【竜と祭礼 2.伝承する魔女】 筑紫一明/Enji GA文庫

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王都の護りの要「杖壁」が何者かに解かれた。魔法杖職人見習いであるイクスは、姉弟子のラユマタに半ば押し付けられるかたちでその犯人の調査に臨むことになる。

調査の協力者は、竜の杖を持つユーイと同級生のノバ。わずかな手がかりをもとに調査を進めていくうちに、3人はとある村にたどりつく。
その村で自らの出生を知るイクス。「善い」杖を携え、生き方に迷うユーイ。そして、村外れの森に住むという不死の魔女。各者の思惑が交錯するなか、村の収穫祭で明かされる真実とは……。

竜が消えても、物語は続く。竜の魔法が残されたこの世界で――。杖職人たちの物語、待望の第2弾。

イクスはまだ、杖を作れないでいる。いや、作ろうとしないのか。
先の話でイクスの魔力無しという出自は決して杖職人としての致命的な欠陥ではなく、むしろ才能なのだと師が遺した言葉を聞いた彼だが、それで自身の呪縛が解けたわけではなかったのだろう。
生まれてこの方、物心付く頃には杖職人の見習いとして働いていた彼にとって、生来の魔力無しという体質は人生の憂いであったろう。ずっと思い煩ってきた欠落であり、どうしてこのような体質で生まれてきたのか、ずっと疑問を抱いて生きてきたはずだ。それは、自分がどこでどのようにして生まれ、師の下に預けられる事になったのかという出生の疑問にまで遡るモヤモヤだったのではないだろうか。
それは才能だ、などと言われてはいそうですかと喜べるほど、彼も素直ではないだろう。
納得が、すぐに行くわけではない。踏ん切りがつかない、というだけでも立ち止まってしまった今を動かせずに居る理由としては無視できないものだろう。

思えば、なるほど。姉弟子ラユマタはそれこそ本当に全てを承知していたのかもしれない。前作でも亡くなった師はすべてを見通して準備を施していたようだったが、あの師をしてこの弟子あり、ということか。そもそも、久々に顔を合わせて最初の一言が、杖を作っていないらしいな、という確認であり、別れ際の言葉が最初に作った杖を憶えているか、という問いかけだ。
この弟弟子への依頼の真の目的がなんだったのか、透けて見えるかのようではないか。
もっとも、それに気付かされるのはすべてが通り過ぎた後なのだけれど。

これは、イクスのルーツを辿る旅だ。不死の魔女を探し、その伝承を解き明かすフィールドワークが魔女の噂を辿るうちに、訪ね歩き書を調べて回る中でイクス当人との関わりが垣間見えてくる。それは彼の出生に、そして杖職人としての最初の仕事に、つまり彼の在り方のルーツへと遡っていく旅でもあったのだ。
語られる魔女の不死とは、いったい何なのか。人を食う魔女という噂は本当なのか。彼らは幾つかのツテを周り、魔女に関わりがあると思しき人を訪ね、そして噂の魔女が暮らすという深き森に隣接する村へと直接赴くことになる。そこでは、各地で同時期に行われる収穫祭「肉囲」がはじまろうとしている。他所の土地と違うのは、その村の祭りには魔女が現れ人を拐って喰っていく、という話があること。それは昔話ではあっても、決して届かない遠い過去のお伽噺などではなく、村の少なくない人が実際に魔女を目撃していて、かつて赤子が本当に攫われて、そして今もなお森の中で魔女に会って親しく言葉をかわした事がある者が住んでいる、ということ。
そこにあるのは、かつての竜のような消えゆく伝説などではなく、今も渦巻く噂と事実の不確定の混在だった。
錯綜する話の中から、土に埋もれた遺跡を刷毛で丁寧に払うように真実を掘り起こしていくイクスたち。そうして現れてくる真実の姿の中には、どうしてかイクスの過去の断片もが埋もれていて、自然と彼は自分自身のルーツを辿っていく事になる。
彼は、自分の根源を知ることによって納得を得られたのだろうか。少なくとも、はじまりの一歩を進み出すことなく途切れてしまった最初の杖の制作を、彼はようやく終わらせることが出来た。
区切りは、つけられたのだろう。

そう、これは区切りをつけるというお話でもあったのか。ユーイは自分が為すべき道を見出し、ギデンズは長年忸怩たる思いで引きずりつづけた自分の想いに否応なくケリを付け、カミラは自分が犯した罪に区切りをつけた。図書館長のマリも、あの告白によってあの日背を向けたままだった自分に区切りをつけたのだろう。魔女もまた、自身に区切りをつけもう一度愛娘に会いに行く事になった。
区切りをつけて、新しくをはじめる。それは輝かしい未来が待っている、というばかりの事ではない。終わりを受け入れるということでもあるし、その歩む先に苦難や諦めが待っているとわかっている事すらもある。
それでも人は、自らに区切りをつける。今までの自分と、その次の自分を分け隔てて、ようやくその次へと進み出すことが出来る、そんな生き物なのだろう。そうした区切りを越えてなお、伝承されるものがある。伝えたい思いがあり、届かせたい気持ちがある。
イクスには、それが伝わっただろうか。イクスは、ユーイに伝えられただろうか。さて、どういう意味だったのか。
雄弁ではない物語の中で、そんな疑問に思いを巡らせる。それもまた、得難い余韻なのだろう。

とりあえず、ノバが腹ペコキャラだというのは、伝わった。伝わったぞ?