【氷川先生はオタク彼氏がほしい。2時間目】 篠宮 夕/西沢5ミリ 富士見ファンタジア文庫

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(氷川先生に恥ずかしい成績なんて見せらんねぇ…!)まもなく始まる中間テスト。寝る間も惜しんで猛勉強を始めるも、無理がたたってダウンしてしまった俺、霧島拓也。俺を心配した、担任&オタク彼女な氷川真白先生からの提案は―「霧島君の家で一緒に住んで―勉強合宿してみようよ!」確かに効果的…いやそれほぼ同棲じゃん!大丈夫です!?「私にあーんされるの、嫌かな…?」「霧島くん、お姉さんとゲームしよ♪」「お風呂…覗いちゃ駄目だよ?」ドキドキしつつも、二人で勉強に励む新生活。一方、ある同級生女子の登場で、俺たちの秘密の関係にも変化が表れて―

重ね重ね、この二人はたまたま先生と生徒であった事実がなかったら普通に仲睦まじい恋人同士になれてただろうことが、学習合宿名目の同棲予行演習という同居生活が思いの外しっくり来るというか、突然一緒に暮らすという状況にも関わらず、自然に上手いこと家事や生活リズムを調整し尊重し合ってお互いが馴染んで楽しく過ごしやすく生活できるスタイルを確立してたあたりからも伺えるんですよね。
一巻で、自分たちは一般的な恋人同士じゃなく、まずオタク同士のカップルであるという前提を再認識できたから、というのもあるのでしょうけど、私生活ズボラ+教師生活の忙しさにあれこれままならない氷川先生を、食事の用意や洗濯など家事周りを請け負う事でサポートしつつ、勉強するときは勉強、遊ぶときは遊ぶ、の切り替えを二人で暮らしていると上手いこと出来ていて、これ同居してた方が氷川先生も拓也もいいんじゃないだろうか、と思えるほどだったんですよね。
両名とも、一人だとどうしても行き届かない、やらかしてしまうタイプなだけに。掃除片付けが出来ない先生は、色んな意味で拓也に面倒見てもらった方が生活環境も整いますし、拓也は拓也で変に無理してしまうところがあるので、誰かの目が届いていた方が良いタイプのようですし。
木乃葉がなんだかんだと家に上がりこんできてたのは、拓也のそういう面があったから、というのも少なからずあったんじゃないかな。

本当に、ただの恋人同士なら何の問題もなかったでしょうに。でも、現実問題として二人の間には生徒と教師、それも担任教師という立場の壁が立ちふさがっている。それは世間の目を気にしなければならない、という点も勿論凄まじく大きいのだけれど、それだけじゃなくて二人の意識の中でも先生と生徒という立場は重りとなって足を引っ張ってきている。
拓也があれだけ勉強に無理をしてしまったのも、先生である真白に対して彼女の生徒である自分が落第生では居られない、という意識が少なからずあったからですし。ただ彼の場合は進路など尻に火がついている部分もあれば、将来を意識している部分もあって、前向きであるとも言えるのですが。
一方で氷川先生の方がより深刻かもしれない。拓也に対して、年上の大人である、彼の教師であるという立場が、彼の恋人であるという自分を必要以上に律してしまっているのだ。本来恋人であるなら当然抱く感情を、教師だからと大人だからと無理やり押さえつけてしまっている。
今の二人の関係の難しさは、氷川先生に慎重に自分を律しなければならない事を強いてはいるのですけど、でも必要以上に自分を雁字搦めに縛っては心に負荷が生じてしまう。我慢はしなければならないとしても、恋人であるなら当然生じる思いを否定するのは、やはり歪みなのだ。
ラストまでの拓也の一途で誠実で直向きな、氷川真白という女性への真っ直ぐな愛情が先生の不安を少なからず解消はしてくれたのでしょうけれど、氷川先生が抱えているあの歪みはまだ消えたようには見えない。彼女の考え方はまだそのままのように見える。一巻でも拓也はだいぶ頑張ってくれて、二人の恋人という関係が楽しく幸せなものだと氷川先生に叩き込んだことで、彼女の自縄自縛を解き放ったように見えたけれど、それでもまだこうして及ばない部分が見えてくる。
多分、その根源こそがエピローグで触れられた彼女の過去。PTAと揉めたというトラブルに起因するのでしょう。次回はそこに踏み込んでいくのか。
拓也が、未だに氷川先生のことずっと「先生」と呼んでいるのも結構無視できない影響があるようにも思えるんですよね。先生って呼ばれ続けてたら、そりゃ自分は先生だという意識は消えてくれないでしょう。

ともあれ、主人公拓也の視線は氷川先生に釘付けで、本当にまったく脇目も振らず一途であり続けている。夏希陽菜はエントリーがどうしたって手遅れすぎていて、最初から終わっているのがなんとも同情してしまう。多分、彼女はまだ始めてすらいないつもりでしょうし。
その点、事情を知っている木乃葉は現状を現実として把握している、のですけどそれはそれで自分はもうお役御免という事実に心を突き飛ばされてしまったのは間違いないだろう。木乃葉の拓也への好意は親愛であり、それが恋心かどうかは彼女自身意識していないだろうけど、当たり前であった居場所が失われてしまう事にショックを受けない人は居ない。無邪気に拓也の後押しをしていたのは自分なのだから、自業自得といえばそれまでだけれどなかなか人間、実際に現実を突きつけられるまで変化が既に起こっている事に気づけないし、受け入れられないものなのだろう。
それを踏まえて、木乃葉が今後どういう行動に打って出るのか。大人しく引っ込むのか、我慢できなくなるのか、いずれにしても無視できないファクターである。