【お直し処猫庵 お困りの貴方へ肉球貸します】 尼野 ゆたか/ おぷうの兄さん(おぷうのきょうだい) 富士見L文庫

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口下手なOL・由奈はへこんでいた。お気に入りでいつもぶらさげていた猫のストラップ。それを彼氏に幼稚だとダメ出しされた上、道ばたで盛大に転んだ拍子に壊してしまったのだ。すると目の前を二足歩行の猫がすたこら通り過ぎていく。顔を上げると、そこは「なんでもお直しします」と書かれた店『猫庵』。「猫の手を貸してやろう」猫は短い前足で腕を組み(?)由奈を覗き込む。その瞳はまるで彼女の胸の内を見透かしているようで―!?猫店長にその悩み明かしてみては?にゃあんが紡ぐ小さな奇跡。

これって現代のマヨイガの一つなんだろうなあ。悩みを抱える人の前にしか現れない小さな修繕屋。なんでもなおすと看板たてるその店には喋る猫の店長(庵主)とその弟子だという青年の一匹と一人がかしましく丁丁発止を繰り広げていて……。
この猫、喋るもの立って歩くのも一切隠そうとしねえ。しかも妙におっさん臭い! いや、年嵩の年季の入った化け猫だかの類なんだろうから、そりゃ腰の据わったふてぶてしい態度もおかしくはないのだけれど。
それに、人がうちに抱えた悩みをスルッと引き出して、向き合わせるような語り口は愛嬌ばかりのにゃんこではなかなか難しい仕事でしょうしねえ。思わず胸の内を喋ってしまうような泰然として柔らかくも頼もしい猫店長の姿勢は、その手先の器用さもあいまった職人的な気風も相まって話しやすい老店主という感じなんですよね。口の減らない青年見習いとの気のおけないやり取りもまた、猫が喋っているし立ってウロウロと歩き回ってる、という異常事態を忘れさせてくれるぽややんとした光景で、凄く居心地が良いのである。
にしても、あの猫の手で細かい作業をちょちょいとこなすのはホントどうやってるんだろう。ってか、小道具の類どうやって持ってるんだろうw
オムニバス形式となっているのですけれど、話のたびにお客さんに茶菓子が出されるのですが、これが各地の名産のお菓子になっていて、これがまた美味しそうなんだ。特に、浅草は亀十のどら焼きとかメチャクチャ美味しそうに食べやがって、こんちくしょうw
にしても、わりと日本全国各地のお菓子が出されてるのですけれど、誰が買って来てるんですかねー? なんか仕入れの類はパンダの上野さんがしているらしいのですけれど……パンダ? いや、喋って歩いてうろつくパンダとか、「らんま1/2」世代の自分としては看板で会話するよりも馴染みやすいよね、という感覚なのですが、だからといって買い出し!?
まあ今どきは通販でいくらでも買えますけど、配送業者はちゃんと店まで来られるのだろうか。地味に住所不定店舗っぽいぞ、ここ。
そんなお店の名前「猫庵」。自分は普通に「ねこあん」と読んでいたのだけれど、猫店長……自称では店長ではなくて「庵主」らしいのだけれど、猫店長が主張するのは猫庵と書いて「にゃあん」なんだそうで……読めねえっすよ! いやでも、読めないけどこれはこれでいい読み方だとは思いますよ、センスあるよ猫店長。これが若い女性の店長だったり、シュッとした愛らしい系の猫の店長が言っているのなら「あざとい!」とか思ってしまうところかもしれませんけど、おっさん系猫だもんなあ猫店長。

ともあれ、そんな猫の店長とイケメンの弟子が迷い込んできたお客さんに促すのは、持ち込まれたそれぞれの人の大切な品の修理のみならず、様々な理由で傷ついたり行き詰まったりしているお客たちの心の内を紐解くことでもあったわけです。お茶と茶菓子でリラックス、そうして苦しくも喉に詰まったものを吐き出させる。そうして、ほんのちょっとの後押し。少し不思議な肉球印の落款が、お客たちの背中を少しだけ押してくれる。本当に少しだけ、そこから先はその人次第だけれど、貸してくれた猫の手の温かな人情は、彼らに今まで見えていなかった周りを見渡す余裕を与えてくれるんですね。それは勇気だったり、元気だったり、後悔の解消だったり。
その少しが、掛け替えのないものだったのだ。
明日からはもう少し頑張れる、今までと違った気持ちで進んでいける。過去を思い出に昇華して、受け取った優しさを燃料にして、次の日をより良い日に。これはそんな少し不思議ないい話。