【異世界迷宮の最深部を目指そう 12】 割内タリサ/鵜飼沙樹 オーバーラップ文庫

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ディアと陽滝を取り戻し、『風の理を盗むもの』ティティーを故郷へ送るべく、ヴィアイシア国へ向かうカナミたち。
一方、『木の理を盗むもの』アイドは、その王都にて着々とカナミとの決闘に備えていた。
――すべては『統べる王(ロード)』のために。記憶の最果てにある『代償』が何かを知らずに。
……そして童は、その瞳の中に答えを知る。
「――姉様。よかった、今度は間に合いました」
千年より長い一瞬の『いま』『ここ』に、寄り道は終わる。
白桜に満ちた『第四十の試練』の帰り道を、童二人が歩いていく。
ティティーとはアイドとの決着がつけばお別れ。それがわかっていたから彼女がはしゃいでいる姿が楽しくもどこか寂しい思いを抱いていた。きっと彼女が消える時は悲しくて仕方ないだろうと感じていた。
どうにも人は、かつて抱いた思いを忘れてしまう。ローウェンのときだってそうだったじゃないか。
その別れは寂しく辛く悲しくとも、未練を果たして帰っていく「理を盗むもの」たちはみんな幸せそうに笑っていたじゃないか。
だから今回も、ティティーとアイドにはこう言葉を送るのだ。
おめでとう、良かったね。


そう、今回はカナミの試練じゃなかったんですよね。アイドが司り守護する『第四十の試練』の挑戦者は……。
この物語の途方も無いところはこういう所なんだろう。階層を守護するものを打倒して、さらなるダンジョンの深層に潜っていく。そんな本来あるべきダンジョン攻略の概念を、根底からひっくり返してきた本作だけれど、此度もまたとびっきりの前提の抹消だったのではないだろうか。
今までの理を盗む者たちに比べたら、アイドは随分と素直な迷い方をしていた。他の連中のドツボのハマりっぷりときたら目を覆わんばかりだったけれど、アイドの優しい気質ゆえだろう。相変わらず話を聞かずに自己完結してしまっているという意味では他の連中と変わらなかったけれど、彼の本来の未練の見失い方はこう言ってはなんだけれど、迷走して蛇行してどこを走っているのかさっぱりわからなくなっているような酷いものではなく、まっすぐにUターンしているようなもので、お姉ちゃんのウザったいくらいのグダグダっぷりと比べたら、いっそ清々しいくらいに真っ直ぐ間違っていてくれて、戸惑いようがなかったとも言える。
でも、話は聞こうね、ほんと。
使徒シスみたいに話がまったく通じない本当の意味で自己完結してしまっているような輩もいるので、何事も話し合いでなんては言えないけれど、アイドくんは分かりやすく聞かない振りしすぎである。だからこそ、耳かっぽじって聞こえるように言ったらすぐに理解して受け入れてくれたという意味でまったくもってやりやすかったのですが。
使徒シスは自己完結している分、考え方の拡張性が全然なってなくて、やらかしまくっていたわりに何も出来ない奴だった。パリンクロン・レガシィを見習いなさいよ。あの難敵は未だにトラウマだもの。アイドが本来の在り方に立ち戻り、千年前に果たせなかった未練を取り戻すためについにティティーと通じ合い、ありえない決着を引き寄せようとテンションあげまくってもう勝ったよし風呂入って来よう、くらいのクライマックスに入っても、ここまで上げてると逆に落としてくるのでは!? もしかして負けちゃうのでは!? と、本気で心配になったのはおおむねパリンクロンの影響に違いない。彼のおかげで、この物語にはあげたら落とすんじゃないか。上げてなくても落とすんじゃないか。落としておいてさらに落とすんじゃないか、という不信感が常につきまとっているんですよね。もうパリンクロンを打倒して以降はカナミも成長し、ヒロインたちも病んでれているのを除けば概ねマトモな思考になっているはずなので、シリーズ後半に入ってからはそうそう酷い意味でのちゃぶ台返しはなくなっているのですが、それでも未だに戦々恐々としてしまうのは十分トラウマだと思うのですよw
これはもう、作品が完結するまでは拭えないキズだと思われる。それくらいどれだけ調子に乗ってても構えて精神的に備えていないと不安で仕方ないし、それくらいの警戒は常に絶やさない方が安全安心なのである。ひどいお話もあったものだ。
全然ひどくない、とても美しい終端の物語だったんですけどね。本当に何事もなく順当にティティーとアイドの姉弟の絆が取り戻せて、二人の未練が果たされた安堵感が、余計に二人の結末を透明に彩ったように思います。
心の焼き付かれるような美しい情景を残して帰っていった、文句なしのハッピーエンドでした。
千年前の英雄たちが、今に顕現してかつての夢の名残を叶えて残していってくれた贈り物は、正しくルージュたちに引き継がれる。それは場所であり想いであり、姉弟の祖父母から引き継がれた精神であり……。多くが失われても、無くされないまま継がれていくものがここにある。
ディアもようやく戻ってきてくれて、彼女の中のシスと決着をつけた事もあって、ようやくディアがいだき続けていた不安や怯えを解消できて、本当の意味で最初に仲間になった時にやり直しが出来た。何かを押し殺し隠すことのない、様々な側面を内包したあるがままのディアとカナミ/ジークとして一緒になれた。初めて、ここから始められる事が出来たのではないでしょうか。
そして、ようやく妹陽滝を取り戻したカナミ。未だ目覚めぬ彼女だけれど……寝てる割に動き回れるわ戦えるわ、なにこの便利睡眠女子w
これほど汎用性機動性稼働性能に長けた眠り姫は見たことないんですけど。

しかして次回は……ライナーが主人公!?

シリーズ感想