【七つの鍵の物語 ぼっちな僕の異世界領地改革】 上野 文/屡那 ドラゴンノベルス

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クワ一本から始める神殺し。絶望領地を救う、大逆転救済ファンタジー開幕!

レーべンヒェルムという地があった。意志持つ武具"神器"に支配され、土地は枯れ、人は飢え、叛意は全て討ち取られた絶望の地。そんな地に、一人の少年が召喚された。不要となった領主の代わりとして。
死んだ目をした彼の名はクロード。彼には知恵があった。異なる人類の歴史を知る彼は、神殺しの革新者として、歴史に名を刻むことになる。
支配? 飢え? 異邦の少年は、その全てを打ち砕く! さあ、大逆転を始めよう。

これは酷い! 何もないゼロからはじめる、という異世界改革モノは多いけれどクロードが押し付けられることになった地は、圧政によって荒廃し人民の生活は破綻し人心は荒れ果て、間違った農法によって土地は死に、生命線となるだろう港湾は外国に租借され、領内の経済は異国の尖兵である外資に牛耳られ、とゼロどころか圧倒的なマイナス状態からはじめろ、と言われる始末。
そして、クロードが成り代わることになった先代領主クローディアスは凄まじい苛政で無辜の民を苦しめ抜いていた悪魔のような男であり、しかも領主としても無能であらゆる意味で領地を疲弊させきっている、もちろん民からは恨み骨髄、恐ろしく憎まれ恐れられ悍ましがられていた人物。まだこれなら見ず知らずの余所者として赴任してくる方がマシ、という憎まれっぷりである。
領地を運営する官僚たちは、当然皆殺し済み。現在は隣国の企業が援助として内政を乗っ取っているような状態。そしてクロードを呼び出した神器ファブニルは悪意の塊であり人々の悲嘆と苦しみを浴びて喜ぶようなまさに悪魔そのもので、もちろんクロードの味方どころか彼の邪魔をし、間接直接を問わず悪意の手を伸ばしてくる。

無理ゲーじゃね?

領主としての立場と権力こそあるものの、それは恐怖政治で手に入れた権力だし、その根源である暴力の担い手であるファブニルはなにかあると虐殺をはじめる悪魔であり、クロードの思い通り動くどころか敵に回る始末。彼の手足として動いてくれるような人物も、わずかに館に残っていたレアというメイドの女性ひとりで……。いやこれ、どうしろ、と。
クロードは辛うじて自分がかつて日本人でまだ学生で、破天荒な同じ部活の仲間たちと走り回っていたという記憶をたぐりよせている意外は、本名も思い出せないくらい曖昧な記憶喪失になってしまっている状態。部活仲間の影響か、彼らの暴走を押さえて後始末してまわっていた経験からか、根性は据わっている上に凄まじく博覧強記なところがあって、確かに学生離れしたところがあるのだけれど、それにしても難易度がハードモードを通り越してルナティックモードである。

それでも逃げろと逃亡を促してくれるレナに逆らい、この世の地獄のような領地と人々を、クローディアスによって尊厳を奪われてきた人たちを見捨てられず、足掻き出すクロード。

不幸中の幸いというべきか、先代のクローディアスがあまりにも破滅的な人物すぎたせいか、まともに領地改革に奮闘しだすクロードが、早々に「別人みたい」じゃなくて「こいつほんとに別人じゃね?」と気づかれるんですよね。それだけ彼が必死に献身的に不眠不休で走り回る姿を見せ続けたおかげではあるんだけれど、その姿を見てみんな影武者なのか、それとも秘された兄弟なのかはわからないけれど、暗黙の了解で口は噤んで協力してくれるようになるのである。
特に、クロードが成り代わった直後に領主の館を襲撃してきた暴動者の中で、館の地下に捕らわれて人倫を蹂躙されていた子どもたちを救出に来た四名の若者。クロードがなんとか撃破し、しかし殺さずに済まし、ファブニルの手からも守って捉えた彼らが、早々にクロードの真実の姿に気づいて同志となり、手足となって動いてくれる側近になってくれたのが大きかったのでしょうけれど。

それにしても、出発地点の奈落っぷりからするとある程度組織だって領地運営ができるまでに人をまとめられたの、ちょっとスムーズに行き過ぎたんじゃないかしら、とも思うんですけどね。前提条件が酷すぎたんだって、これ。まともに人を集められるとは思えない状態だったもんなあ。集めたとしてもまともに働いてくれるとは思えない環境でもありましたし、ちょっと指先でつついたら弾けて割れて中身をぶちまけてしまいそうなほどぼろぼろになった血袋みたいな有様でしたし。
ほんと、それだけ献身的に死にものぐるいだったんでしょうけど。見た人がこの人絶対別人だ、とすぐに気づくくらいには。そしてその姿に打たれて励まされ、生きる希望を掻き立てられるくらいには。
しかし、環境だけならまだしも、常にファブニルが暴動をそそのかしたり異国を唆したりして阿鼻叫喚地獄を作り出そうとするのが、状況として最悪すぎるんですけど。しかもクロードの強大な力はファブニルから与えられてるもので、彼の意志一つで簡単に元栓締められて出せなくなるもんだし。
その事実を初期から弁えて、ファブニルを敵認定して動いているあたり、クロードの希望的観測なしの現実主義は実際大したものなんだけど。
彼の心の支えになってる演劇部の部長、本当に対して人物みたいなんだけれど、どうせなら他の演劇部の仲間たちについてももっと言及してほしかったなあ。殆ど記憶に残ってないとはいえ、そのかすかな記憶の部長を心の拠り所にしすぎである、部長部長って部長ばっかりw 他の部員たちもこの世界に招かれてしまっている可能性は高いっぽいですし。或いは「まだ」こちらに来ていない、これから来る可能性というのもありそうだけれど。

最初から唯一の味方になってくれたメイドのレア。ただ使用人の中で優秀であったために生き残っていた、という人なのかと思ってたら……ファブニルの関係者っぽい様子も見せていて何者なんだろう。ともあれ、レアと地下から救出され、最初にクロードが先代と別人だと見抜いてくれたソフィが数少ない癒やしである。あの若者四人組もいい奴らで、この巻のラストには強化イベントなんかもあったりして、仲間としても信頼できるよい連中が周りに居てくれるのは、クロード孤独になりすぎずに色々と救われる部分が多くて助かっているのですが。ここで心理的にも孤立してたら、さすがに耐えられんでしょう、これ。

とりあえずようやくマイナスを帳消しにして、プラスを見出せるところがチラホラと見えてきた段階から、果たしてどうやって本格的にこの行き止まりの地を立て直していけるのか。次もまだまだハードモードだこれ。