊達じゃあないのだ。
なので、お互い実力に対しては疑いようはないし、イリヤなんかは実際はジオに一緒に来てほしくて仕方ない。いやこの子、ほんとに拗らせちゃってるなあ。ジオに対してだけは嫌われ続けないと自分に構ってくれない、と信じ込んでいるあたり対人スキルが誤っちゃってるのがよくわかる。
それもこれも、彼女に対して誰もが期待し信仰するような環境が悪いと言えば悪いのですけれど。

でも、所々で全力で見苦しかったり卑しかったりするあたり、根っこの所でアレな部分は間違いなくあるぞ、この七代目。そしてあまりにもボッチ属性を拗らせてしまっているイリヤの本性に気づいてしまったジオは、これまた拗らせてしまっていた勇者パーティーの一人である聖女との関係改善にあれこれ小細工をはじめてしまうのである。いやもう、こういうの見過ごせないあたり何だかんだとイイ子すぎるジオくん。神々がポンポンとイリヤから彼に紋章を移行させちゃったり、イリヤに比肩するくらい彼の人気が民衆の間であがってしまうのもわからなくもないんですよね。
実はイリヤがベタぼれしてしまっているのも無理ないかっこよさ。勇者になるという決意と覚悟も、ほんとはすごく重たい事情を抱えているのに、それについてはひっそりと胸の奥にしまっていた奥ゆかしさ。いい男なんですよ、ほんと。なのになんで、時々あれだけ人間が小さくなるのかw
まあこの二人以上に、この二人の間を取り持つ聖剣がいいヤツすぎるんですけどね。年長者としてまだ幼い部分を多分に持つイリヤとジオをあたたかく見守り、また助言を与える保護者みたいな振る舞いをしてくれますし。それ以上に二人や状況に振り回されて苦労するわけですけれど。

なかなかにシッチャカメッチャカな展開で、勢いに任せた分文章の中で状況とかわかりにくい所とかもあって読みにくい、と思う所もけっこうあったのだけれど、それでもイリヤとジオが本当に可愛らしくて楽しいお話でした。
わりとそっちのけにされていた肝心の魔王の方にも重要な伏線が敷かれているみたいだし、続きが楽しみ。