【夢見る男子は現実主義者 1】 おけまる/さばみぞれ HJ文庫

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同じクラスの美少女・夏川愛華に恋い焦がれる佐城渉は、彼女との両想いを夢見て、めげずにアプローチを続けていた。
しかし、ある日突然、夢は醒める。

「あんな高嶺の花と俺じゃ釣り合わなくね……?」

現実を見て適切な距離を取ろうとする渉の反応に、愛華は呆然。

「もしかして、私、嫌われたの……?」

勘違いの末、焦り慌てる彼女からは無自覚な好意が見え隠れ!?
両片思いのすれ違いに悶絶必至の青春ラブコメ、開幕!

押してダメなら引いてみな、というのは恋愛格言的なものの中では王道定番誰もが知ってるあれやこれ、てなもんでもっとも有名なものかもしれないけれど、意外とこれに従った形のラブコメってあんまり見た記憶がないんですよね。それなりに珍しいパターンじゃないだろうか。
実際、引いて相手を意識させるという展開はそれなりに書くのも難しそうですし。
もっとも、本作では意図して企み、或いは恋愛の駆け引きとしてわざと引いてみた、というものではなく、これまで暴走気味に夢中になり、熱中し、過剰に押し掛けまくっていたのがふとしたきっかけで我に返り、これまでの行状を反省して距離を置こう、とした結果によるもので、下心とか無い考えによるものだから主人公の行動に嫌らしさなどはないのだけれど……。
うん、いきなりこんな風に距離置かれだしたら、冷められた?とか嫌われた? と思われても仕方ないよね。かなり強烈に、関心が失せた、ような態度に見えてしまいましたから。

もっとも、ちらっとだけ描写されていた渉が夏川愛華にまとわりついていた様子は、めっちゃ拒絶されてるし嫌がられてるし人の話は聞かないでまとわりついてくるし、で冷静に見てそれあかんのちゃう?という有様なので、反省した渉がこれあかんやろう、と距離置こうとしたのもわからないでもないんですよね。
とはいえ、実際はどうだったのだろう。周りの反応はあれもう付き合ってるカップル、扱いだったんですよね。愛華の親友である芦田圭も微笑ましく見守っていたのを見ると、決して渉からだけの一方的な関係だったとは思えないんですよね。本気で嫌がってたら、周りだってわかるでしょうし、もし本気で嫌がっていて周りの理解も得られず、だったら愛華の精神面はもっと一杯一杯となって疲弊しきっていたでしょう。つまり、周りから見ても言葉ヅラほどには嫌がっているように見えなかった、それどころかイチャイチャしてるように見えた、という事なんでしょうね。
そのへん、物語の始まりが渉が冷静になっちゃうところから始まって、長きに渡って渉が続けていた愛華へのアプローチがどのようなものだったのか、この物語がはじまるまでの二人の関係が具体的にどんなものだったのか、それを見せてもらっていないというのは前提を見せて貰っていないという感じになっていて、夏川愛華の抱くモヤモヤがいまいち具体的にどんなものなのかが見えてこないんだなあ。

これに限らず、若干置いてけぼりに主人公、登場人物、或いは作者だけが委細承知している納得しているわかっているようなんだけど、読んでるこっちは説明とか描写がないまま間をすっ飛ばされて、わかっている前提で話が進んでいる、みたいな所がちらほら見受けられたような気がします。
物語の展開上必要な「本心が見えない」状態ならいいんですよ。風紀委員長が渉の言動に何か彼女なりに納得したか考えている素振りが見えましたけれど、ああいうのは必要なその登場人物の中だけで生じている考え、であってそれは読者側は想像するだけで今の所はまだ具体的にわからなくても、それはそれで物語としての描写技巧の範疇です。
それとは別に、所々一人合点してそれを前提に話が進んでいく所があって、そのたびに居心地の悪さみたいな置いてけぼりにされてるような感覚を憶えてしまうのでした。
それに、この物語の主題は夏川愛華の引かれて逆に意識してしまう、という展開のはずなんだけれど、その肝心の愛華本人が本当にほったらかしにされて、渉はというと他の女の子の事情に首を突っ込んでそちらの話になっちゃうんですよね。なので、愛華のモヤモヤはこの一巻では本当にただモヤモヤしているだけで、彼女自身困惑しているもののまだ本当に真剣にその感情に疑問を抱き悩みだす段階までは至らないのである。いや、ぐるぐると悩みだして正体がわからないまま憤懣やるかたなくなってはいるのですけれど。
肝心の彼女放ったらかしというのは、どうなんだろうなあ。

では、そのメインたる夏川を放っておいて、ならば主人公である渉について掘り下げていく、或いは現状の彼がどのような心境であるのか、どのような状態であるのかを他の女の子たちと関わる話を通じて詳らかにしていくのか、というと……。
どうなんだろう。よくわかんないんだよなあ。本人は冷静になっただけ、と言ってるんだけれど、自分に自信を失っている、卑屈になってるという風に見られても仕方のない事を言ってるようにしか見えないんだよなあ。本人としては理性的にも自己評価としてもフラットで客観的になっている、と思っているみたいなんだけど。
あれ、姉ちゃんが自分が貶してばかりいたからだ、とショック受けて影で泣いちゃってたのも無理からぬよ。姉ちゃんは悪くないし、普段のクチの悪い思うがままに身内には忖度せずに言いたいこと言ってる姉ちゃんでいいんだ、という彼の言い分は本心だろうし、家族にまで気を使ってほしくない、と思う彼の心持ちはとてもイイと思うんだけれど……でも、実際問題現状のその卑屈で変に身の程を弁えてます、という態度なんとかしないと姉ちゃん絶対気にしたままだぞ。
今の所、渉の精神状態って決して冷静になってるようには思えないんですよね。夢から醒めた、われに返った、と自分を評しているけれど、どうにもふわふわしていて足元がおぼついていないように思えるんだよなあ。なんか変な所で感情的になったりえ? そこで? と思うような所でムキになってたりして、どうにも精神的にも安定しているように見えない、不安定に見えてしまう。
ただ、それが作者が企図したものなのか、それとも本当に渉が冷静に理性的になっているつもりで描いているのかが判別できない微妙さがあるんですよね。
とにかく、ちゃんと夏川愛華と向き合って二人の話にしてくれないと、渉の状態やら何やらも曖昧模糊としてよくわかんないです。本筋を進めておくれ。