【落第騎士の英雄譚(キャバルリィ) 17】 海空りく/をん GA文庫

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「――ならば倒すしかないのです! 貴女が! この私を! ! 」
刀華の魂に輝きを見出した天童は、九州全土を巻き込む災害級の伐刀絶技を発動した。その目的はただ一つ、自分を打倒せざるを得ない状況に刀華を追い込み、彼女を「祝福」――すなわち《覚醒》に導くこと! 大勢の命が人質にとられた状況で、自らの限界を超えるため足掻く刀華。だが、その心は天童の圧倒的な強さに完全に敗北していて――
一方、首都東京では海の向こうから迫る新たな脅威を察知。これに対応すべく、騎士連盟は戦力の総動員を開始する! かつて《落第騎士》と鎬を削ったものたち、その真価が試される激闘の第17巻!
そうかー、そうだよなあ。一般市民や親しい人たちの命を人質にとった天童を倒すために、自らの運命を突き破り限界を超えて覚醒して「魔人(デスペラード)」となる。これはそのまま天童の目的を叶える事になり、彼の思想を肯定することになってしまうんですよね。覚醒のための生贄として無辜の人々の犠牲を肯定してしまう事になる。
刀華たちが大切な人たちを守るために魔人化したとしても決して彼女たちが悪いわけじゃないのだけれど、天童の思惑通りになってしまい、彼の言う神の試練が或いは魔人を増やすために積極的に導入されてしまう恐れすらある。
その意味でも、刀華たちは一輝やステラたち主人公が選び掴み取った道とは全く違うアプローチから強さと守るべき力の在り方を証明してみせたわけだ。
てっきり、かつての一輝たちの戦友たち。若き学生騎士たちも次々と覚醒して一輝たちと同じステージに立って、みたいな展開を予想していたのだけれど、そうかー、そうなんですよね。
「正解」は決してひとつではないのだ。
自己(エゴ)を突き詰め人の枠を突き破り、運命の鎖を引きちぎり限界を超えて覚醒して魔人(デスペラード)とある。それは強くなる道として一つの究極であり、一輝やステラたちが血反吐を吐いて勝ち取った道でもある。
でもそれだけが、強さではないと刀華たちは立派にここに証明してくれたのだ。物語としても、魔人化しなければインフレバトルについていけずに脱落していく、みたいな形ではなく、人として人のまま騎士として、魔人を打ち破ることで作品そのもののスケールの先細りを見事に否定してくれた、とも言える。いやあ、雷切も諸星さんも蔵人もガチでカッコよかったですわー。特に蔵人くん、こいつ魔人化とかしていないはずなのに滅茶苦茶強くないですかぃ? よくまあ一輝勝てたよなあ、こいつに。あの頃より蔵人がべらぼうにまた強くなっているにしても。いや、諸星がこいつとのタイマンで負けたのも納得ですわ。
そして、それ以上に勝利に対するクレバーさを見せてくれた諸星の大将。黒鉄のお父さんも絶賛してましたけれど、今回ほんとに諸星って選択ミスを一切せずに最後まで詰めてみせたんですよねこれ。この兄ちゃん、正々堂々の一騎打ちを好むオトコマエなんだけれど実際には何でもありのガチの命の取り合い、或いは真性の戦争の方がよっぽど適正あるんじゃないのか?
そして雷切こと刀華さん。必殺技のミドルレンジ絶対無敵な抜刀術「雷切」ばかりが目立つ彼女ですけれど、以前合宿所を襲撃された時に遥か遠隔地に居た敵さんを魔術線遡らせて電撃で打倒したり、今回のヤシマ作戦ばりの九州中の電力集めてぶっ放したりとか、近接戦よりも雷使いとしての柔軟性応用力スケールの大きさの方が化け物じみた人なんじゃないだろうか、この人。
今回はメンタル面での弱さもピックアップされた刀華さん。でも、その弱さを克服して打ち消すのではなく、弱さを肯定することで個人として超越した力を得るのとはまた根本的に違う、弱さから生まれた強さを示すことで、強さに対する価値観の多様性を作品の中で示してくれたのは、ほんとに物語としての広がりを作ってくれたと思うんですよね。その意味でも、ただ懐かしい面々の活躍の場、というだけではない話になったように思います。ある意味これ、「魔人化」を拒否して人の親となった黒乃理事長の歩みの肯定者であり、後継者でもあるんだよなあ、きっと。

そしてあの一巻で一輝にフルボッコにされ、アニメでは「じゃんけんで決めよう!」で有名になった桐原くんが再登場してめっちゃ戦争で大活躍していたのには笑ったけど。いや前々から実戦ではこいつの能力尋常じゃなく強力じゃね? という話は持ち上がっていましたけれど、ガチでむちゃくちゃ
強いじゃないか、桐原くん! あの痛いのはイヤ、危ないのもイヤ、という姿勢が一貫して変わっていなかったのはむしろ褒めるべきところなんだろうなあ。その信念があるからこそ、努力と研鑽を欠かさずどんどん能力を強め研ぎ澄ませているわけですから。それもまた、プロフェッショナルとしての在り方だよなあ。

シリーズ感想