【転生王女と天才令嬢の魔法革命】 鴉 ぴえろ/きさらぎ ゆり 富士見ファンタジア文庫

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幼い時に前世の記憶を取り戻した王女・アニスフィア。魔法が使えないため貴族からの評価は低いが、独自の魔法理論を作り、一人で研究を続けていた。彼女はある時、天才公爵令嬢・ユフィリアが次期王妃の座から外される場面に遭遇する。アニスフィアが彼女の名誉を回復するために選んだ方法は、一緒に住んで魔法の研究をすることで!?
「ユフィ、私と一緒についてきてくれる?」
「望んでくれるなら、どこまでもお供します。アニス様」
キテレツ転生王女とクール天才令嬢との出会いが国を、世界を、二人の未来を変えていく。王宮百合ファンタジー開幕!


まさかの悪役令嬢もののスタート場面ではじまるとは思わなかった百合ファンタジー。やってもいない冤罪を社交界の場で糾弾され、王子の婚約者の座から追い落とされようとした貴族令嬢を救ったのは、件の王子の姉姫様。パーティー会場から囚われのお姫様を掻っ攫っていくような勢いで連れ出していく様は、だいぶお膳立てされてただろう糾弾の場を見事に台無しにしてその場に居たものたちを置いてけぼりにしてしまったので、これはこれで痛快時でありました。
その後のアニスのユフィへの接し方がまたパーフェクトなんですよね。
次期王妃として幼い頃から両親の期待に応えて努力し続けてきた結果、その尽くそうと頑張ってきた相手からの無情な仕打ち。クール系天才少女とはいえメンタルは決して鋼として鍛え上げられたようなものではなく、むしろ今まで一心不乱に直向きに頑張ってきたからこそ、張り詰めていたものが弾けたように粉々に砕けてしまったのである。
人生を賭けていた相手からの仕打ちに傷つき、自分の存在意義を見失って途方にくれて、期待してくれていた両親や国王陛下に申し訳がなく、自罰的になり虚無に襲われ心がボロボロになってしまった少女を、アニスは労うのである。
よく頑張ったね、お疲れ様、今はゆっくりお休み。と。
その前に、ユフィのお父さんであるグランツ公がちゃんとユフィの心を家族として父親として守ってあげた上で、アニスがユフィを必要だと希ったのも大きかったのでしょう。
自分の価値や意味を見失ってしまった子にとって、必要とされることは拠り所にも成りえますし、決められた事を必死にこなして来た結果こうなってしまった彼女にとって、自分で選択して道を選ぶというのは無視できない意味を有していたのではないでしょうか。

それでも、しばらくはユフィも何をした来のかわからなくて、途方に暮れたままだったんですけどね。そんな風にゆっくり呆けていられるほど、アニスの周りは落ち着いては居られなかった、といことで。
何をしでかすかわからない暴風娘なアニスにあわあわと狼狽えているうちに、見ていられなくなって放っておくとどこに行ってしまうかわからない王女様の方へとユフィが手を伸ばしてしまうのは必然だったのでしょう。
一方のアニスも能天気に見えますが、この子はこの子で抱えているものがあり、その中でも最も大きかったのが魔法が使えないという事実。それだけなら、この子は気にもしなかったのだろうけれど、よりにも寄ってアニスが最も憧れて追い求めてしまったのが魔法そのもの。なのに、魔法の側は徹底してアニスを見捨ててしまっていたわけです。魔法を使えない、魔法に振り向いて貰えないアニスは、魔学という学問を自ら構築して魔法の正体を暴いていくことで、世界の真理を紐解いて魔道具を開発することで魔法に近づこうと夢中になっていたものの、魔法そのものにたどり着けたわけではない。
そんな中で、魔法そのものに愛された天才少女。魔法の申し子と言っていいユフィが他の魔法使いたちが拒否感を示す自分の魔学を肯定してくれて、自分と一緒の道を歩んでくれる、手を取り合って新しい魔法に近づく未来を築いてくれる、となったとき、それは憧れた魔法そのものに認めてもらったと思える事柄だったのでしょう。
お互いに、お互いの存在が支えとなり、指針となり、原動力になる。そんな比翼連理の存在として、結び合う可能性にたどり着いた、この一巻はそんな段階の話だったように思います。
そうして、この二人によって生み出された可能性に魅入られ、その真価を注視しだした人たちもいます。そうでなくても、竜殺しを成し遂げてしまったアニスは一度離脱した王位継承問題に大いに足を突っ込むはめになり、派閥争いの渦中に自業自得で踏み込んでしまうのでありました。
ってか、この爆裂娘が軍人閥、騎士閥から人気があるとはちと予想外。それだけ現地での実績を重ねてしまっているという事か。ユフィとの婚約破棄問題で大いに株を落としてしまった弟王子がちょっとこの段階で非常にやばい立ち位置に置かれてしまってるだけに、王位継承問題かなり闇の深いものになってしまうんじゃなかろうか。
何気に、父親世代からは人気ありそうでも同世代とは凄まじい断絶がありそうだもんなあ、アニスって。次世代を担う若者からの支持が怪しいというのは厳しいものがありそうだけれど、他の貴族令嬢などの評判も含めてどうなってるんでしょうね、アニスとユフィは。
下手すると、魔法革命って文字通りの革命に成りかねないワクワク感があるなあ、これ。