【アガートラムは蒼穹を撃つ 1.三日月学園機関甲冑部の軌跡】 山口隼/たかまる  オーバーラップ文庫

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空を飛ぶ鎧“機関甲冑”の開発により、簡単に空を楽しめる世界。そんな機関甲冑を身に纏って空で競い合う、流行のスポーツ“機関甲冑競技”。高校2年生のHQ・松原優が、幼なじみでプレイヤーの少女・高坂凪と挑んだ全国大会は準優勝に終わった。雪辱を果たすため、今度こそ優勝を誓う優たち。しかし、競技人数の変更によって部員不足となり、部は大会出場すら困難な状況に陥ってしまう。一度は辞めたプレイヤー復帰の選択を迫られた優は、前回覇者であるフェリシアたちとも競い合いながら、再び全国の空を目指す―!蒼穹に憧れた高校生たちの織り成す青春ストーリーが幕を開ける!第6回オーバーラップ文庫大賞・銀賞。
ロボットもの、なんだけれど大きさも2メートルから2.5メートルくらいと本当に小さいので着込むという感覚で甲冑というのは正しい表現なのでしょう。
それに戦闘シーン、空中戦の様相を見ているとロボットものというよりも戦闘機のドッグファイトを連想させられるんですよね。より「飛ぶ」という側面に力が入った描写ですし、人型の印象があまりなくて戦闘シーンをイメージするのが結構難しかった。頭の中に浮かんでこないというか。
いっそ、馬上槍試合(ジョスト)的なものだと思えばいいんだろうか。一瞬の交錯の際の攻防がメインですし。かと言って一直線にぶつかり合うのではなく、広い空の三次元を十分に使い、速度をいかして相手の認識外から一気に詰め寄るのはまさに航空戦のドッグファイト。もうちょっと戦闘シーンのイメージが湧きやすかったらもっと熱くなれたかもしれない。
一度中学で選手として退き、HQ……試合を管制して選手に指示を飛ばす司令の役を担っていた主人公優が、大会規定変更から大会参加のための選手不足に陥ってしまった状況から現役復帰することに、という展開なのだけれど。
かつての名選手が復活して、というわけではなくブランクもあり元々普通に優秀な選手というくらいで壁にもぶち当たっていたレベルなので、復帰したとしてもまず元の技量を取り戻すのに一苦労、センスを取り戻してもそこから伸び悩み、と決して優れた選手とは言えないんですよね。
そもそも、中学の時に一度選手としての自分に見切りをつけてしまった身。潔く見切ったというよりも、心折れてしまったという方が正確な結末を一度迎えていたのである。その折れた心はまだ繋がっていなくて、一番踏ん張らないといけない場面で逃げ腰になってしまう、諦めてしまうくせがまとわりついているのである。そういう悪癖が露骨に露呈してたら対処もしやすかったのかもしれないけれど、この主人公って理屈屋で理論家、ロジック重視の人間なんですよね。だもんだから、一瞬の判断における退きの選択にも、やたらと完璧な理論武装を自然としてしまうのである。冷静に考え分析して判断した結果、退く事にしたのだ、負けてもいい場面だったのだ、と踏ん張れずに諦めて逃げてしまった事について上手いこと言い訳して理由づけして、糊塗してしまう。それも無意識に。だから、自覚もなく薄々気づいてはいるのだけれど直視しなくて済むだけの言い訳を用意できてしまう。それが彼の迷走を長引かせるのである。
そう、イイわけではあっても筋は通っているわけだ。一面において正しいのである。だから、指摘され否応なく自分の心がまだ折れ続けていることに気付かされても、なかなかそれを克服できない。気合と根性は十分で、憧れと目標はちゃんと目の前にあり、それに手を届かせるための努力は欠かさず、必死に身も心もイジメるのだけれど……なかなかそう簡単に一度ハマってしまった陥穽を克服するのって出来ないんですよね。
思考力分析力に優れていて戦闘中でも様々な戦術を練り、状況を考察し可能性を走査していく。頭の良さを現場で活かせる人材である事は確かでHQとしても本当に優れているのだけれど、そのひたすら考える深く思考するというスタイルが、彼の場合戦いにおける集中力を阻害していたんじゃないでしょうかね。秋子を部活に勧誘したさいの勝負で見せたあのギリギリでの局面での集中力はまさしく彼の武器であっただけに、彼の思考が逆に目の前のことに意識散漫になってると思わせられる場面も多かった。なかなか難しいもんですねえ。
そんでもって、理論家であっても感情的にはクールと真逆の激情家な面もある主人公なだけに、鬱屈はわりと用意に表に出る。そうなると、仲間同士の関係も不用意な衝突が発生する。それが幼馴染相手となると、そりゃもう拗れる拗れる。なまじ何でも曝けあってきたと信じるもの同士。一緒に暮らすて気楽に部屋に入り浸るほど、もうビタビタの間柄だからこそ、隠し事したり相手への過剰な感情を持て余して自然に振る舞えなくなると、そりゃもう酷いことになる。
これも幼馴染という関係故なのだろう。でも、そんな拗れた関係を簡単に修復できてしまうのもまた幼馴染という特別な関係ゆえなんですよね。自身の不調、停滞ごと乗り越え克服し、自分をまっさらにして新しく出来るのも、心から信頼して過去から未来までずっと一緒に居続けるという確信があり、望みがある比翼の関係だからこそ、一緒に飛べる空がある。幼馴染万歳三唱、だわねこれ。