【死神に育てられた少女は漆黒の剣を胸に抱く 4】 彩峰舞人/シエラ オーバーラップ文庫

Amazon
Kindle BOOK☆WALKER

中央戦線でアースベルト帝国軍と対峙し、窮地に陥るファーネスト王国第二軍。王国は第一軍、さらにはオリビアが率いる別働隊の救援によって帝国軍を退けることに成功していた。しかし、未だ劣勢を覆せずにいる王国を追い詰めるかの如く、南の雄・サザーランド都市国家連合が動き出したとの凶報が届く―。その折、先の戦功によってオリビアは少将への昇進を果たす。加えて任ぜられたのは、新兵揃いの第八軍総司令官。そんな第八軍の初陣は、王国の南部に迫る脅威、サザーランド都市国家連合の迎撃任務で―!?王国軍“最強の駒”として、常識知らずの無垢な少女が戦場を駆ける、第四幕!

ついに1兵士の叩き上げから十代で将軍位を頂き、新生第八軍を率いる事になったオリビア。この昇進が国王の強権的後押しとかじゃなくて、軍部の将軍たちの推薦でというあたりが興味深い。
というかファーネスト王国軍って、少なくとも今生き残ってる軍司令官たちはみんな優秀なんですよね。それがこうも一方的に帝国に押し込まれてしまったのは国王の優柔不断に振り回された結果なのを見ると、トップの判断がどれだけ重要なのかがよく分かるというもの。
オリビアの活躍によって絶体絶命のほぼ詰んだ状態から何とか息を吹き返すことの出来た王国だけど、あの国王が頭に居る限りあんまり見通し良くないんだよなあ。まあ優柔不断なだけで無茶苦茶なことするわけではないだけマシなのかもしれないけれど。今は軍の統帥権もコルネリアス将軍に預けられて軍の意志統一は図られてるわけですし。ただ、神国メキアの同盟要請やサザーランド都市国家連合の蠢動など外交交渉に重きが置かれる状況になると軍の方は口出しできないし、国王の軽挙がもろに影響してしまうだけに不安がたっぷりすぎる。
後継者については語られたこともないですし、第六軍司令官のサーラ王女は第四王女でどうも政治中枢からは距離を置いているみたいだなあ。
メキアを統べるソフィティーアが王国チョロい、オリビアとかすぐに引き抜けるわー、とか思うのも無理ないのかもしれない。ただ、オリビアが王国に所属している理由ってのは想像の埒外だろうし、今のオリビアは軍の人たちやアシュトン、クラウディアといった仲間たち、部下たちに強い愛着を抱いているようだし、普通の引き抜き条件じゃあ全然引っ張れなさそうなので、オリビアの自由気ままな言動にどう振り回され、振られたときにどんな顔をするのか楽しみですらある。
そんな振り回す側のオリビアですけれど、来た当初には何言われても馬耳東風……いや、結構叱られたら言うとおりにしてたので素直に聞いていたと言えば聞いていたのですが、あんまり応える様子もなく叱った方が頭抱えているような状態だったのですが……。
最近はお説教モードのオットー副官や激オコモードのクラウディアには全く頭あがらなくなってしまっているようで。特に昇進して階級逆転したオットー副官には、偉そうにふんぞり返って調子に乗ったはいいものの、慇懃ちゃんと階級が下らしく丁寧な物言いながら、やっぱり容赦なくお説教でフルボッコにされて、這々の体で逃げ出すはめに。
クラウディアにも、踏んではいけない地雷や超えてはいけないラインや関わってはいけないトランス状態なんかを察知出来るようになって、やばくなったらそそくさと逃げる知恵をつけましたし、エリスの好き好き攻撃の変態性にはドン引きしたり、とオリビアもそろそろ人間の恐ろしさというものがわかってきたようで。
なんで敵じゃなくて、味方や仲間や友人からばかり教わるはめになっているかは不思議ですけど。相変わらず敵相手には無敵無双なのですが。
ともあれ、将帥にまで昇進し一軍を率いるようになっても、場の空気を読まない自由人さは相変わらずであり、そんなフリーダムさをパウル将軍やコルネリアス将軍に愛され孫のように可愛がられているのがこの子のカリスマなのでしょう。
おじいちゃんのみならず、老若男女問わず好かれてますもんねえ。オットー副官みたいな規律に厳しい人ですら、お説教は欠かさないですけど能力を認めている以上にオリビアという人を好ましく思っているからこそ、小言を欠かさないという感じですし、クラウディアがあっちふらふらこっちふらふらして落ち着かないオリビアの世話焼きに終始してるのも、その際立った強さ美しさに魅せられているのもあるけれど、あくまで導入であってこの子は放っておけないという思いからでしょうし。
死神呼ばわりされて他国からは畏怖されているオリビアで、実際浮世離れしている以上に人間からメンタルがズレている人外めいた化け物じみたところがあるのですけれど、排斥でも利用でもなく上官同僚部下たちから愛され好かれ慈しまれているというのが、オリビアに血生臭さに付きまとう仄暗さ陰惨さを感じさせない要因なのでしょう。

しかし、今回は他国の動向もメキアやサザーランドなど内実とともに描かれて、王国の一方的な敗勢がひっくり返った影響が大陸全土に広がっている感があり、時代が動き出したうねりを感じさせる展開でありました。
本作って、小国でも軍司令官はだいたい優秀なのが揃っているので、戦争パートに見応えあって面白いんですよねえ。サザーランド都市国家連合から攻めてきたノーザン=ペルシラ軍のアーサー重銀将なんかは情報収集怠ってたり楽観的な思い込みで軍を進めてしまったり、と凡将の誹りは免れないかもしれないですけど、本来はそこまで無能な将軍ではなかったみたいですしね。まあ見事にオリビア、いやこの会戦では軍師アシュトンの噛ませになってしまいましたが。アシュトンもクラウディアも、オリビアに伴ってわけのわからんレベルの昇進を果たしてしまっているのですけど、それに見合う実力を魅せているのが頼もしい限り。ってか、クラウディア前からアシュトンの事気にしてたけれど、周りの人たちが気づいて生暖かく見守るくらいにはバレバレになってるのかー。というか、クラウディア自身も自覚なさそうだけど、この二人は微笑ましいので上手いこといってほしいなあ。

面白いのは、メキアが味方側として参戦しそうな件もだけれど、帝国サイドでも単なる敵役という風情ではない描写がされてるところなんですよね。特に蒼の騎士団の団長のフェリックスはもうひとりの主人公なんじゃないか、と思えてしまうほど周囲の人間含めて興味深い動向を見せていますし。
やっぱり、死神の力を密かに借りて怪しい動きを見せている帝国宰相が鍵になるのかしら。

次回はついに王国の総力を結集した反攻作戦の開始なので、戦場描写もダイナミックになるはず。楽しみ楽しみ。

シリーズ感想