【お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。4】 凪木 エコ/あゆま紗由 富士見ファンタジア文庫

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文化祭。当日は何処で何をしてひとりで過ごそうか胸を弾ませていた春一を襲うテンプレ展開…実行委員に抜擢される。面倒くさいことは迅速に、の精神でおひとり様スキルフル活用で仕事を完璧にこなす春一へ華梨の余計な一言が炸裂する!
「私、姫宮君に勝ってみたい!姫宮君っ、私と勝負しよう!」
強制戦闘イベントを華麗にスルーし続ける春一のもう一つの悩みの種、「い、今は恥ずかし過ぎて姫宮の顔もまともに見れないから…」キャンプでの告白で英玲奈とは妙にギクシャク。華梨と英玲奈、二人との関係は確実に変化しているようで―。ひねくれボッチートな青春ラブコメ、文化祭はひとりに限る。

いやこいつ凄えわ。なにこの姫宮くんてば、完璧超人? ただでさえ文化祭の実行委員としていい仕事してるのに、トラブルは片っ端から解決していくはトラブルになる前にうまいこと収めるわ、なんだかんだとクラスはうまいことまとめるわ。それを必死に駆けずり回って、ではなく無理なく自分のペースでちょいちょいっと手を入れて調整していく感じなんですよね。暴走する美咲にストップかけるタイミングまで絶妙でしたし。アフターフォローの気遣いというか観察力まで言うことなし。
美咲華梨が対抗心むき出しにして勝負しにかかってきたものの、見事に返り討ちにあって心折れてしまうのも無理ないですわ。いや太刀打ちできんてこれ。美咲も本来なら超ハイスペックのなんでも出来る少女なんだけれど、今回は常にがむしゃらに全力、で行き過ぎてしまったところもあるのでしょう。競馬で言う所のかかった状態、とでも言うのか。
正直な所、なんで美咲がこんなに姫宮に対抗心むき出しにしてきたのかちょっとわからない部分もあったんですよね。姫宮のおひとり様好きについては理解を示しているものの、それはそれとして彼がみんなと関わる方向で動くことを喜びはすれど、こうやって張り合ってくる理由については彼女の明るいキャラクターを込みにしても微妙に変だなあ、と思う真剣さがあったんで。
その疑問が紐解かれたのが、実のところ本作じゃなくて「小説家になろう」で作者の凪木さんが公開している美咲視点の後日談の短編なんですよね。
これ読んで、彼女の心中を目の当たりにして、ようやく「そうだったのかー」と納得した次第。これは本文中になんとかして付与していくべき内容だったんじゃないかな。思いっきり美咲の動機であり原動力である「こたえ」がそこにあったわけですし。
うん、そうかー。そうだよなあ。彼女がそうなってしまうのも無理ないよなあ、姫宮のそれとあれだけ向き合ってたら。むしろ、一番影響受けてるのが美咲ですよね。
美咲華梨という少女は色んな意味で意識高い系なんですよね。姫宮春一という青年のおひとり様ライフに対しても良き理解者となっている事を加味してみると、彼女としてはここで何としてでも姫宮くんと対等となれる自分を自分自身に証明したかったのではないでしょうか。彼のおひとり様ライフを邪魔することなく、しかしその隣に立てる自分を。そうでもしないと、彼女としてはスタート地点に立てなかった、とするならまあ何という自立意識の高さというべきで。

これは英玲奈もそうなんだけれど、本来ならもっととっつきにくいだろう姫宮春一のおひとり様ライフをちゃんと理解して凄く尊重してくれる稀有な人物なんですよね、この二人。まあ彼女らに限らず、ここのクラスメイトたちや学校の人たちもなんだかんだと許容範囲の広い器の大きい人物揃いの気もしますけど。対人能力が異常に高い姫宮だけれど端から異端を理解しようともせず見下してきたり自分たちの価値観を押し付けてこようとするような連中に対して、わざわざ理解を求めて歩み寄ろうなんて真似をするようなタイプではないでしょう。
そんな彼がこうして歩み寄っているのは、間違いなく彼の生き方を尊重してくれる美咲と英玲奈たちが居たからなんですよね。だから、姫宮も特にこの二人に対しては口には出さないけど、随分と敬意と親愛を抱いているのがよく分かる。他のクラスメイトたちにも自分からあれこれ動いてあげようと思うだけの、親しみを持ってるみたいですし。
今回、文化祭実行委員として働くためにいつものようなおひとり様ライフはあんまりしていなかったし、みんなとあれこれ作業することを素直に楽しい、と感じていましたけれど、それは決して彼のおひとり様好きな生き方から妥協したり変節したりしたわけではないのです。
姫宮のみならず、この文化祭では様々な階層の、グループの人たちが分け隔てなく盛り上がることが出来ていました。相互になかなか理解し合えない、価値観を共有できない断絶のある人種が、歩み寄れた日。ちょっとした理解と尊重が、それぞれの在り方をそのままの形で受け入れあえる。共存と融和が成せた楽しい日、という趣きだったんじゃないでしょうか。
まあこれ、普通は無理でしょうけどね。こういう自分の知らない価値観を拒絶しない、拒否しない、無視しない、否定しない、忌避感を抱かない、という子たちが揃うなんて難しいことでしょうし。
それだけ、ここに登場する子どもたちは良い子で聡明な子たちで優しい子たちだった、ということなのでしょう。
しかし姫宮は、ホントに英玲奈と華梨の二人は大事にせんといかんと思うよ。果たして彼の人生でこれほど自分の生き方に理解を示し尊重してくれながら、同時に好意を抱いてくれる女性なんて滅多現れないだろうし。これだけ自立していて、自分も相手も殺さないで楽しくしようとしてくれる人もいないでしょうから。姫宮はこの二人となら、おひとり様ライフを存分に堪能し楽しみながら、そこにプラスして違う楽しさも味わうことが叶うことになるのでしょうから。
残念ながら、売上の関係もありこのシリーズはここで終了。恋愛編の方の結論も見てみたかったんですけどねえ。着実に一歩一歩寄り添ってくる英玲奈に対して、美咲華梨の怒涛の逆襲編とか、姫宮のおひとり様ライフを踏まえての恋愛観なんかも実に興味あるところでしたし。
ぼっちとは異なる毅然敢然としたおひとり様ライフをこよなく愛する姫宮春一という特異な主人公はホントに見応えあるキャラで面白かった。ぜひ次回作でも、彼に負けない主人公を引っ張り出してきてほしいものです。

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