【ロクでなし魔術講師と禁忌教典 16】  羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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魔術祭典の準決勝へと駒を進めたアルザーノ帝国代表選手団。日輪の国のメイン・ウィザード、サクヤとの出会いにより、システィーナは魔術師としての在り方―“汝望まば、他者の望みを炉にくべよ”つまりは、己が望みのために、他者の望みを踏みにじる覚悟を試され―一方、ついにアリシア三世の手記の解読を終えたグレンは、“ルミアの異能”、“天の智慧研究会”、“Project:Revive Life”、そして―禁忌教典の謎に至ろうとしていた。魔術師たちの希望と混沌。魔術祭典決勝を前に、世界を揺るがす前哨の火花が散る!

アリシア三世の手記の内容がちょっとヤバすぎた。あれこれ、ガチで世界が滅ぶ案件じゃないですか。それも、ただ魔王勢力に支配されるとか物理的に破壊される方向の滅びではなく、コズミックホラー案件じゃないですかー!? 外宇宙から現れる狂気の向こう側にいるアレじゃないですかー!
これ、あかんやつやー!
いや、そう言えば前から外宇宙の邪神がどうの、とか言ってた気がしますけど、てっきりせいぜいドラクエの魔王様級の敵を評して大げさに邪神とか、何となくスケール感を出すために宇宙とかいう単語を出しているとばかり思ってて、大して実感らしいものがなかったんですよね。
それが今回、アリシア三世の手記の解読をきっかけにして、一気にこれまで謎とされていた歴史上のあれこれの真実や不明だった部分が明らかになって、世界観の全貌を現すピースが粗方盤上にぶち撒けられたわけですよ。突然、ドバーーっと情報がぶち撒けられて、現在という名の狭いお皿の上に被されていたクロッシュ、あのボウルをひっくり返したような蓋。あれがパカッとあけられて、この物語世界のすべてが広がるテーブルの全貌が視界の前に現れたような、目の前に広がっていた霧が突風によって吹き払われてしまったような。
おおう、畳み掛けてきよったぞ!?
まだセリカの正体など、謎のままの情報は幾つもあるものの、どうしてルミアのような異能者が排斥されるのかとか、アリシア三世の真意とか、つまるところ「敵」の正体など重要な情報のほとんどが明かされ、今まで断線していた幾つものラインが一気に繋がっていったんですね。

そうか、これが。これが本当の【ロクでなし魔術講師と禁忌教典】という物語の世界観だったのか!
全然、思ってたのとスケールからして違ってたんですけど。いや、そもそも登場人物たちの殆どがこの世界の本質についていけていないんですよね。彼らの見ている世界の範囲はとても狭く、自分の認識、価値観、知識の範疇にしかなく、その範囲の中でイス取りゲームをしていたに過ぎない。
戦っている盤上がそもそも違ったわけだ。今まで読者の側の自分も、彼らの見ている範疇での舞台でこの世界観を認識していたがために、今回度肝を抜かれてしまった、とも言えるし。
ラストの国際会議で様々な思惑が錯綜し、自分の野望、希望を叶えんと策謀陰謀が振り絞られて結実しようとしたのが、ジャティスの登場によって全部盤面がひっくり返されてしまったのも、彼らと本物の黒幕たちとではステージそのものが違っていたがために、その本物がオモテにその存在を示しただけでアリシア女王の願いもイグナイトの野望も王国の狂信も天の智慧研究会の暗躍も、意味をなくしてしまったわけだ。彼らの戦っていた盤面は、あくまでこの世界の奥底に潜む本物の盤面の上っ面の片隅に乗っかっているだけの代物であった以上、その深淵から本物の盤面が浮上してきた今、あえなく倒れてその上に乗っていた駒たちは無為に転がり落ちていくしかない。
そういう話だったんじゃないだろうか、これ。
ジャティスは、まさにその深淵を覗いて狂ったのだろうか。或いはアリシア三世と同類なのか。それでも、彼は深淵の真実に足を踏み入れ、その盤上にあがろうとしている人物であったのでしょう。だからこそ、彼はあらゆるプレイヤーの上に立てた。
一方で、グレンもまたその深淵の真実に図らずもどっぷりと首を突っ込んでいる。アリシア三世の手記を見たこともそうなんだけれど、ナムルスと繋がっているように彼こそが魔王の正対位置に居ると言っていい。そして、システィーナ、ルミア、リィエルもまたこの邪神の侵攻に対して、必然的にグレンの傍らに並べられる重要なピースとして位置づけられている、のか。
まだセリカの正体とか、イグナイトの後継となったリディアが妙な雰囲気をまとっていることなど、謎も多いのだけれど、システィーナの一族の宿命、ルミアの血に刻まれた破滅、リィエルの覚醒など、味方側にも英傑の駒が揃いつつある感がビシビシ描かれてるんですよね。思えば、今回の大会ってシスティーナを完成させるための舞台だったと言えますし、若き実力者たちを集結させるための研磨の場であったとも言えますし。
いずれにしても、ラストの展開によって一気に話は加速し、クライマックス突入は必定でしょう。さあ、盛り上がってきたぞ。