【天才王子の赤字国家再生術 6 〜そうだ、売国しよう〜】 鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「さて、どうしたもんかな」
青い海と白い雲、燦々と輝く南の太陽を鉄格子越しに眺めながら、ウェインは牢内で呟いた。
ソルジェスト王国との一戦に勝利し、不凍港の使用権を得たナトラ王国は、新たな交易相手を
開拓するため大陸南方に位置する海洋国家パトゥーラに目を付ける。ウェインは一気に話を
まとめるため自ら交渉に赴くが、アクシデントの発生で、なぜか投獄される羽目に!?
パトゥーラ諸島における覇権の象徴・虹の王冠を巡って繰り広げられる骨肉の争い。嵐のような
戦火の中、天才王子が新たな傑物との出会いを果たす、弱小国家運営譚第六弾!
ニニムのピンチに、自分のみを危険に晒すこと一瞬たりとも迷わなかったなあウェイン王子。
やはり彼にとって一番優先スべきは国よりも自分の身すらよりも、ニニムなのか。彼女に匹敵するのって、妹のフラーニャくらいじゃないんだろうか。自分に何かアレばナトラ王国がどうなるかなんて彼には容易に想定が出来ているだろうけれど、そんな万が一すら考慮に値しない。国よりも、あるいは世界の秩序よりも優先スべきものがある。
ウェインの優先順位というのは、やはり物語の根幹に関わるだろう事は忘れないようにしておこう。

今回の地は本国ナトラより遠く離れた南のパトゥーラ。丁度大陸中央の北部、西部と東部の間に位置する小国ナトラですけれど、パトゥーラはそのまま真っ直ぐ南に大陸を下ったその先にある諸島群。直線距離ならともかくとして、海洋貿易を考えるなら大陸を東回り西回りどちらでもグルリと半周しないといけないわけですから、遠いなんてものじゃないんですけれど……同じ東部と西部の交易路を繋ぐ位置にある、というのは実はかなり大きくて重要なポディションにあるんじゃないでしょうか。
これ、直接的な通商面での利益はもちろん無視できないですけど、遠近外交の面で見ると先々考慮して滅茶苦茶重要なお話だったんじゃないだろうか。
そんな船乗りたちの国で出会い友誼を結んだのは、彼の国の第二王子であるフェリテ。丁度内乱中の只中にあったパトゥーラにおいて、クーデターを起こして暴れている兄に抵抗しながらも独自の勢力を持たず、本人も優男で船乗りとしても名声はなく、カリスマにも乏しい。けれど賢明であり物事の見方がウェインによく似たタイプ。でも、性格は素直で穏やかで優しいという男性で……。
これ、綺麗なウェインじゃね? と、ついつい思ってしまったり。
優しくても優柔不断とは程遠く、意志は強く根性もあり、とむしろコヤツのほうが主人公気質なんじゃないだろうか、というくらい真っ直ぐで誠実で知的な青年なんだけど、だからこそウェインの黒さが目立つというか、ウェインって詐欺師だよね、とか乱世の奸雄っぷりが際立ってきてしまうこの対比w
ただウェインの場合、裏表が激しいけれどオモテでもウラでも、どちらの顔でも何気に信頼度は高いんですよね。奸智に長けていても、陥れるのは敵だけで一旦味方になった人は容易に切り捨てない。もちろん、本当にやばくなったら優先度に基づいて切り捨てるんだろうけれど、ウェインの場合はとかく切り捨てなきゃいけない状況まで追い詰められないし、そうならないように二重三重の保険をきかせている。必要とあれば切り捨てるけれど、切り捨てることを前提とした策は立てない。そういう所が信頼感につながっているのだろう。策通りにいかないどころか、想定の斜め上のトラブルが舞い込んできてえらいことになるのも珍しくないどころか、毎回なんだけれど。
とはいえ、今回の大トラブルはあれどうだったんでしょうね。フェリテは実はわざとウェインがやらかしたんじゃないか、と疑ってましたけれど。今回はニニムと一緒の時も顔を青くしてやっちまった!みたいな慌て方はしていなかったので、フェリテの予想は合ってそうなんだけれど。

このパトゥーラでの内乱の顛末は、終わってみると積み重ねた歴史という情報の集積を分析した上での結果。つまり、誰でも利用できる集合知は個人の天才に勝る、という結果だったのは注視しておきたい。虹の王冠という特定の物質による権威の否定であったのも、唯一無二の存在など無い、と主張しているようにも捉えられる。とはいえ、フェリテは無能とは程遠い有能な人物でしたし、見事にカリスマを発揮して思惑様々な海師と呼ばれる独自の船団を有している豪族みたいな人たちを取り纏める統率力を見せているわけで、個人の才能が無意味、と言っているわけではないんですよね。
実際問題、ウェインなんぞ今回率いる兵も王子としての背景もほとんどない状況で、その智謀と腹黒さでフェリテを勝利へと導いたのですから、特異なる才はやはり見過ごせない力を持っているわけで。
今回の一件を裏で糸を引いていた西部諸国の連中だって、キワモノ的特異な才能の持ち主たちなわけですし、グリュエール王なんぞその最たるもの。こういう連中を無視、できるわけないんですなー。
そして、帝国にも才人は無数にいるとウェイン自身も認めているわけで。その筆頭格であるロワ皇女さまはというと……今回、基本帝国関係ないから出番ないはずなのに、チラチラとオチ要員で引っ張られてきてスットボケた顔見せてくれたのは、なんというか嬉しいけど扱いどうなんだろうw でも、トータル1ページくらいの出番だったにも関わらず、ずいぶんネタ的に美味しい振る舞いを見せていて、目立ちまくっていたので優遇されている扱いなんでしょう。うん、ニニムに並ぶヒロインとしての面目躍如だよ、多分。
次回は再び帝国がメインの舞台となるようなので、存分にロワの出番もあるはず。彼女のネタキャラ以外での活躍、期待したいところであります。