【董白伝~魔王令嬢から始める三国志~】  伊崎 喬助/カンザリン ガガガ文庫

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心を病んだ元商社マン、城川ささね。中華街で意識を失った彼は、目覚めると幼女になっていた。三国志に悪名を轟かせる、“魔王”董卓の孫娘に。
「って、死ぬだろふざけんな!!!」
このままでは董卓ともども処刑されてしまう。転生って、もっとチーレム無双なんじゃないの?ささねは元商社マンの経験と三国志オタクの知識を使って、生存戦略を図るが―?呂布、曹操、劉備、馬超…。煌めく英傑たちとの出会いが、中原に幼き魔王を誕生せしめる。魔王令嬢が「史」を刻む覇道ファンタジー、堂々開幕!!

董白!? 董白ですかー。色々と三国志系の創作は読んだけれど、董白がメイン級で登場する作品ははじめてみた。何しろ、政局戦局に関わる所にいる娘じゃないですからね。
転生先としては相当にブラックである。ほとんど自力でどうこう出来る地位にないくせに、破滅確定な董卓の孫娘ということで将来は見事に真っ暗なわけですし。これで歴史を変えるのだー、とか言われてもどうせいっちゅうねん。
暴君の代名詞とも言える董卓ですけれど、最近は再評価される向きもあり田舎者だけどわりとマトモな武将である董卓をよく目にしていただけに、ここまで敢然と残虐非道の暴君やってる董卓見るのは久しぶりで、逆になんか新鮮ですらあった。
その悪逆っぷりは凄まじいもので、これは董白じゃなくてもこれだけ恨みや憎悪を身分の上下を問わずに買っていたら、早晩殺されるだろうと想像がつくくらいの酷さでありました。或いは、董卓も自分が殺されるという自覚があっての恐怖ゆえに、過剰なくらいに残虐な行為に夢中になっていたのかもしれませんが。
董白に煽られた時の反応からしても、既に正気を失っていた節もありますし。
いやしかし、董白の煽りスキルは凄まじいですな。口が悪い、という特徴のキャラは珍しくないですけど、あそこまで的確に相手の神経逆撫でする文言を吐けるのはいっそ才能と言えるくらいなんじゃなかろうか。前世ではそれで人生棒に振ったらしいですけど、そりゃ当然でしょう、面と向かってあんな事ばっかり言ってたら敵を作るどころじゃないですよ。しかも、自分で制御できずについつい出てしまうと来た。使うべきときに自分の意志で吐けるのならまだ使いようもあるでしょうけれど、追い詰められて精神的にいっぱいいっぱいになると反射的に口撃に出てしまう、って現代だと自分で致命傷引っ被るようなシチュエーションしか思い浮かばないんですが。
これ、どう生きても結局誰かに刺されて死んでたんじゃないだろうか。
かと言って、生き死にの軽さが現代の非ではない三国時代となったら、もっと簡単にぶち殺されそうなのですけど、董白の身分とその口撃の対象になった人物が董卓にしても呂布にしても、恐怖される対象であって遠慮なくキッツい言葉を浴びせられる事に慣れていなかったせいか、怒りや憎しみに煽られながらも無力な小娘のくせに恐れなく悪口雑言を浴びせてくる董白という存在に当惑してしまい、その場で手を出される事を避けられた、という経緯なんですよね……これ、偶々じゃね?
董卓のみならず、呂布の方もまたこれ怖いキャラになってるんですよね。軽薄極まるチャラ男なのですけど、その武勇はまさに人中の呂布であり一騎当千の化け物であるから腕尽くでどんな相手でもぶち殺せるという自信が漲っていて、地位にも権威にも何らの価値を見出していない。常識も倫理も備えていなくて、だから何をしでかすかわからない底知れなさがその軽薄な顔の裏におどろおどろしく揺蕩ってるのである。これがホント怖い。こんな男に真正面から罵倒するとか、董白ちゃん頭おかしいと思われても仕方ないよ?
ちなみに、呂布はロリっ子に罵倒されて喜ぶたぐいの性癖の持ち主ではありませんので悪しからず。
ほかにめっちゃ喜ぶ人が居たんですけどね。李傕って言うんですけど、その人、ってかその武将。史実でも一時期呂布を破り、董卓軍の後継を担ったようにその軍事手腕は侮れないものを持つ将帥なのですけど、ぶっちゃけただの変態です。
ただ、彼が董白ちゃんの後ろ盾になってくれたお陰で、彼女は命脈を保つことが出来たわけですから彼の存在は何気にめちゃくちゃ大きいんだよなあ。
あれほど魔王、暴君として凄まじい存在感を見せつけていた董卓を、史実よりも早く排除してしまう展開はさすがに予想外でありました。孫娘として可愛がりながら、幼くも色々と小賢しく動き回って生存ルートを確保しようとしている董白ちゃんの才能を、自分のために利用し尽くしてやろう、などと目論んでいただけに、どうやって董卓の魔の手から逃れるか、という所が最初の難関だと思っていただけに。まさか最大の重石が速攻で取れてしまうとは。
ただそれは、同時に最大の庇護者が突然消え失せてしまって、董氏への恨みつらみだけが残った状態で放り出されてしまった、という意味でもあり。いやそれでも、董白ちゃんが董卓軍の全権を引き継ぐ、というのは無理筋でしょう! 親戚筋、みんな継ぐの嫌がって董白ちゃんに押し付けた、ってなってるけど。董卓の息子についてはろくに史料も残ってないみたいだけど、弟の董旻なんかかなり野心家的な動きを、董卓の洛陽入城前後に見せているだけに、大人しくすっこんでるタマでもなさそうなのですが、本作ではほぼほぼ居なくてもいいよ、的に逃げちゃいましたね。
ってか、頭領継がなくても負けたら族滅必至なんだから、もうちょっと頑張れよw

ともあれ、偶々知り合い意気投合、というかロリコン百合だった模様な馬超を護衛役に、軍の統率は李傕を後ろ盾に、となんとか軍を統制し、呂布に裏切られて早速乗り出してきた反董卓連合と渡り合うことに。ここで、董卓自身ではなく董白という小娘という立場が危機とチャンスを両取りすることになるんですね。
三国志の主人公とも言える劉備も終盤で登場してくるのですが……これまた、なんというかびっくりするような設定できたなあ。これはこれで、呂布とは違うベクトルで怖いキャラになってるぞ、劉備さん。
ただでさえやべえ呂布に、いい具合に頭オカシくなってる軍師陳宮が合流してしまったせいで危険度増しまくってる呂布軍が完全に敵に回っている状態で、桃園ブラザーズが味方になってくれそうな可能性がありそう、というのは或いは希望なのかしら。劉備さんの方もあれはあれで、マシィィンて感じで独自の理屈で動いているっぽいのがまた怖いのだけど。

伊崎喬助作品感想