【スカルアトラス 楽園を継ぐ者 2】 羽場 楽人/ hou 電撃文庫

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―旧人類が滅亡し、遥かなる年月が流れた。長い歴史の空白期間の末、人類は“船”から現れ、港城要塞国家ヴェトセラを建国した。それから千年。古代兵器を駆り神話の獣ドラゴンを討伐したクレイとアジュールはハクア女王の命を受けて、大国ヴェトセラへと赴く。旧人類の遺産と軍事力により繁栄を築く最古の歴史を持つその武装国家で、クレイ達は歴史に隠された世界の真実に触れることに―。そんな中、レーティアと名乗る謎の赤髪美少女との出会いは、国家をも巻きこむ動乱に発展していき…?歴史紡ぐ幻想浪漫譚、第2弾!

後書きで熱く語られた今回の敵役であるヴェトセラ王ファイゼルの話。いや、そういうのは全部作中に盛り込むべきじゃないんだろうか。それを後書きで語っちゃうのはどうなんだろう。
クレイのあるかもしれなかった可能性の姿であり、クレイの生き方に感化される盟友であり好敵手。そんなファイゼルの心の在りようやクレイの存在に向き合ったことへの影響なんかがホントに熱く、詳しく語られてるんですよね。
でも、作中のファイゼルからはそんなの読み取れなかったよ? 彼が父王を殺して王に登極するまでの激動の出来事なんかは描かれていたし、そこから彼がかつての旧人類のように自分の価値観の下に人類を統一するのだという野望というよりも志に近しい思いを抱くに至り、旧人類の滅亡の真実やスカルアトラス誕生の秘密を知ったクレイが、ファイゼルの方向性はかつての人類と似通っているがゆえにそれと対立する姿勢に傾いていく、その流れはしっかりと描かれているんですけどね。
うん、こうしてみると作中で描かれていたのはファイゼル個人ではなく、ヴェトセラ王という肩書を背負った彼であり、クレイが対決するのもそんな王としてのファイゼルだったんですよね。
意外なほど、個人としてのファイゼルとクレイは関わりがない。というよりも、ファイゼルだけがクレイという男に心を砕いていて、クレイの方はそんな個人としてのファイゼルと触れ合う機会がなかったんですよね。
唯一、幼い頃のファイゼルを守って彼の方向性を形作った一旦であるレーティアへの、ファイゼルの気持ちを察したのが取っ掛かりとなり得る部分だったのかもしれないけど、この一件に関してクレイが触れるに至ったのは全部終わってしまった後に振り返った時のことで、物語としてここから何かを動かすという段階ではなくなってしまっていた。レーティアもあんまり触れようとしないまま、ラストまで辿り着いちゃったし。
思えば、レーティアもファイゼル個人に対して色々と思うことはあったと思うんですよね。彼女がファイゼルの有能さを褒めてた時って、あとで明かされた彼女のヴェトセラ王へのスタンスとしてはもっと醒めた距離感でありその有能さを認めるにしても客観的な評価を語っているだけのはずなのに、そこにファイゼルという人間への信頼が垣間見えるようなちょっと温かみの籠もった語り口でしたし。
でも、結局作中ではファイゼルは嫌らしい手段でクレイを邪魔してくる敵役、という枠組みのまま彼個人の存在がクレイの側に踏み込んでくることはありませんでした。ライバルという立場にもクレイの対照となる存在としても物足りなかった。
後書きで語られていた彼の在りようを思えば、描くことは山程あったと思うんだけどなあ。
でも描いてしまうと、もうファイゼルが主人公となる話になってしまっていたかもしれません。それを嫌ったのか。でも、クレイの物語として見るとしても今回の話はクレイ自体があんまりこう、目立っていないというか主人公としての牽引力に欠けていた気がします。化石バカとして物語そのものを引っ張り倒し、他のキャラたちを引きずり回したようなパワフルさが、一巻に比べると彼そのものは変わっていないのに少々おとなしかったような。
というのも、やはりこのヴェトセラでの物語ってレーティアの物語でありファイゼルの物語の場であったから、のような気がするんですよね。クレイはあくまでお客さんだったのに、肝心のファイゼルが奥に引っ込んだまま前に出てこないし、レーティアも奔放に振る舞うわりになんか周りに流されてるようなフラフラとした感じに終始してましたからねえ。
クレイはいつもどおりのクレイのままだったのですけれど、ぶつかり合う相手がちゃんと組合わないままだったので、スルスルと滑るように最後まで行ってしまったような微妙に歯応えのない感じでした。アジュールとレーティアの姉妹という関係も、今ひとつ盛り上がるようなぶつかりあいみたいな認め合うまでの過程のあれこれも少なかったですし。お互い姉妹という関係にしっくりくるまでのあれこれとか美味しい展開のはずなのですけど。
総じてあれこれ骨抜きというか埋めるべきところに身が詰まってない感じが、実に勿体無いという感想でした。
しかしクレイのあの変態的なスカルアトラス好き、ってかあれスカルアトラスにしか異性的な魅力を感じないとか歪みまくってやしませんかね!?

羽場 楽人作品感想