【クロの戦記 2 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです】 サイトウアユム/むつみまさと HJ文庫

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武勲を立てたことで侯爵領の領主となったクロノ。山積みの問題を前にして、元の世界の知識を総動員し、女神官や女騎士を仲間にしながら、どうにか領地改革を進めていく。しかし、その知識に違和感を覚えた皇女・ティリアに詰め寄られて―「正直に言え。そうすれば死なずに済むかも知れん」クロノは無事に領地改革を、さらにハーレムを達成できるのか!?そしてまた一人、美少女がベッドに引きずり込まれる!!シリアス&エロスな、大人気エロティック王道戦記、第2弾!

クロノって性欲だけは有り余っているくせに、その手の人にありがちなバイタリティの類は全然ないんですよね。活力に欠けているというか覇気がないというか。
侯爵位を得てしまったにも関わらず、出世欲とか野心が皆無なのはティリアに告げている通りで、この青年どこか草臥れ果てたおっさんめいた所があるのである。すけべえな所も、若者というよりもおっさんじみているし。
一方でやる気がないからと言って、怠惰なのかというとむしろ見ていると勤勉ですらある。決して崇高な理念とか虐げられている亜人たちの社会的地位をあげてあげたいとか、高尚な事は考えていないんですよ。
ただ無責任ではいられない。軍の司令官として、自分の指揮に従った者たちは人間亜人の区別なく、公平に彼らの果たした義務に対して責任を果たさなければならないと考えているし、領主となれば自分が収める土地の住人に対して為政者として責任を果たさなければならないと思っている。
しんどいなあ、と思いながらも、無責任に何もかも放り出すことだけはどうしてもできないのだ。
そういう所こそ、このどこか頼りなくてすけべえなくたびれた青年を、彼の周りに集った者たちが信頼し慕う要因なのだろう。亜人だろうと元盗賊だろうと、やるべきこと為すべき事を誠実にやっていれば、まっとうに報いてくれる。正当に扱ってくれる。身分や種族の差があれど、それは対等な関係をクロノの方から望んで結んでくれるという事なのだ。こちらから後ろ足で砂をかけない限り、彼は絶対に責任を果たしてくれる。
理不尽な境遇に置かれ続けていた人々にとって、それがどれほど尊いことなのか。
亜人部隊の連中も傭兵のケインも、常に理不尽の中にあった人たちなんですよね。今回、クロノのもとに左遷まがいに送られてきた女騎士のフェイも、没落貴族の鈍くさい女騎士という立場で常に虐げられてきた経験の持ち主ですし、エレナもまた女という事でその才を活かせず苦汁をなめ続けてきた。
彼らにとって、当たり前に真っ当に報いてくれるクロノという存在は、理不尽が当たり前にまかり通る世界において無二の存在だったんですね。それに彼、何だかんだと身内になれば善良さと小心さ故に酷いことになるの放っておけない人ですし。後で罪悪感とか後悔でしんどい思いするの嫌で嫌でたまらない、というタイプですし。
でも、軍の司令官らしく「切り捨てる」事も出来るんですよね、彼。罪悪感に苛まれながら、必要な犠牲を冷徹に割り出して、本当に必要なのかと散々苦しみぬくことになるのだけれど、最終的な決断を過たない。これもまた、資質なのでしょう。

面白いのが、長年貧困対策のために農作物の品種改良やクローバーによる土壌改善について研究を続けてきながら、報われること無く研究者でもあり聖職者でもあった父を失い、今も独りで細々と研究を続けながら聖職者として奉仕活動を続けていた神官のシオン。
クロノと出会うことで、彼女とその父の研究は日の目を見ることになるのですが……シオンはそれに対して泣いて喜ぶのではなく、むしろ逆で「なんで!?」と涙混じりに憤り、恨み妬み怒りといった感情をクロノに対してぶつけてしまうのです。
それはもう、八つ当たりという他ない感情なのですけど、理解も出来る情動なんですよね。これまで自分たち親子がどれほど苦しみもがいても、効果を見せても結果を出しても、前例主義や偏見、先入観などから認めて貰えず、受け入れて貰えず、取るに足らないものとして無視され踏みにじられていたものが、クロノが一声あげただけで簡単に受け入れられ、実行に移されることになってしまった。
自分たちのこれまでの苦労はなんだったのか。父は失意のまま没してしまったのに。自分もまたずっと無視され続けていたのに。
「なんで!?」
と、思ってしまう感情は、決して無視できないものなんですよね。
功績を奪われたわけではなく、むしろその知識を生かした農業指導や、新たに立ち上げる幾つかの関連事業の責任者として抜擢される、というこれまでの苦労が報われる状況であったとしても。
理屈と感情は別なのです。勿論、これが八つ当たりにすぎず、理不尽な怒りにすぎず、当然のように別の御仁から正論でバキバキに言われてしまうのですけれど、それでもこういうある種の理屈じゃない生々しい感情を、どうしようもない情動というものを無視せず描き出していくあたりに、この作品の特徴というか面白みが感じられるんですよね。
シオンほど激しいものではないにしろ、他の人達も多かれ少なかれ、この手の理屈じゃないけど自然と起こってしまうもやっとした気持ちとか、ブワッとまとわりついてくる不安とか、迷走気味の思考のよろめきとかが描写される。それが、個々のキャラクターに不思議な存在感というか、息遣いを感じさせてくれるんですよね。

しかし、やっぱりお気に入りは騒がしいアホ双子エルフのアリデッドとデネブである。彼女らのアホっぽい快活さは、なにかと作品そのものを明るくしてくれるんですよね。なにげに、ティリア王女とのファーストコンタクトも果たしてしまってますし。ある意味、化学反応を引き起こしてしまう組み合わせなんだよなあ、双子エルフとティリア王女は。