【現実主義勇者の王国再建記 10】 どぜう丸/冬ゆき オーバーラップ文庫

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「今日この日より、私はこのフリードニア王国の正式な国王となる」
東方諸国連合から帰還して一息ついたソーマに、暫定国王から真の国王になるための戴冠式が迫っていた。日を同じくしてソーマと婚約者たちの婚礼の儀が執り行われることで、王都はかつてない活気を帯び始め―!?一方でソーマは自身の婚礼を機に、臣下にも結婚式を挙げるよう勧めていた。既に結婚を決めている者、夫婦になる覚悟ができていない者、自身の恋心に気づいていない者―それぞれの事情を抱える臣下をソーマは憂慮していて…!?革新的な異世界内政ファンタジー、第10巻!

ハルくん、思いっきりマリッジブルーじゃないか。フウガ・ハーンの覇者としての威風に戦士として惹かれそうになったのをまだ引きずっているのかと思ったら、既婚者諸氏から単に嫁さん貰うプレッシャーにビビってるだけ、と否定されてしまうハルくん。若いんだから仕方ないよねえ、男の子はナイーブなのさ。その辺、既にソーマはクリアしてしまっているので友とは言え同じ結婚前の男同士、肩組んで酒飲みながら不安と不満と愚痴こぼし合う、というわけには行かないのが若干寂しい。
同世代じゃなくて、既婚者のおっさんたちにアドバイスもらって回るあたりが、ハルくん何だかんだと優等生なんだと思うよ。
というわけで、ソーマの正式な国王即位と正妃側妃候補者たち五人との結婚式に合わせて、麾下のカップルたちも一斉に結婚する運びに。何だかんだと同時に結婚できるくらいに若い世代に重臣やその候補たちが揃っているというのは、国の未来の明るさを感じさせるものじゃないですか。かと言って、年嵩のベテランが払底しているのかというとちゃんとしっかりいい歳した大人どもも現役で頑張ってくれているわけですし。
とはいえ、ハルのように結婚前に不安定になってウロウロさまよいだす奴もいれば、なかなか踏ん切りつかない所もあり、そもそも自分の恋愛感情に気づかないまま傍に侍っているメイド長みたいな人も居て、結婚にこぎつけるまで紆余曲折あるのでした。
こうして一組一組丁寧に結婚に至るまでに生じているトラブルや問題の解決、感情的な行き違いの調整なんかを描いてくれるというのは良かったです。それぞれに人生があり、今その転機を迎えているというのを実感とともに描いてくれると、それだけキャラクターに愛着が湧くというもの。ただでさえ登場人物が多いのですから、雑に扱ってしまうとすぐに物語の進行の中に埋もれてしまい兼ねないですし。
その点、この作品はひとりひとりの存在感が薄れないんですよね。それだけ、細部に至るまで丁寧に描いてくれている、という事なのだと思いますよ。早速、ソーマとリーシアの間に生まれた双子の赤ちゃんも個性が出だしていますし。

そう言えばユリウスくんもしっかりティア姫と結婚して国を継いだのか。あそこも東方諸国連合の一角、しかも魔王領に隣接している北側となると、国内の統一を終了し魔王領への領土拡大政策に打って出たフウガの脅威に真っ先に晒されている、ということになるんだよなあ。一番危ないポディションだけれど、どうするんだろう。既にソーマと密接に情報のやり取りをしていて、もう完全に盟友の立ち位置だと思うんだけど、そこ。


番外編の先代王妃のエリシャの中編が、ソーマが召喚されるまでの国情の危うさを肌で感じられる内容でなかなか面白かった。エリシャ様も、またえらい能力を持っていたお陰で内実は壮絶な人生を歩んできたんですねえ。そうしてようやく手に入れた平和な日常と愛する夫。それもまた、自分以外の王族が全滅してしまったために国を継ぐはめになり、さらなる苦難の道を歩み始めることになる。
今となっては安定した大国となっているフリードニア王国だけれど、ソーマが改革するまではどれほどやばい国だったかよく分かる。というか、先代とエリシャさまはよくまあこれを維持してきたものだと思うし、ゲオルグ将軍がどうしてあんな自分を犠牲にする暴挙に打って出たのかも、彼が経験してきた内乱の酷さと親友である先代国王陛下アルベルトとの友情を思うと、わかってしまうんですよねえ。
何だかんだと、リーシアの子供の誕生と結婚を祝って、アルベルトと酒を酌み交わす事が出来る今はようやくたどり着いたハッピーエンドの向こう側なんだろうなあ……ゲオルグ将軍、娘さんの件が片手落ちではあるんだろうけど。
しかしエリシャさまの能力、死に瀕してパラレルワールドの自分に記憶を送る能力、なのかと思ったら、正確には違うのかー。記憶の様子からして大半は実際に死んじゃってるんだろうけれど、そうかー、生きてその先を続けているケースもあるというのがわかったのは、決して今のエリシャさまが自分や国の屍の上にたどり着いたわけじゃない、という意味でも救いになるのか。まあ、受け取った側のエリシャさまには関知出来ないことなだけに、なんとも言えないのだけれど。生き残ったエリシャさまは、さらに強く生きれるだろうなあ、これ。