【魔弾の王と聖泉の双紋剣(カルンウェナン)】  瀬尾つかさ/八坂 ミナト ダッシュエックス文庫

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ライトメリッツ公国の戦姫・エレンの下で働く弓使いの青年・ティグルと、エレンの副官・リム。故あって二人はいま、ジスタートに突如攻め入ってきた敵国・アスヴァールの真っ只中で孤立していた。
そこで二人は、アスヴァール王女ギネヴィアから、信じられない話を聞かされる。三百年も昔の人間であるはずのアスヴァール建国者・アルトリウスが蘇り、瞬く間に国を掌握してしまったというのだ。
ギネヴィアに協力することになった二人だったが、その前に、ティグルを上回る弓の力を持ち、そしてティグルのことを「今代の王」と呼ぶ謎の男が立ちはだかり――。
魔弾の王VS魔弾の王。異国の地で、かつてない戦いがティグルとリムに迫る。

エレンをメインヒロインとするシリーズを最初に、現在ミラをメインヒロインとする「凍漣の雪姫」シリーズを現在手掛けている原作の川口士先生ですけれど、新たに瀬尾つかささんを筆者に迎えてエレンの副官であるリムをメインヒロインとして新たに繰り広げられるスピンオフというより、完全に新シリーズとなるのがこの「聖泉の双紋剣(カルンウェナン)」であります。
最初はリムがヒロイン!? と、仰天しましたけれど、よく考えるとリムも第一シリーズでは戦姫となる歴史があるだけに、戦姫としてヒロイン張る資格はちゃんとあるんですよね。
それも、ティグルと同じく完全に無名で無冠の所から一緒に成り上がっていくことになるわけだ。
しかしエレンの副官という重要な立場である以上、なかなか自由に動けないだろうにと思ったら、まさかのティグルと二人でのアスヴァールに迷い込んで遭難という事態に。なるほど、これならエレンという星の輝きから解き放たれ、ティグルも他の戦姫と関わる事なく下積みする事ができるなあ、と。
下積みどころではなく、本作ではいきなり竜殺しとしての名望を得て、それを振り回しながら戦う羽目になるのだけれど。
初っ端から英雄として持ち上げられ、その名望に違わぬ活躍を続けるティグル。対してリムは何も持たない所からはじまる。エレンの副官、というよりもう次席司令官であり政務官という公国の実質的なナンバー2であったリムですから、その組織管理能力は際立っていて、偶然行き合い一緒に戦うことになるギネヴィアの立ち上げた反乱軍の、まさに要として活躍する事になるリムなのですけど、その縁の下の力持ちという立場に今まで以上に悩むことになるのです。
まだ子供の頃、傭兵の時分からエレンと共に生きてきたリムにとって、戦姫としてのエレンは親友であると同時にどうしても遠ざかってしまった存在でした。そのことに寂しさと焦燥を感じていた彼女ですけれど、そういうものだと受け止めてもいた。
一方でティグルの事も、このシリーズではリムが最初に見出しアルサスからライトメリッツ公国へと自分が連れてきた存在でありました。前作でも教育係としてティグルに付きっきりでともすればメインのエレンよりも一緒に居たリムですけれど、アスヴァールに飛ばされた今作では文字通り二人きり。二人三脚でサバイバルしなくてはいけない状況になり、よりお互いの存在が他に比べるもののない無二の相手となっていきます。
だからこそ、余計にリムもより切実にティグルの隣に立ちたいという想いを持つことになる。支えるだけではなく、共に並び立って戦いたい、生きたいと願うようになる。
その願いが、彼女の手元に双紋剣を呼び寄せることになるのですが……。神器を手にして戦う力を手に入れながらも、リムの自己評価ってずっと低いままなんですよね。いやもう他の人からシてもティグルからしても、リムってば何でもできるし万能すぎて彼女抜けるとあらゆるすべてがどうしようもなくなってしまう要も要の重要人物、という扱いなのですけれど、ずっとエレンの輝きのもとでやってきたせいかそのあたりの自己認識低いんだよなあ。
でも、そんな自己評価の低さを受け入れて、縁の下の力持ちでいいんだと受け止めていたのがこれまでの彼女なら、そういう自分を脱却したい、ティグルの隣に立ちたいという願いを自覚し、求めるようになったことが彼女の成長であり新たな献身の形なのでしょう。これもまた、可愛い話じゃないですか。
お堅いリムさんが実は可愛いもの好きでぬいぐるみに目がない、というあたりもティグルさん目ざとく拾ってポイント稼ぐの欠かさないあたり、ティグルはリムのことよく見てます。見ているのがほぼリムだけでいい、というのもあるのでしょうけれど。

しかしこれ、厳密に言うとリムって戦姫になったわけじゃないのかしら。同じ双剣でも竜具である「煌炎」バルグレンではないっぽいんですよね。リムの双紋剣(カルンウェナン)って。そもそも泉の精霊から頂いたものですし、双剣の持つ能力もバルグレンとは違っているっぽい。
それはそれとして、まさか「彼女」とリムが戦うことになるとは想像だにしてませんでしたけど。いや、このシリーズの敵が死者から復活したかつての歴史上の英雄たちだったとしても、それは思い至らなかったですよ!
「凍漣の雪姫」シリーズではかつて見ることの出来なかった最強の騎士ロランの活躍を改めて堪能できていますけれど、今作ではもう一人の見ることの叶わなかった「最強」の真価を目の当たりにできるのか。それが敵というのはたまったもんじゃありませんけど。

そして、「凍漣の雪姫」シリーズに引き続き出番ありまくりなギネヴィア王女。「凍漣の雪姫」では兄弟と争うことに後ろめたく複雑な想いを抱いている様子がありましたけれど、今作では身内同士での争いではなく家族の敵討ちという側面もあるだけに、あちらのシリーズよりも後ろ暗さなく背筋がピンと伸びた英雄らしい振る舞いを得ている気がするんですよね。派閥争いなどの変な政治バランスを気にする段階でもないですし。リネットなどの同じ趣味を持った気心のしれた有能な腹心がいる、というのも大きいのでしょうし。にしても、他の戦姫よりもよっぽど出番あるようになってしまったなあ、このお姫様。

瀬尾つかさ作品感想