【陰に隠れてた俺が魔王軍に入って本当の幸せを掴むまで】  松尾 からすけ/riritto 角川スニーカー文庫

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本当の幸せは魔王軍≪ココ≫にありました

完全無欠の主人公体質な親友の陰に隠れて、本気出す気ゼロだった俺・クロムウェル。
ゆるく生きるつもりだったのに、魔王軍からの襲撃でその日常は一変した。
隠してた“本気の魔法”で魔王に対抗してみたら、いきなり指揮官としてスカウトされることに!?
成り行きで始めた魔王軍の改革だったが、おもいつきの改革案で魔族幹部に認められたり、任務の途中で魔族の幼女を拾ったり、その上サキュバスの美人秘書・セリスと一緒に暮らしていくうちにだんだんと距離が縮まっていって……!

こうなったら、第2の人生、好き勝手に楽しんでやる!
これは俺が魔王軍に引き抜かれて、本当の幸せを掴む物語。

野球やサッカーなんかで元のチームでは実力を発揮できずに燻っていたのが、トレードなどでチームが変わった途端にブレイクするパターン、クロの場合はまさにこれなんじゃなかろうか。
環境が合わなかった。
合わなかったというよりも、幼馴染のライナーばかりに注目や評価が集まってしまう状況にクロ自身が僻んでひねて無気力になってしまっていたんですね。これが突発的に成立した関係性ならともかく、幼い頃から長年に渡って蓄積してきた結果の関係性なものだから、クロ自身置かれた環境状況に馴染んでしまって、自分から積極的に改善しようという意欲が出てこない有様になってしまっていたのでしょう。今更何をシても変わらない、という諦観が彼を縛り固定してしまっていた。
見る限りでは、人間社会の中で別にクロは不当に虐げられていた、というわけではないし、ライナーが恣意的に美味しいところを持っていっていた、というわけではない。純然たるクロの態度や姿勢のもたらした結果でもあったわけですけど、なにかきっかけがないと小さい頃から凝り固まってしまっているものを変えるのは、なかなか難しかったのでしょう。
せめて、ライナーと離れるという選択肢を取れば良かったのかも知れませんが、否応なく腐れ縁でここまで行動を共にしてしまっていた。まあ遠ざかるという行動すら取らないほどに、腐ってしまっていた、とも取れるのですけれど。
なので、図らずも魔王軍に移籍、という形になったのはクロにとって劇的に環境を変える上で幸いなことだったのでしょう。どういう形にしろ、ずっと重石になってきていたライナーという存在が自分の上から取り払われたのですから。
ぶっちゃけね、魔王軍でクロが行ったような積極的でひたむきな頑張りを見せていれば、実力云々関係なくもっとクロムウェルという人間は周囲から認められ、頼られたと思うんですよね。魔王軍が素晴らしいホワイト環境で、属する人員もいい人ばかりだった、というわけではないはず。聞いている限りでは、人間側も魔族側もどちらが良い悪いというのはないみたいですし。
多分に自業自得の範疇ではあったものの、自力ではなかなかどうにも出来なかったのも確かな話。単純に環境変わって、当人によって良かったね、という話なのでしょう。

ただ、そうなると報われないのがライナーなんですよね。腐っていたクロと違って、彼はずっとひたむきに目標であるクロに克つために頑張ってきた子でした。彼が周囲から評価されもてはやされたのは、主人公体質云々じゃなくてその直向きで誠実な頑張りをずっと続けてきたから、なのではないでしょうか。それでも叶わず、本当に欲しい物は持っていってしまうクロに対して思う所も大きかったはずなのに、決して僻まず実力で上回らんと努力し続けていた。諦めてしまったクロに対して、ライナーの方はずっとクロと向き合ってきた、と言っていいんじゃないでしょうか。
それが、一方的な放置である。仕方なかったとは言え、あれだけ努力してきた結果、親友に全部任せて見捨てる形になってしまった。何も報われないまま、好きな人の心も取られたまま、クロの死という結果だけが覆いかぶさってくる。悲劇以外のなにものでもないでしょう。クロも、親友にだけは生存を伝えるとか、配慮してあげてほしかった。魔王軍に言ってからクロの頭にはライナーの事は全然よぎっていないようでしたし。自分の死を告げられた親友がどれだけ苦しむかを、想像すらもしていないようで。
クロにとって、あの幼馴染は本当にただの邪魔な存在でしかなかったのだろうか。友達じゃなかったんだろうか。それが気になって仕方ないし、ライナーが可哀想に思えて仕方ないのだ。

しかし、魔王軍でクロがやってることって、町工場のカイゼン活動みたいだなあ。なんか、スケールが凄くちっさいというか国や種族単位じゃなくて、零細ほどではないけどそこそこの地方都市に根ざしている程度の中小企業みたいに見えてしまうんですけど魔王軍。