【ゴブリンスレイヤー 10】 蝸牛くも/神奈月 昇 GA文庫

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春、ゴブリン退治の傍ら、葡萄園の警備をすることになったゴブリンスレイヤーの一党。その葡萄園は、女神官の育った地母神の神殿のものだった。そんなある時、女神官が姉のように慕う神殿の葡萄尼僧がゴブリンの娘だという噂が広がる―。周囲の心ない声に胸を痛める女神官、それに対し、迷いを感じるゴブリンスレイヤーはある決断を下す。
「たぶん…今日、明日はゴブリン退治はやれん」
「何をするにしても、頑張ってくださいね!応援、してますから」
街の影を走る闇の仕掛人が暗躍する中、小鬼殺しに手はあるのか!?蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー第10弾!


今回はゴブリンがどうの、というより混沌勢力の静かなる侵攻という奴だったのか。出城とか何とか言われてたのは文字通り、侵攻作戦の足がかりみたいなものだったのね。その中で目をつけられていたのが牧場であり、そのために利用され貶められたのが地母神神殿だったということか。
以前、牧場がゴブリンの集団に狙われたのも偶々ではなかったのだろうか。そこで直接占領が失敗してしまったので、迂遠な計略に打って出た、と。
ゴブスレさんが本当にゴブリンを殺すしか出来ないバーサーカーならこの事態に対処なんて出来なかっただろうし、そもそも気づきもしなかったし気にもしなかったかもしれない。女神官と組み始めて2年が経った、という時間の経過をさり気なく今回は強調していたけれど、女神官から見てこの2年間で成長できただろうか、という自問自答だけではなく言外にこの2年間でゴブスレさんがどれだけ変わったか、どれだけ「人間」に戻れたか、というのも問いかけられている話だったんじゃないだろうか。
というか、お師匠様、ゴブスレさんにゴブリンを殺すための直接的な技術のみならず、裏社会との連絡のとり方とかそんな事まで教え込んでいたのか。半ば狂気に駆られてゴブリンを殺す事に全霊を傾けていた少年に、ゴブリンを殺すことに関係ないだろう技能や人脈を与えていたということは、果たしていつかこの少年が人に立ち戻る事を考えながら仕込んでいたんだろうか。前日譚はまだ読んでないので、実はお師匠さまについては全然知らないんですよね。ただ、これだけ見ているとホントに自分の後継者として考えていたんじゃないだろうか、と思えてしまうわけで。

自分に出来る範囲のことをやる、それ以外は出来る他人に任せる。この他人に頼る、というのは以前の牧場襲撃の時に新たに踏み出した領域だったように思うのだけれど、今回はゴブスレさんさらに踏み込んで新たなあるき方を見出した感じでありました。
その上で、大きな動きとして混沌勢力の侵攻に対抗する動きが生じる中で、自分はゴブリンを殺す、という役割を請け負うあたりがホントこのひとらしくて安心できるのですけれど。

一方で、今回の女神官ちゃんは姉役の葡萄尼僧が貶められて珍しくネガティブな感情に駆られて普段見ない側面を見せてくれたのですが、拗ねたり怒ったり憤激したりするのも可愛らしいというのはさすがである。酔っ払っての暴れ方がまた、ねえ。何だかんだと付き合って宥めてくれる妖精弓手がほんとイイ友達してるわー。
そんなゴブリンと関係ない問題で困り果て苦しんでいる仲間の姿に、あれゴブスレさんめっちゃ困ってましたよね。いつもどおり寡黙に無関心に見えつつ、受付嬢さんなどからもせっつかれたりして、どう動くべきか思いつくまで狼狽えるとまではいかないまでも、落ち着かない様子で結構悩んでいたように見えるんですよね。それがまた終わってみれば微笑ましい。

さり気なく、勇者パーティーを含めてかなりの大人数がこの混沌勢力の密かな浸透に対抗するために動いていたようで、大概チラッとしか登場してませんでしたけれど一応オールスターキャストだったんじゃないかしらこれ。見習い連中が段々と一端になってきているのがまた微笑ましい限り。
勇者ちゃん、普段は正体隠してうろついているのか。一瞬、槍使いの兄ちゃんと話しているの誰か気づかなかったよ。この勇者ちゃん、ほんといい仕事しているというか、まさに伝説的なバトルを繰り広げているにも関わらず、自分だけが戦っているわけじゃないという自覚を持って、事前準備してくれている人や、自分たちの手が及ばない所で活躍する縁の下の力持ちたちを凄くリスペクトしているので、安心できるし頼もしいんですよね。この勇者パーティーが頑張っている限り、一番ヤバい所は大丈夫だ、と思えるわけで。あまり関わり合うことはないけれど、最底辺でゴブリンを狩り続けるゴブスレさんとちゃんと互助関係になってるわけだ。何気に最初にゴブスレさんたちが探索したところが、結果として勇者パーティーが突っ込まなきゃいけない場所だったわけで、彼らがゴブリン退治のために探索して情報を持って帰ったことが、勇者たちによる混沌勢力の撃破に繋がってるわけですしねえ。
また、さらにアングラに沈んだ場所でもギルドに属さない「ならず者(ローグ)」たちの活躍があったりするわけで。ゴブスレさんの依頼によって動いていたローグパーティーがまたちょい役にも関わらず、魅力的な面々だったわけですよ。特に若き密偵とエルフ少女のコンビが初々しくて! あのエルフ少女ってばローグにも関わらず悪擦れまったくしてなくて健気というか密偵の少年への信頼の寄せ方がメチャクチャ可愛かったんですよね。脱出の際にギューッと男の子にしがみついて身を任すシーンなんか、色々とたまらんかった。この闇の仕掛け人チーム主人公の物語が読みたくなるくらい、でありました。

シリーズ感想