【かくりよの宿飯 七 あやかしお宿の勝負めし出します。】 友麻碧/ Laruha  富士見L文庫

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あやかしの営む老舗宿・天神屋で食事処を切り盛りする葵。秋祭りでの営業も盛況のうちに終わり、隠世の中心・妖都へ出張の大旦那様を見送った。ところがその帰りを待つ葵たちの前に、天神屋を目の敵にする大物あやかし・雷獣が現れて、不吉な宣言を下す。鬼神の大旦那はもう戻らない、この雷獣が新たな大旦那となるのだ、と―。天神屋史上最大の危機!銀次たち従業員は団結して動き出す。そして葵も大旦那様を捜すため、妖都へ向かう宙船ツアーの屋台で料理を振る舞うことになり…!?
そうかー、ちょうどアニメ化決まった頃だったのか、この巻出たの。なんやかんやと間があいて随分と積んでしまった。
大旦那様が行方不明になって、今までになく元気なくなってしまう葵。これまでどんなピンチに陥ってもめげずに前向きだった彼女。この隠世に突然事情もわからず連れてこられた時だって、奮起して頑張っていたのに。こんなに不安そうに心細そうにしている落ち着かない葵は見たことがなかったので、随分と読んでるこちらも心揺さぶられてしまった。
いつの間にかこんなにも、大旦那様の存在は彼女にとって重く大きくなっていたのだなあ、と実感してしまう。天神屋自体も大混乱に陥るかと思ったら、そこは白夜さんが取りまとめて方針を示し、それを若旦那の銀次さんが取り回して、他の幹部たちもどんとそれを腰を据えて受けて、と意外なほど混乱なく大旦那不在の状況に対処しはじめたのはちょっとした驚きでした。いや、それだけ幹部連中は頼もしい人揃いだったということでしょうし、個々の持っていた不安要素は何だかんだとこれまでのエピソードで解消されていた、とも言えるのでしょうね。それでも大旦那不在が長く続けばどうなるかわからないものの、当面は落ち着いて凌げそうとなり天神屋そのものの経営には気を回さず、葵の不調の回復に集中できることに……。
結局、葵は自分が大旦那さまを助けることに、天神屋に危機に何が出来るのか。大旦那の帰る場所を守れるのか。料理を作るしかできない自分が、果たして何の役に立てるのか。料理を作っているだけでいいのだろうか、という疑問が湧いてきてしまう時点で地に足がつかなくなってるんですね。

そう、果たして葵が料理を作ることにどういう意義があるのか。家庭料理の延長でしかない彼女の料理が、何をもたらしてくれるのか。それを葵自身が改めて見つめ直す機会だったように思います。
そのための、同じ人間で妖怪に嫁ぎ幸せに暮らす律子さんの元で過ごす日々であり、拒食しつづける幼い王子竹千代への、ご飯を食べることの素敵さを伝えるメッセージであり、かつての大旦那の同志であり伝統を掲げる菓子職人のザクロとの邂逅だったのでしょう。
これまでになく、痛烈に葵の料理の意義を否定するザクロの言葉に葵があまり動揺せずに済んだのは、竹千代の言葉もあったのでしょうけれど、この子の言葉が思い出させてくれたこれまで葵がこの隠世でどのように料理を提供し、どんな妖怪たちにそれを食べてもらい、どんな風に喜んできてもらえたかをちゃんと受け止めていたからなのでしょう。
敵対と言っていいほどバチバチ争っていた折尾屋が、今となっては葵が向こうに行って色々とやらかしたお陰で、今はこうして中央とガチンコでやりあおうかという状況になってもドンと構えて味方になってくれていう、という時点で葵のやってきたことの意義は示されていたとも言えるわけですしね。
もう、葵は自分が料理を作りそれを食べてもらうことへのスタンスを、これまでの経験体験から固めることが出来ていた。今回の一件はそれを改めて見直し、自覚を自信を持って成し続けるために必要なプロセスだったのでしょう。
まだ大旦那様は戻れないし、その正体を暴かれることで大変なことになるという危機は続いているものの、葵の覚悟さえ決まっていればあとは何とでもなりそうなだけに、一山越えたと言えるのでしょう。
何より、大旦那様不在でも白夜さんが頼もしすぎるからなあ。妖王さまにも真っ向から意見できるという謎の存在だった白夜さんの過去も明らかになった回でしたけれど、既婚者だったというのが発覚して大混乱に陥るみんなの姿に苦笑である。でも、その奥さんが天神屋に務める前に亡くなってるとはいえ人間の女性だった、というのはちょっとした驚きでもありました。なるほど、異種婚の実践者であり肯定者でもあったのか、白夜さん。それだけに葵を見る目は厳しくもあり、優しくもあったのか。
次はまた妖都を一旦離れて、天神屋で特に仲の良かった一人である春日が嫁いだ北の地に協力を求めて訪れることに。となると、今度は北方の寒冷地や雪国の料理が出てくるのかしら。

シリーズ感想