【異世界国家アルキマイラ ~最弱の王と無双の軍勢~】 蒼乃暁/bob GAノベル

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国家運営系VRゲーム『タクティクス・クロニクル』で頂点を極めた王・ヘリアンは、ゲーム内の自国ごと異世界へ転移してしまう。そこで出会ったのは、自我を持って行動する魔物の大軍団。そして、元NPCである一騎当千の軍団長たちであった。身分を隠し、臣下と共に探索に出たヘリアンが直面するは、尊厳を踏みにじられながらも巨大なる悪意に抗う無辜のエルフたち。罪なき人々の涙が胸を打つ時、彼は王としての自覚に目覚め、怒りと共に決意する。旗下十万の魔軍で総力をもって非道に鉄槌を下さんと!万雷の雄叫びが世界を揺らす時―無双の融合魔獣が一斉に進撃する!!熱狂を巻き起こす

ああ、本当に凡人の少年なんだ。ゲームの世界に入り込んでしまった、というのとは少し違っていて、ゲームが現実化してしまった上に本来プレイしていた国家運営系VRゲーム『タクティクス・クロニクル』の世界とは別の世界に、自分が率いていた国家アルキマイラの首都だけくり抜かれたように全く見知らぬ異世界に転移してしまったヘリアン。
ゲームのシステムとして、プレイヤーである魔物の軍団を率いる王様だけが人間で、戦闘能力は皆無という設定だったので、配下の魔物たちが反旗を翻したらあっさりと殺されてしまうという最弱設定。しかも、ゲームの設定としても反逆は組み込まれているのだから、そりゃこんな状況なら怯えてしまいますよね。
そう、ヘリアンは能力的にも最弱で、かといってメンタルが強いというわけでもない普通の少年なものだから、このあまりにもあんまりな状況に放り込まれたことで現実逃避し続けるわ、配下の魔物たちの言動にビビりまくるわ、非常に情けない姿を露呈してしまいます。いや、露呈はさせていないのか。そういう自分の身が危うくなりそうな行状については、王としての演技に徹することで何とか覆い隠していくのですけれど、内心は不安に押しつぶそうになっての泣き言ばかり。
だから、彼は本当の意味で最弱の王なのでした。
でも、王様であることだけからは逃げ出さなかったんですよね。それが、この現実化したゲームの世界の中で唯一生き残る術だったとしても、彼は自分と同じく異世界に放り出されてしまった配下の魔物たちの王様、という地位を放り出すことはしなかった。
そして、その玉座に座るという行為だけに汲々とせず、王としての責を果たし続けたのである。

作中で、第一軍団長でヘリアンの第一の側近であるリーヴェが、滅びかけたハーフエルフの王国の若き王女であるレイファを、その能力は歯牙にも掛けないほど差がある弱者であるにも関わらず、絶望的な状況でありながら心折れる事なく自らの民を守るために奔走する彼女を、強者と称して讃えるのですが、その意味でもヘリアンもまた弱さを責任を果たさない言い訳にしない強者なんですよね。
儚くも真剣だった、幼くも本気で自らの身を挺して国を守ろうとしていた小さなハーフエルフの少女との約束を、血反吐を吐くようにその身を削って果たそうとする姿は、決して心弱きモノの姿ではありませんでした。
強い決意からではなく、罪悪感からのものだったとしても、その誰にも有無を言わせぬ鬼気すら漂わせる姿を侮るモノなどいなかったでしょう。その背中にあるのは、確かな王のカリスマでした。
彼の配下である魔物たちが、ヘリアンを慕い忠誠を誓うのは決して勘違いや思い込み、王の演技に騙されたものではないのでしょう。生まれながらに組み込まれた狂信でもない。ヘリオンは王の資質をちゃんと皆に示していたのです。
気づかぬは、当人ばかりなり。だからこそ、自分の情けなさばかりが心に淀んでいくのですが、ヘリアン本人と気づかずに夜の酒場で邂逅したレイファの、本音の感謝と共感が彼に届いたのだと思いたい。
そもそも、このアルキマイラという国家が幾多の種族が共生し、弱きを虐げずに共に生きるという在り方なのがいいんですよね。腹心である第三までの軍団長も、最弱の魔物から育てられて最強に至ったという過程を経ているので、弱いものを見下したり虐げたり侮ったりする考えは毛頭なく、魔物であっても弱肉強食という論理にキッチリと背を向けて、アルキマイラの在り方を自分の在り方とする
事に誇りすら抱いている。側近連中だけじゃなく、この国の魔物たちは多かれ少なかれそうした国の在り方に馴染んでいるので、気持ちいい連中が多いんですよね。
ヘリアンはまだリーヴェ以外は信じきれていないみたいだけど、八大軍団長同士も結構仲いいみたいだし、ヘリアンという弱き王を本当の意味で支えてくれるだろう良い仲間たちであり、良き国だと思うんですよね。そして、彼らとこの国をこんな風に育ててきたのは自分なのだから、彼がもっと自分自身やこの国そのものを信じられるようになれれば良いのになあ、と思ったり。
助けられなかったはずのものを助けることが出来たとき、思わず流した嬉し涙と共にようやく認めることが出来た、これが逃れられない現実であるという事実。それが苦痛だけではない、喜びと幸いになればいいなあ、とこの良き弱き王様の行く末に思いを馳せる。
未だ戦力的には底知らずの無双状態だけれど、本格的にこの世界の国家と接触するようになるだろう次回からはさてどうなるのか。楽しみなシリーズであります。