【犬と勇者は飾らない 1】 あまなっとう/ヤスダスズヒト オーバーラップ文庫

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中1の夏、幼馴染に振られたその日に勇者として異世界へ召喚され、魔王を倒して数年ぶりに帰還した佐藤草介―18歳、小卒、老け顔。どこにも就職できずバイト生活を送る草介は、幼馴染との距離感に悩んだり巨乳な同僚(JK)と仲良くなったりと穏やかな日々を送っていた。しかしそんなある夜、地球には存在しないと思っていた“魔術師”と“魔物”の戦闘に遭遇!魔物をあっさり倒した草介だったが、その力を見込まれて魔物討伐に巻き込まれることになり…!?無職と魔術が交差する時、勇者の拳が炸裂する!小説投稿サイト「エブリスタ」で話題沸騰の最強ヒーロー譚、ついに登場!!


小卒で帰還も辛いけど、幼馴染のこと振ったらその日に行方不明になってしまったこづみはこれ辛かっただろうなあ。決して嫌いだとかで振ったわけじゃなく、家の事情でお付き合い出来なかったというのが真相で当人はむしろ魔術サイドから日常側に引っ張り込んでくれた草介の事を本当に特別に思っていたわけですから尚更に。
それでも中学から高校までの六年間なんて青春真っ盛りですから、それだけの間会わずにいたら心残りではあっても現実現在の付き合いもあるから気持ちも遠ざかっていく、となるのが一般人なんでしょうけれど、こづみちゃんの場合家が財閥だったり魔術の名家だったり、という家庭環境もありますから、これ青春なんか送ってる暇なかったんじゃないだろうか。そりゃ6年の空白あっても草介の事一途に思ってたというのも不思議ではないかも。彼女には、他なにもなかったんだろうし。

しかし、草介は草介でいきなり異世界飛ばされるわ、いきなり前触れ無く今度は戻されてしまうわ、帰ってきたら両親亡くなってるわ、自分中学も卒業してない小卒だわ、でまあそりゃ生活基盤整えるだけで精一杯ですわ。周りに気を使っている暇ないよなあ。
ただ相当殺伐とした異世界での戦いを経てきたわりに、草介悪い意味でスレてないんですよね。根性もひん曲がってないし、神経すり減らして日常生活戻れなくなっているみたいな症状もない。
幼馴染に振られて事情も聞かずに海まで突っ走ってしまうような男ではありますけど、基本こいつ精神金属製だったんじゃないだろうか。叩いても折れず曲がらず傲然と自分を維持し続ける鋼の男。
実年齢よりも一回り年嵩に見られてしまうのって、単に老け顔だからじゃないですよ。普段からの物腰が凄く大人びている、というか兄貴じみているというか。どーんと落ち着いていて、揺るぎなさそうなんですよね。それでいて喋ってみると礼儀正しく丁寧な物腰だし、厳つい図体だけど人当たりも穏やかで柔らかい。バイト先のスーパーでよく働けてるのも、店長はじめ従業員がみんなイイ人というのもあるんだろうけれど、草介がそれだけ周囲から信頼されるような振る舞いを普段からしているから、なんでしょうこれ。履歴書で小卒、とか書かれてたらそりゃ書類選考でちょっとご遠慮、となってしまうのも仕方ないかもしれませんけれど、もう適当に高卒、くらいの詐称ならあんまり調べられないでしょうし、通っちゃうんじゃないだろうか。面接、ないしは実際働かせてみたらその実直さはすぐに伝わるだろうし、現場仕事ならすぐに色んな所顔広げられるだろうし、就職はそこまで難しくはないんじゃないだろうか。
てか、強化魔術使えるならもっと体力仕事のバイトすればいいのにw

というわけで、バイト帰りに遭遇した魔術案件に、死にそうになってるヤツがいたものだから首突っ込んで助けたら、その海人な魔術師の学生兄ちゃんに懐かれてしまい、彼ら魔術学生の実習を外部支援者として手伝うことに。
異世界帰りの草介の力は、初見の地球側の魔術絡みのトラブルにも十分通用、どころじゃなく発揮されてしまうのですけれど、最初の高槻くんに先生と慕われてしまうのも、ピンチを助けたティアに深く信頼を得てしまうのも、草介がそれだけ飛び抜けた力を見せたからこそ信用されたという向きはあるんでしょうけど、好意は力を見せたからじゃなくて草介の人柄と頼りがい故、なんですよね。
ただ力の強いだけの得体の知れない男だったら、こうも高槻くんもティアも出会ったばかりの彼に信頼は寄せなかったでしょう。なんとなく、彼があっちの世界でどんなふうに勇者やってたのか思い浮かぶようじゃないですか。
やはり主人公がこの手の好漢だと、話自体が痛快にかっ飛ばしたものになりますねえ。
とはいえ、鋼の男佐藤草介にも柔らかい脇腹はあるわけで。大切な人、幼馴染に拒まれたり否定されたらそりゃ傷つくし、怒ることもあるってなもんです。でも、そういう弱い部分があるのも強いだけじゃない魅力があって、実に良い。
それに、喧嘩になってもちゃんと面と向かって自分の悪かった所を堂々とごめんなさい、と謝れるんだから男前はぴくりとも揺るがない。

しかし、圧倒的な草介の勇者力ですけれど、決して地球側の魔術が貧弱だったり出力弱かったりするわけじゃないんですよね。こづみやティアたちが学生の中でもトップクラスの優秀な連中、というのを差し引いてもかなり強力な魔術をぶちかましてますし、見た目も派手、破壊力も青天井、敵さんときたら下手な軍隊なら一撃で吹き飛ばし、街ごとぶっ飛ばしかねない規模の魔術を揚々とぶちかましていたのですから、決して尋常なレベルじゃないんですよね。
これもう、草介が規格外すぎる。ほんとにチラッと話の中に出た草介の向こうの仲間も、訳のわからん規模の魔法使ってたみたいだし、いったい何と戦ってたんだ、草介たち、異世界で。
魔王じゃなくて、宇宙怪獣とか邪神群じゃないのか?

なにはともあれ、好人物な主人公が実に気持ちよくやることちゃんとやってくれる痛快さで、実に面白かった。異世界帰りの勇者、地球の魔術世界に遭遇してしまう、という導入っちゃ導入な展開でもあり、幼馴染の事情含めて深入りするのはこれからなだけに、次もに期待です。